BY KYOKO SEKINE
超都心にある高級ホテルの理想は、何よりも利便性に集約されると思っていないだろうか。しかし、都心のホテルに求められるのは便利さだけに限らない。むしろ都心にあるからこそ、ホテルではくつろぎたい、仕事を忘れて休みたい、という利用者の本音もあるだろう。使い勝手がよい上に、もし選んだホテルに緑多き環境や静けさがあったら、なにより嬉しい滞在となるに違いない。
洗練された東京のホテルらしさを誇りながら、静謐な時を刻む空間づくりがなされ、ハイダウェイ(隠れ家)のごとくあまり目立たず、“知る人ぞ知る”というプライベートな印象を与えてくれるホテルに出会った。ホテル「アスコット丸の内東京」である。
ロケーションは、東京のビジネス街の中心となる大手町。きめ細やかで上質なサービスを提供し、おいしいレストランがそろう「アスコット丸の内東京」は、その一画にある。住所は大手町1-1-1、まさに大都会東京の中心地だ。
ホテルの所在を示す大きな看板もないことに、タクシードライバーは「最近のホテルはビルの中にあるし、看板が小さくて見えづらくて困るね…」というが、それでいいと思う! いつまでも誰にも存在感を知られないのも困るが、知った人たちが自慢げに“口コミ”を始め、まるで自分だけが顧客であるかのように得意気に吹聴する――これこそが理想的な宣伝になるのである。
「アスコット丸の内東京」は、大手町パークビルディングの22~29階を占有している。ビル1階のホテル専用エントランスからエレベーターでレセプション階に上がると、そこには天井の高い吹き抜けの空間が広がり、全面ガラスの窓の外には、小規模ながら屋外庭園とテラスがしつらえられている。
このロビー空間を彩るのは、世界各国のアーティストが手がけた独創的なアート作品だ。そもそも、レジデンスでも知られる「アスコット」は、シンガポールに拠点を置く世界企業のブランドのひとつである。数々のアートのテイストが、こうしたホテルらしいインターナショナルな雰囲気を醸し出している。
ロビーのあるパブリックフロアには、スポーツジムやエクササイズ用プール、ビジネスセンター、授乳室などがそろい、メインダイニングであるレストラン「トリプルワン」もある。このレストランで提供されるのは、バラエティに富んだシンガポール&チャイニーズ キュジーヌ。朝食には洋食のほか、ラクサや薬膳粥など美医食同源をコンセプトにした品々もあり、ゆったりとした空間でオリジナリティあふれる料理がいただける。
「アスコット丸の内東京」の特徴は客室にもある。各階は日本の四季をテーマに彩られ、それぞれの季節をモチーフにした客室のインテリアは上質感を漂わせている。スタジオ<38㎡>から、3ベッドルームの丸の内スイート<163㎡>まで、カテゴリーも意匠も異なるタイプが130室。
多くの客室に調理器具(キッチンや食器類)がつくほか、部屋によっては洗濯乾燥機まで備わり、長期滞在のビジネス利用者も困らない造りだ。どの客室も大きな窓から日差しが入り、明るさもじゅうぶん。周囲にピタリと迫るビルがないため、都会の空や景色を広々と見晴らせるのも気持ちがいい。
スタイリッシュでモダンなインテリアは、デザインがとがり過ぎず、落ち着いた印象だ。130室もの客室がありながら、むしろブティックホテルのようなプライベート感が漂う。このホテルのそんなぬくもりある雰囲気が、ほっと肩の力が抜けて、自宅でくつろいでいるような安心感につながるのだろう。
アスコット丸の内東京(ASCOTT MARUNOUCHI TOKYO)
住所:東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング 22F-29F
電話: 03(5208)2001
客室数:全130室
料金:¥48,000~(1泊1室2名の室料。消費税・サービス料別)
公式サイト
せきね きょうこ
ホテルジャーナリスト。フランスで19世紀教会建築美術史を専攻した後、スイスの山岳リゾート地で観光案内所に勤務。在職中に住居として4ツ星ホテル生活を経験。以来、ホテルの表裏一体の面白さに魅了され、フリー仏語通訳を経て、94年からジャーナリズムの世界へ。「ホテルマン、環境問題、スパ」の3テーマを中心に、世界各国でホテル、リゾート、旅館、および関係者へのインタビューや取材にあたり、ホテル、スパなどの世界会議にも数多く招かれている。雑誌や新聞などで多数連載を持つかたわら、近年はビジネスホテルのプロデュースや旅館のアドバイザー、ホテルのコンサルタントなどにも活動の場を広げている
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