2024年、ナイツブリッジに誕生したロンドン初となる全室スイートルームの「ジ エモリー」と、1700年代まで遡る歴史を有する「ザ バークレー」。どちらのホテルも歴史と伝統を尊重しながら、レストラン、カフェ、ウェルネスなど数多くの“ロンドン初”を取り入れている。英国の名門であるメイボーン・ホテル・グループに属する2つのホテルの魅力を、2回にわたって紹介していきたい。まず今回は、「ジ エモリー」から――

BY HARUMI KONO

画像: 地下鉄2路線に挟まれた立地に建つジ エモリーは、地下鉄の振動を避ける工事を行うなど、20年の歳月をかけて完成した。ヨットのマストを連想させる最上階のロット(銅管)がホテルのロゴマークになっている

地下鉄2路線に挟まれた立地に建つジ エモリーは、地下鉄の振動を避ける工事を行うなど、20年の歳月をかけて完成した。ヨットのマストを連想させる最上階のロット(銅管)がホテルのロゴマークになっている

 ハイドパークにほど近いナイツブリッジエリア。その中でも世界屈指の高級住宅街ベルグラヴィアに2024年7月にオープンした「ジ エモリー」(以下、エモリー)は、ロンドン初となる全61室がスイートルームのホテル。ロンドンに3軒、アメリカとフランスに各1軒のホテルを擁する名門メイボーン・ホテル・グループ(以下、メイボーン)に、ロンドンで新たに4軒目のホテルが加わったのは、実に50年ぶりのこと。

画像: 最上階(11階)の「エモリー シガー マーチャンツ」。ロンドンのパノラマを見ながら燻らすシガーは、格別なものに違いない

最上階(11階)の「エモリー シガー マーチャンツ」。ロンドンのパノラマを見ながら燻らすシガーは、格別なものに違いない

 20年前に開始したプロジェクトを託されたのはプリツカー賞を受賞した建築家 の故・リチャード・ロジャース。鉄骨にガラス、屋上からマストのように見えるロッド(鋼管)が突き出たモダンな建物だ。同グループの歴史的建造物に指定されている「クラリッジズ」や「ザ コノート」とは趣を異にするが、メイボーンのほかのホテル同様、ホテルブランドの普遍的な価値観と伝統を守りながら、時代に合った新しいテイストを巧みに取り入れている。
 また、エモリーでは、イギリスのシガー文化を尊重し、最上階にガラス張りの「シガー マーチャンツ」とロンドンでは珍しい「ルーフトップ」を設けているほか、ジャン・ジョルジュの「abcキッチン」やウェルネス施設「シュレンヌ」といった、いずれもロンドン初の施設を備えている。

画像: 「エモリー シガー マーチャンツ」の隣にある「エモリー ルーフトップ バー」

「エモリー シガー マーチャンツ」の隣にある「エモリー ルーフトップ バー」

画像: 地下1階から地下4階を占めるウェルネス施設「シュレンヌ」のスイミングプール。シュレンヌには長寿の研究を専門とする医師が常駐し、スーパーモデルとしても著名で、世界的に活躍する栄養士ローズマリー・ファーガソンのカフェも併設。アメリカで人気のトレーシー・アンダーソンのスタジオプログラムもロンドンではここが初導入

地下1階から地下4階を占めるウェルネス施設「シュレンヌ」のスイミングプール。シュレンヌには長寿の研究を専門とする医師が常駐し、スーパーモデルとしても著名で、世界的に活躍する栄養士ローズマリー・ファーガソンのカフェも併設。アメリカで人気のトレーシー・アンダーソンのスタジオプログラムもロンドンではここが初導入

画像: 「シュレンヌ」の女性用更衣室。円形の鏡がモダンなデザイン

「シュレンヌ」の女性用更衣室。円形の鏡がモダンなデザイン

画像: ホテル1階にあるロンドン初進出の「abcキッチン」。ジャン・ジョルジュがニューヨークで展開するオーガニック素材にこだわった「abc キッチン」、「abcコシーナ」,「 abcV 」の3つのレストランを集めたコレクティブレストランだ

ホテル1階にあるロンドン初進出の「abcキッチン」。ジャン・ジョルジュがニューヨークで展開するオーガニック素材にこだわった「abc キッチン」、「abcコシーナ」,「 abcV 」の3つのレストランを集めたコレクティブレストランだ

 エモリーを訪れるゲストが最初に驚くのは、ホテルへのアプローチだ。看板もなく、表通りに入口もない。建物の裏手、石畳の私道にひっそりと玄関がある。ゲストは空港で待機する専用車に迎えられ、ホテルに案内される有料オプションもあり、これこそ“レジデンス”をコンセプトに掲げるエモリーならではのアライバルプロセスだ。また、単独のデザイナーではなく2フロア毎に異なるデザイナーを起用していることも珍しく、全室はそれぞれ個別のデザインになっている。
 そのデザイナーたちは、アンドレ・フー、パトリシア・ウルキオラ、ピエール=イヴ・ロション、アレクサンドラ・シャンパリモー、リグビー&リグビーといった、いわばデザイナーのドリームチーム。モダンな外観とは対照的に、スイートルームは家具やアート作品に至るまで、控えめなエレガンスと温もりに包まれた空間だ。

画像: アンドレ・フー デザインの「エモリー・パークスイート」。リビングルームにはバーカウンターがあり、ドリンクやスナック類を自由に楽しむことができる

アンドレ・フー デザインの「エモリー・パークスイート」。リビングルームにはバーカウンターがあり、ドリンクやスナック類を自由に楽しむことができる

画像: アンドレ・フー デザインの「エモリー・パークスイート」のベッドルーム

アンドレ・フー デザインの「エモリー・パークスイート」のベッドルーム

画像: アレクサンドラ・シャンパリモー デザインの「ハイドパーク バルコニースイート」のダイニングスペース。「次回の滞在のためにほかのデザイナーの部屋をご覧になりたいというお客様のリクエストには、可能な限り対応します」と総支配人コスタス・スファルトス氏

アレクサンドラ・シャンパリモー デザインの「ハイドパーク バルコニースイート」のダイニングスペース。「次回の滞在のためにほかのデザイナーの部屋をご覧になりたいというお客様のリクエストには、可能な限り対応します」と総支配人コスタス・スファルトス氏

 英国王室があるロンドンでは、古くから世界のロイヤルファミリーを迎えてきた。その由緒ある歴史ゆえ、ホテルのホスピタリティは世界でも高い水準だ。とりわけ、英国王室や日本の皇室とも縁の深い「クラリッジズ」と、かつては紹介者なしでは宿泊できなかった「ザ コノート」を擁するメイボーンのホスピタリティはロンドンでも群を抜いている。エモリーではエモリー リエゾンと呼ばれるスタッフが24時間体制でゲスト一人ひとりに合ったホスピタリティを提供する。

画像: 「ジ エモリー」、「ザ バークレー」 総支配人 コスタス・スファルトス氏(Kostas Sfaltos) ギリシア生まれ。プロのバスケットボール選手を目指していたとき、バスケットシューズ購入のため、ラグジュアリーホテルでのアルバイトをしたことがきっかけでこの世界へ。ロンドンの3つの5つ星ホテル、「ワン オルドウィッチ ホテル」総支配人、「ホテル カフェ ロワイヤル」ホテルマネージャー、「ブルガリホテル ロンドン」総支配人を経て2024年9月より現職。

「ジ エモリー」、「ザ バークレー」 総支配人
コスタス・スファルトス氏(Kostas Sfaltos)
ギリシア生まれ。プロのバスケットボール選手を目指していたとき、バスケットシューズ購入のため、ラグジュアリーホテルでのアルバイトをしたことがきっかけでこの世界へ。ロンドンの3つの5つ星ホテル、「ワン オルドウィッチ ホテル」総支配人、「ホテル カフェ ロワイヤル」ホテルマネージャー、「ブルガリホテル ロンドン」総支配人を経て2024年9月より現職。

 ホスピタリティについて総支配人コスタス・スファルトス氏は「日々どのように進化・向上するのかを考えています」と語る。
「コーヒーをサーブする時、カップとソーサーだけでお出しするのと、トレーに乗せてひと口サイズのクッキーを添えるのではゲストの感じ方が違いますよね」と、コーヒーの出し方ひとつとってもスタッフとディスカッションを重ね、細かい部分への気配りを意識している。

 スファルトス氏はまた、「スタッフの隠れた能力とゲストを結びつけることも大切なことです」とも言う。ある日、ガラパーティーに出席するゲストが直前にドレスを引っ掛けて破いてしまった。泣き崩れるゲストを目にして、レセプションのスタッフが裁縫箱を手に部屋を訪れ、破れたドレスをきれいに縫い直し、ゲストは無事にパーティに出かけていった。また、あるゲストはレストランで食事の際に、北イタリアの楽しかった旅の思い出を話し、その後部屋に戻ると、その産地のワインが置かれていた。これらは、エモリーのホスピタリティの豊かさを示すほんの一例にすぎない。

画像: リグビー&リグビーがデザインした「エモリー ペントハウス」のベッドルーム。複数のデザイナーを起用した理由は、ゲストに毎回新しい経験をしてほしいという思いがある

リグビー&リグビーがデザインした「エモリー ペントハウス」のベッドルーム。複数のデザイナーを起用した理由は、ゲストに毎回新しい経験をしてほしいという思いがある

画像: 「エモリー ペントハウス」のリビングルームからはハイドパークを見下ろす景色が広がる PHOTOGRAPHS: COURTESY OF THE EMORY

「エモリー ペントハウス」のリビングルームからはハイドパークを見下ろす景色が広がる

PHOTOGRAPHS: COURTESY OF THE EMORY

 スファルトス氏が目指す日々の進化・向上をスタッフ一人ひとりが受け止め、献身的なホスピタリティでゲストを感動と幸福に包み込む。ホテルで過ごす時間が、かけがえのない時間であることを教えてくれるエモリー。幸せな滞在の終わりに、ゲストがホテルを後にするその時心に感じるのは、『また戻りたい』という気持ちなのだ。

ジ エモリー
The Emory
Old Barrack Yard, Belgravia,
London, SW1X 7NP, United Kingdom
公式サイトはこちら

髙野はるみ(こうの・はるみ)
株式会社クリル・プリヴェ代表
外資系航空会社、オークション会社、現代アートギャラリー勤務を経て現職。国内外のVIPに特化したプライベートコンシェルジュ業務を中心にホスピタリティコンサルティング業務も行う。世界のラグジュアリー・トラベル・コンソーシアム「Virtuoso (ヴァーチュオソ)」に加盟。得意分野はラグジュアリーホテル、現代アート、ワイン。シャンパーニュ騎士団シュヴァリエ。
公式サイトはこちら

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