今回のリストは、日本における現代アートの祭典『六本木クロッシング 2019展:つないでみる』。そして、余命宣告を受けた佐藤雅晴の個展『死神先生』

BY MASANOBU MATSUMOTO

『死神先生』|KEN NAKAHASHI

『六本木クロッシング 2019展:つないでみる』にも映像作品《Calling》を出展している佐藤雅晴。ビデオカメラで捉えた風景の一部をトレースし、アニメーションを描き加えた映像作品で知られるが、KEN NAKAHASHIで開催中の個展『死神先生』では、アクリル絵の具を使った平面作品を発表している。

 タイトルの『死神先生』は、佐藤に冷ややかに余命宣告をしたドクターのあだ名。2017年9月、8年間がんと闘病してきた佐藤は、余命3カ月であることを告げられる。老朽化のため取り壊しが決まっている自宅で療養生活を送るなかで、佐藤は、家の中の“親しみのある光景”に目を向けた。

画像: 《夜空》 2018年 木製パネルにアクリル絵の具 84.1×59.4cm

《夜空》 2018年 木製パネルにアクリル絵の具 84.1×59.4cm

 抗がん剤の治療を始め、不安でなかなか寝つけなかった夜に寝室から眺めた《夜空》。余命宣告を受けたことをSNSで告知して以降、見舞いに訪れてくれる友人たちが鳴らす《チャイム》。築60年以上にも関わらず、登り降りの際にまったく軋む音がしない丈夫さに憧れてこの家に住むことに決めたという《階段》。

 家の中に《ダンボール箱》が異常に増えたのは、最近住み始めた猫のハナちゃんの格好の遊び道具になっているから? もしくはネットでの買い物が増えたから? ーーどちらでもいいや、と佐藤は思い、《ダンボール箱》の絵を描いて、もうひとつ増やしてみようと企む。また、《コンセント》を見ては、小学生の頃に、鼻の穴のかたちが細長かったことから “コンセント”とニックネームがつけられた友だちを思い出す。

 家とともに消えていくこうした存在を、佐藤は一度写真に収め、ほぼ原寸大にトレースして絵にした。このトレースという作業は、彼が映像作品を作る際にも必ず行う重要な制作プロセスだが、今回はデジタル処理ではなく、絵の具を画面に塗るという身体的行為。それは佐藤にとって心地よく、楽しいものであったという。

画像: (左)《チャイム》 2018年 木製パネルにアクリル絵の具 45.5×38cm (右)《階段》 2018年 木製パネルにアクリル絵の具 91×65.2cm

(左)《チャイム》 2018年 木製パネルにアクリル絵の具 45.5×38cm
(右)《階段》 2018年 木製パネルにアクリル絵の具 91×65.2cm

画像: (左)《ダンボール》 2018年 木製パネルにアクリル絵の具 35.6×43.2cm (右)《コンセント》 2018年 木製パネルにアクリル絵の具 18×14cm PHOTOGRAPHS: © MASAHARU SATO, COURTESY OF KEN NAKAHASHI

(左)《ダンボール》 2018年 木製パネルにアクリル絵の具 35.6×43.2cm
(右)《コンセント》 2018年 木製パネルにアクリル絵の具 18×14cm
PHOTOGRAPHS: © MASAHARU SATO, COURTESY OF KEN NAKAHASHI

 ギャラリーの出口の扉の上には、時計を使った立体作品も飾られている。文字盤がなく、秒針だけが静かに回り続けるこの作品に、佐藤はこんな言葉を寄せている。「当たり前のようなことですが、『現在=今』という瞬間を楽しむことが最良の過ごし方だと、今更ながら気付いたのです」

『死神先生』
会期:〜3月16日(土)
会場:KEN NAKAHASHI
住所:東京都新宿区新宿3-1-32 新宿ビル2号館 5F
開館時間:11:00〜21:00
休廊日:日、月曜
電話:03(4405)9552
公式サイト

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