本国のフランスを中心に再評価が高まる「ナビ派」に属する画家、ピエール・ボナール。奥行きがなく、モノとモノの境界も曖昧。ぼやけた印象さえ与える、その絵画作品の"革新性"とは――

BY MASANOBU MATSUMOTO

 人は、両眼を使って奥行きを認識する。絵画ではどう表現すべきか。また人はよく"見間違い"があるように、目からの情報だけでなくいろんな経験をもとにモノを見ている。そうしたオブセッションを排除した純粋な視覚というものは、キャンバスの上でどう表現できるのか。

 それは、絵画の表現・様式の拡張ではなく、どちらかというと、脳科学や認知科学、知覚生理学などサイエンスの領域にある謎を、アートで究明しようとする行為だ。もちろん当時の絵画のトレンドから外れたボナールのこうした試みは、周囲からはよくわからないものに見えたのかもしれない。パブロ・ピカソは、ぼんやりと、色もまばらなボナールの絵を「不決断の寄せ集め」と強烈に批判し、多くの美術批評家たちもそろってボナールの作品を無視した。

画像: ほかの写真をみる ピエール・ボナール《化粧室 あるいは バラ色の化粧室》 1914-21年 油彩、カンヴァス 119.5×79cm オルセー美術館 © RMN-GRAND PALAIS (MUSÉE D'ORSAY) / HERVÉ LEWANDOWSKI / DISTRIBUTED BY AMF

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ピエール・ボナール《化粧室 あるいは バラ色の化粧室》
1914-21年 油彩、カンヴァス 119.5×79cm オルセー美術館
© RMN-GRAND PALAIS (MUSÉE D'ORSAY) / HERVÉ LEWANDOWSKI / DISTRIBUTED BY AMF

 しかし、ボナールとピカソのどちらが先見的で革新的であったか、現代人にはわかるはずだ。ボナールが情熱を注いだ“見るということは何か”というテーマは、のちに写真や映像も芸術表現の対象となっていく20世紀の視覚芸術において、中心的な主題になっていく。ボナールが絵画化した“ものの見え方”は、“人間の視野は均一ではなく、周縁部にいくほどぼんやりと曖昧になり、また遠くのものは平面的に見え、近くのものは歪んで見える”という、現代の知覚生理学が指し示しているものからハズレていないように思える。

 ぼんやりと曖昧に描かれているのは、本当はそう見えるから。絵画は、ボナールが見たものを純粋に追体験させる。そこに、ボナールの絵画を見る楽しさと、他の画家の絵にはない価値がある。

画像: ほかの写真をみる ピエール・ボナール《ル・カネの食堂》 1932年 油彩、カンヴァス 96×100.7cm オルセー美術館(ル・カネ、ボナール美術館寄託) © MUSÉE D'ORSAY, DIST. RMN-GRAND PALAIS / PATRICE SCHMIDT / DISTRIBUTED BY AMF

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ピエール・ボナール《ル・カネの食堂》
1932年 油彩、カンヴァス 96×100.7cm オルセー美術館(ル・カネ、ボナール美術館寄託)
© MUSÉE D'ORSAY, DIST. RMN-GRAND PALAIS / PATRICE SCHMIDT / DISTRIBUTED BY AMF

オルセー美術館特別企画 ピエール・ボナール展

会期:〜12月17日(月)
会場:国立新美術館
住所:東京都港区六本木7-22-2
開館時間:10:00〜18:00 ※金・土曜は〜20:00
休館日:火曜
観覧料:一般¥1,600、大学生¥1,200、高校生¥800、中学生以下無料
電話:03(5777)8600(ハローダイヤル)
公式サイト

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