日本各地に眠る伝統文化や歴史、自然、地産物。地域のオリジナリティを資産として再発見する地方創生プロジェクトが、近年、至る所で行われている。その中で、野外レストラン「ダイニングアウト」が面白いのは、世界的な料理人がリサーチャーとして関わっていること。そしてそれを、誰にでもわかる、最もシンプルかつカルチュアルな「食」という形で体験できることだ。


 第11回めとなる今回の舞台は、北海道・ニセコ。言わずと知れたこのウィンタースポーツの聖地で、「ダイニングアウト」があえてフォーカスするのは夏の魅力だ。担当するシェフは、イタリア・ミラノ「Ristorante TOKUYOSHI」のオーナー徳吉洋二。自身のレストランを開店して10ヶ月足らずで、現地の日本人オーナーのイタリアンとして初めてミシュランの星を獲得した世界最注目のシェフである。



会場の入り口には、羊蹄山の火山岩が置かれていた



ホストを務めたコラムニストの中村孝則さん(左)と徳吉洋二シェフ



 当日までシークレットにされていた会場は、ニセコのシンボルである羊蹄山を眼前にのぞむ場所。

「ここは、ある英国人フォトグラファーの私邸の庭。ニセコの方もほとんど知らない、羊蹄山を眺めるベストスポットを特別にお借りしました」と、ホストを務めるコラムニストの中村孝則さん。この羊蹄山こそ、重要なモチーフだ。「今回のダイニングアウトのテーマは、”羊蹄山が奏でる万物の自然四重奏”。6000年前まで噴火活動を繰り返してきた羊蹄山のエネルギーとしての火。その火山灰が積もってできた土。羊蹄山に濾過され、山の麓で湧き出す水。そして、山から吹き下り、大地の新緑の香りを運ぶ風。今回、徳吉シェフは、この羊蹄山にまつわる4つの要素からニセコの自然を料理で表現してくれました」


 ディナーは、日本料理のつきだしにあたる「ストゥッツィキーノ」からスタートした。



ストゥッツィキーノの8品。中央は、サーモンとヨーグルトのクリームに

いくらとチップスを乗せた『羊蹄山』。

(左上から時計回りに)540というジャガイモのコロッケに

ソーセージのエスプーマ(泡状)を添えた『火山岩』。

食後の一杯として、ウィスキーの瓶を氷漬けにした『雪解け』。

ホタテの天ぷらに赤座の葉を刺した『草と根っこ』。羊肉のつくね『羊毛』。

鍬を模した器に、トマトやいちご、ラディッシュを刺した『備中鍬と野菜』。

北海道の特産カスべ(えい)のほほ肉をムニエルにし、

”とんがりキャベツ”で包んだ『トンガリタコス』。

『ニセコの瓜科』は、キュウリやスイカのサラダをメロンの容器に入れて



 料理に合わせて、器もすべて特注。テーブルに8品のストゥッツィキーノが並ぶと、羊蹄山を真ん中にしたニセコの風景が浮かび上がるという演出だ。途中、徳吉シェフが各テーブルを挨拶に回る。そこで彼が語るウィットに飛んだ現地での裏話も、味覚や視覚を超えて、ニセコの姿を生き生きと連想させてくれた。


 たとえば、真っ黒いホタテの天ぷらに、赤座と呼ばれる野草を刺した『草と根っこ』。この赤座はニセコの至るところで自生しているものの、食用にされてこなかった。畑でこれを見つけた徳吉シェフは「イタリアではご馳走なのに!」と率先して使うことを決めた。また、羊肉のつくね『羊毛』が生まれたのは、廃校で羊を飼育し、その羊毛を使って創作活動を行なっているアーティスト夫婦との出会いから。今回の羊肉は彼らが提供してくれたものだという。


 現地でのリサーチに加え、徳吉シェフは、食材の組み合わせや調理方法を元素レベルから考えるという。このガストロミー(分子料理)的なメソッドは、4つの要素でニセコの自然を表現するというコンセプトにもマッチしている。ただ、そのためには、味の要素をバラバラに分解するという科学者的な思考だけでなく、それを組み合わせ、新しく再編集する芸術家的なセンスも試される。「それを受け入れるほどのパワーが、この土地の食材にはあるんですよ」