地方創生を「食」で提案する「ダイニングアウト」。イベント初となる北海道の地に、世界が注目するイタリアンシェフ徳吉洋二が挑んだ

BY MASANOBU MATSUMOTO

 続く8種類のメインには、さらに「色」がテーマに加わった。はじめの皿は「赤」。『花咲蟹のクロスタティーナ』と名付けられたその料理は、赤い特注の皿に花咲蟹の甲羅が置かれていた。甲羅の蓋を開けると、イタリアの伝統菓子クロスタティーナに模されたタルト。そこに盛られていたのは、ゆでた花咲蟹の肉をパプリカやトマトなど赤い野菜に合わせ、カタラナソースで和えたものだ。会場はどよめいた。そう、この色には驚きがある。

 徳吉シェフは、ニセコを訪れる前、ある写真を観た。冬に一面を真っ白に染めた雪が溶けるとニセコに、ほんの短い期間だけ夏が訪れる。そこに芽吹いた草花の緑や黄色に彩られた風景写真に、強く心を打たれたそうだ。
「これだけ色彩が豊富な土地なんだという驚きがありました。だから、食材の味だけでなく、土地が与えてくれる驚きも共有できれば、と」

画像: 赤を表現した『花咲蟹のクロスタティーナ』。それぞれのメインには、ペアリングのアルコールとお茶も提案された

赤を表現した『花咲蟹のクロスタティーナ』。それぞれのメインには、ペアリングのアルコールとお茶も提案された

 徳吉シェフのミラノ店と同様に、メインの料理には、すべてブロード(だし汁)が添えられる。「日本の料理には、汁物がついています。僕の場合は、お皿の中でも使っている食材をひとつ選んで、スープにして出しています。それによって料理の素材の味が引き立ったり、調和したりするので」。“クチーナ・イタリアーナ・コンタミナータ(日本とイタリアを融合させた料理)”を料理哲学にもつ、彼の真骨頂だ。

画像: (左上から)『魚拓』と松の実のミルク。青トマトとオリーブのコールドプレスジュースが添えられた『ユリ根とアーモンドのキタッラ』。ローストした鳩をハーブで包んだ、緑の『小鳩』のブロードには、焼きトウモロコシを使用。黄の『雲丹とサフランのリゾット』は、インカの目覚めとハーブを煮込んだブロードをアクセントに


(左上から)『魚拓』と松の実のミルク。青トマトとオリーブのコールドプレスジュースが添えられた『ユリ根とアーモンドのキタッラ』。ローストした鳩をハーブで包んだ、緑の『小鳩』のブロードには、焼きトウモロコシを使用。黄の『雲丹とサフランのリゾット』は、インカの目覚めとハーブを煮込んだブロードをアクセントに

 ふと息を飲んだのは「紫」。紫の皿の上に、ラベンダー色に染めたソースを添えたエゾシカの肉が盛られている。「紫は、肉料理では絶対に使われない色。そもそも料理で色をテーマにするというストレートな表現は、一歩間違えれば挑発的にも下品にもなりがち。そのギリギリなところをモードに表現しているのが、徳吉さんのスゴさでしょう」とホストの中村さんも唸った。

画像: 紫の『蝦夷鹿とラベンダー』は鹿の骨つきロースとビーツのジュース。火で炙ったラベンダーを添えて香りを強調した

紫の『蝦夷鹿とラベンダー』は鹿の骨つきロースとビーツのジュース。火で炙ったラベンダーを添えて香りを強調した

 次々とテーブルの上の「色」が移ろううちに、羊蹄山はすっかり闇夜に消えていた。松明に灯された会場で、茂呂剛伸さんによる縄文太鼓の演奏が始まった。じつは、北海道では縄文土器が発掘されており、アイヌ民族とは別に縄文人も暮らしていたことがわかっている。縄文時代は、貧富の差ゆえの争いがなかったとも言われている。自然の中で、平和を愛した時代だ。

画像: 「自然と共に平和を愛してきた縄文人の記憶の音を鳴らしたい」と茂呂さん PHOTOGRAPHS: Ⓒ ONESTORY

「自然と共に平和を愛してきた縄文人の記憶の音を鳴らしたい」と茂呂さん
PHOTOGRAPHS: Ⓒ ONESTORY

 茂呂さんは、縄文遺跡の1万年前の土を特別に採取して、土器を焼き、エゾジカの皮を巻いて太鼓を作る。「エゾジカは、年間10万頭も駆除されています。狼が絶滅したことで繁殖していているんです」と語りながら、北海道の自然観と平和への望み、そして今、世界で叫ばれている生物多様性の本質を音で伝えた。

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