BY HARUMI KONO
5つ星以上のパラスホテルから個性溢れるブティックホテルが数多くあるパリで、ひときわ異彩を放つホテルが二つある。ひとつは隠れ家のようなホテル、もうひとつはシャトーホテル。この二つのホテルの共通点は、パリの伝説的なブラッスリー「ラ・クーポール(La Coupole)」、「ブラッスリー・リップ(Brasserie Lipp)」をはじめ、日本でもお馴染みのサロン・ド・テ「アンジェリーナ(Angelina)」を所有するベルトラン家がオーナーであること、ルレ・エ・シャトー*のメンバーホテルであること、パリを代表するブランド「ゲランスパ(Guerlain Spa)」があること、そして改装をローラ・ゴンザレスが担当したことだ。ローラ・ゴンザレスはパリの高級レジデンスやレストランをはじめ、ニューヨークのカルティエ マンション、日本ではカルティエ ブティック 麻布台ヒルズ店を手がけ、メディアでは彼女が携わったブティック、レストラン、ホテルの特集が組まれるほどだ。
ルレ・クリスティーヌ

ルレ・クリスティーヌの入り口。建物の入り口が奥まっているのは馬車に乗った人々が訪れる由緒正しい場所だったから。天井の梁が建物の長い歴史を物語る
ソルボンヌ大学があるカルティエ・ラタン、哲学者や文豪たちが議論を交わしたカフェ・ド・フロールとカフェ・ドゥ・マゴがあるサンジェルマン・デ・プレ、藤田嗣治らエコール・ド・パリの画家たちがパリで最初にアトリエを構えたモンパルナスがあるパリ左岸は、パリの文化と芸術が醸成された地区。その左岸の小さな通り、クリスティーヌ通り3番地に「ルレ・クリスティーヌ(Relais Christine)」がひっそりと佇む。ここは1231年に建てられたフランス王家と縁の深いオーギュスタン大修道院があった場所。その後、再建された建物はフランス人一家の私邸を経て、1979年に48室の小さなホテルとして開業した。

朝食から夜のカクテルまでゲストが思い思いに寛ぐサロン。パリの知り合いの家に招かれたような気分になる
中庭を通りホテルに入ると、レセプションの奥に暖炉と大きな本棚が置かれたサロンがある。そこではビュッフェスタイルの朝食のほか、注文したものを自分でオーダー表に記入する自己申告制のオネスティバーがあり、好きな時に好きなドリンクを飲むことができる。館内にレストランは併設されていないものの、ホテルの周りにはレストラン、ビストロ、カフェがたくさんあるので、散歩をしながら好みの店を探す楽しみがある。

窓の向こうにはホテルのプライベートガーデンが広がるガーデンスイートルーム。手前はリビングルーム。ガラスの壁で空間を仕切ることにより採光を確保しながら部屋全体を引き締めている
左岸にある建物はともすれば部屋の狭さが指摘されるが、ルレ・クリスティーヌではその心配はない。部屋のスペースに併せて家具が配置され、十分な採光が取れるように設計されているからだ。たとえばプライベートガーデンがあるスイートルームは、自然光をリビングルームに取り入れるためにガラスの仕切りが作られ、スーペリアルームはバスルームと寝室の間に窓を取り付けることで、明るい光と共に部屋を広く見せる効果を出している。

最上階にあるデュプレックスジュニアスイートの寝室は赤がアクセント。天窓から優しい光が差し込む
ローラ・ゴンザレスは建物の構造を最大限に活かし、最上階をメゾネットタイプのデュプレックスルームにした。パリの建物の特徴である中庭に面した部屋は落ち着いた色調で、まるで静けさを優先したパリのアパルトマンの一室のようだ。
ルレ・クリスティーヌの客室は、ファブリック使いはさることながら、シャンデリアをはじめ、壁に掛けられた照明、ベッドサイドのスタンドなど照明器具の一つ一つが各部屋の個性を際立たせている。

中庭に面したデラックスルーム。パリ左岸の中心とは思えない静けさ

ベッドに天蓋が付いたデラックスルーム。照明器具に客室の個性が現れている

ガラス窓を付けることにより広さを感じるバスルーム。鏡に映る壁紙がフォーカルポイント
また、ゲストが息をのむのが地下にあるゲランスパだろう。オーギュスタン大修道院の石の壁とアーチ型の天井が今も遺されており、見ると、時が止まったような錯覚に陥る。ジャグジー、サウナ、トレーニングルームが24時間使用できるところも、ゲストにはうれしいサービス。まるでパリ左岸に暮らすような滞在をもたらしてくれる。

カラフルなランプシェードがかけられた、地下にあるゲランスパのサロン。2つのトリートメントルームがあり、サロンではゲランの香水と化粧品を自由に試すことができる
PHOTOGRAPHS: COURTESY OF RELAIS CHRISTINE
サン・ジェームス・パリ

パリの高級住宅地16区にあるサン・ジェームス・パリ。パリでは珍しい5,000㎡という広大な敷地を有するシャトーホテル
「サン・ジェームス・パリ(Saint James Paris)」は、凱旋門、ブーローニュの森、そしてモネの作品が集められたマルモッタン・モネ美術館からほど近い、パリ屈指の高級住宅地16区にあるシャトーホテル。地方に行く時間はないけれど、パリでシャトーホテルに泊まりたいという願いを叶えてくれるホテルだ。

サン・ジェームス・パリのレセプション前のロビー。3階まで吹き抜けという、贅を尽くした空間
3階まで吹き抜けのレセプションにある大きな階段が特徴の建物は、アドルフ・ティエール元大統領夫人の私邸を経て、ティエール夫人が設立した「アドルフ・ティエール財団」とその寄宿舎として使われていた。建物の歴史を感じさせる場所は、かつての図書室。現在は「ル・バー・ビブリオテック」(フランス語で図書館の意)という名のバーとして、ゲストを迎える。革で装丁された壁一面の書籍と美しい木の天井は当時のまま。学生たちが必死で学ぶ姿が目に浮かぶようだ。

「ル・バー・ビブリオテック」。革の装丁が美しい古書が並ぶ壁一面の本棚と木の天井を残して当時の面影を今に伝える
客室は様々な要素が折衷するネオクラシックをコンセプトに、赤、緑、黄色とテーマカラーが決まっていて、シノワズリや和の要素を取り入れた東洋美とアール・ヌーヴォーのテイストを随所に感じることができる。また、客室で注目したいのはカーテンの使い方だ。壁の傾斜を利用してバー(棒)を設置し、カーテンのタッセルのように使っている。

赤を基調にしたデラックスルーム。壁の傾斜を利用してバーを取り付け、カーテンのタッセルの役割をしている

黄色を基調にしたジュニアスイートルーム

最上階にあるジュニアスイートルームのリビングルーム。鏡を使って奥行きのある空間を作っている。右側の部屋のシノワズリな柄の壁との対比が際立つ

敷地内にある独立したヴィラタイプの部屋はファミリーに人気。中国の風景画のような壁が一つのアート作品のようだ
PHOTOGRAPH BY MR.TRIPPER

グリーンを基調にした独立したパヴィリオンの寝室。鳥や花が描かれた壁からは自然への憧憬を大切にしたアール・ヌーヴォーのテイストを感じる
PHOTOGRAPH BY PATRICK LOCQUENEUX
サン・ジェームス・パリは5,000㎡という広大な敷地を有し、庭は豊かな自然に恵まれている。その自然を食事で体現したのが、ミシュラン1つ星を有するグリーンスターのレストラン「ベルフュイーユ(Bellefeuille)」。自然と人生へのオマージュをコンセプトにしたレストランだ。シェフのグレゴリー・ガランベイは、子供の頃に母親と共に菜園で過ごした時間が今の仕事の原点だと語る。自然のサイクルに敬意を払い、ルレ・エ・シャトーのメンバーホテルとして環境へのコミットメントに忠実に、食材の選定に注力。パリ周辺のイル・ド・フランス地方で、オーナーが自ら所有する農園にてレストランのために栽培された野菜を中心に、魚介類、肉類も環境に負荷のかからない食材を使用している。

フランス語で「美しい葉」を意味するミシュラン1つ星、グリーンスターのレストラン「ベルフィーユ」。グレゴリー・ガランベイシェフは季節感を大切にした野菜料理に定評がある
春から夏は庭に「ラ・テラス(The Terrace)」がオープンし、パリの空の下でフランスのヴァカンスを体験できる。また、ホテルの地下には、ガロ・ロマン様式の浴場を彷彿とさせる美しいプールとフィットネスセンターを備えた、総面積400㎡の広さを誇るウェルネス施設があるので、ゲランスパでのトリートメントと併せて寛いでほしい。
それでも都会が恋しいというゲストは、一歩敷地を出れば、地元パリジャンたちが行きつけのブーランジェリー(パン屋)、カフェ、花屋が並ぶパリの日常がある。サン・ジェームス・パリではフランスの田舎とパリの日常生活を両方とも体験できるのだ。

春から夏にかけて庭にオープンする「ラ・テラス」レストラン。バーカウンターの壁には花のモチーフで自然へのオマージュを感じる
PHOTOGRAPHS: COURTESY OF SAINT JAMES PARIS
ルレ・クリスティーヌとサン・ジェームス・パリ。どちらのホテルもひと通りのパリを体験した好奇心溢れるトラベラーに、ぜひお勧めしたい。
ルレ・クリスティーヌ
Relais Christine
住所:3, rue Christine 75006 Paris - France
公式サイトはこちら
サン・ジェームス・パリ
Saint James Paris
住所:5 Place du Chancelier Adenauer 75116 Paris - France
公式サイトはこちら
ルレ・エ・シャトー (Relais et Châteaux)
1954年、フランスで発足した非営利団体。現在、世界65カ国、580のホテル、レストランが加盟。加盟には高いレベルのホスピタリティと、その土地ならではの料理を中心に厳格な審査が行われる。2024年、ユネスコとパートナーシップを締結。料理の伝統を守り、生物多様性の保護、人道的な世界への行動をミッションに掲げている。
髙野はるみ(こうの・はるみ)
株式会社クリル・プリヴェ代表
外資系航空会社、オークション会社、現代アートギャラリー勤務を経て現職。国内外のVIPに特化したプライベートコンシェルジュ業務を中心にホスピタリティコンサルティング業務も行う。世界のラグジュアリー・トラベル・コンソーシアム「Virtuoso (ヴァーチュオソ)」に加盟。得意分野はラグジュアリーホテル、現代アート、ワイン。シャンパーニュ騎士団シュヴァリエ。
公式サイトはこちら
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