BY KANA ENDO
歴史が息づく場所・八瀬の文化を再考することで生まれた宿
京都市の北東部、比叡山の麓に、高野川が流れる八瀬という自然豊かな土地がある。八瀬は古くから御所や朝廷との関わりが深い歴史的な場所で、672年に起こったとされる壬申の乱の際、背中に矢をうけた大海人皇子の傷を癒すために村人が献上した“八瀬の釜風呂”を起源とする療養の地としても知られている。そんな八瀬に、“生まれ変わり”をコンセプトにした宿「moksa」が昨年開業した。再生を味わうことができる宿とは一体どんなホテルなのだろうか。
伝統茶と蒸湯で身体の中から巡らせる
「moksa」とは、梵語で“解脱”や“解放”を意味する言葉。現代の暮らしに疲れた身と心を清め、生まれ変われるような体験をしてほしいという思いを込め名づけられたという。八瀬という土地がもつ歴史や文化を活かし、お茶や蒸湯を通して、心身を内外から巡らせ、再生するような感覚を体験できる宿となっている。
日本茶や中国茶は、身体を温め、消化を助けたり、利尿効果を高めたりすることで、身体の巡りを良くすることが知られているが、moksaには薬膳茶や中国茶をいただける茶処「帰去来」があり、丁寧に淹れられたお茶をじっくり味わうことができる。茶人・堀口一子監修の hahahaus の薬膳茶、小慢の中国/台湾茶、一保堂の日本茶を提供し、不定期で予約制の茶会も開催されている。特別な日には、陶芸家で茶人の市川孝によるmoksaオリジナルの「茶車」を用いた茶会を催したり、季節に合わせた和菓子も供される。
また、八瀬には釜風呂という日本最古の蒸湯文化があり、moksaにはこの蒸湯文化からインスピレーションを受けた3種類の完全予約制のプライベートサウナ「蒸庵(ジョウアン)」が作られている。これをプロデュースしたのが、静岡にあるサウナ好きの聖地と呼ばれる「サウナしきじ」の息女で、モデルやプロデューサーとして活躍する笹野美紀恵だ。
「moksaは”生まれ変わり”を体感する宿です。今回私がプロデュースしたプライベートサウナ『蒸庵』は、そのコンセプトを体現する設備の一つとして生まれました。京都・八瀬の水を使い、現時点で私が思うベストの浴室空間、サウナのデザイン、音楽、照明、香りが形になっています。特に3種のサウナのうち“美蒸”は、女性にとって嬉しいと思う機能にこだわり、導入、実現に至りました」(笹野美紀恵)
“炭蒸”は八瀬の小原女文化を象徴する“炭化した薪”をテーマに”無”をイメージした空間。壁面に京都墨を練りこみ黒を基調としたサウナ室が無我の境地へと誘う。 “檜蒸”は比叡山に多く自生し、仏教や神道でも神聖な木材とされる檜をテーマにした空間。檜の香りを感じ、なめらかな木肌に触れ、小鳥のさえずりや木漏れ日に癒される。“美蒸”は体内のコラーゲンを活性化させる特殊な光を用いたミストサウナだ。サウナに欠かすことのできない水風呂には、比叡山の地下水を使用。入り方の提案から始まり、音楽・素材・香り、またゆったりとくつろげるようバスタブにもたれる際のリクライニングの角度や、頭に当たる水の水圧や量に至るまで、笹野氏のこだわりでオーダーメイドしている。血を巡らせ、心をゆるやかに解放させるさまざまなアイデアがつまった、新しいサウナ体験ができる異空間だ。
現代作家の作品に彩られた民族的モダンな空間
都への入口で比叡山の麓であった八瀬は、心身を清める蒸湯文化や京都へ行商に出向く小原女文化など、ユニークな文化が発展した。moksaでは、そんな場所柄や文化・歴史から紐解いた八瀬の独自性をテーマにした様々な現代作家の作品をしつらえ、館内に展示している。これらは京都のギャラリー「tonoto」が監修し、⾃然素材を⽤いた民俗的モダンな作品を随所に見ることができる。
アートギャラリーのようであり、自分だけの秘密のスパのようでもあり、ウェルネスリトリートのようでもあるmoksaは旅の目的地となるホテルだ。京都から少し足を伸ばして、心が解放されるような滞在を体験してみてはいかがだろうか。
moksa(モクサ)
住所: 京都府京都市左京区上⾼野東⼭ 65
アクセス:京都駅より ⾞で 40 分 / 叡⼭電鉄「⼋瀬⽐叡⼭⼝駅」下⾞ 徒歩 5 分 / ⽐叡⼭ケーブル「⼋瀬駅」下⾞ 徒歩 5分 / 京都都バス「⼋瀬駅前」下⾞ 徒歩 7 分
料⾦:38,000 円〜 / 1泊1 名様(*参考価格・税込)(ディナー・朝⾷・サービス料込み)
TEL. 075-744-1001
公式サイトはこちら
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