モネやゴーギャン、ウォーホルといった歴史に名を遺す偉大な芸術家たちが、もしもインスタグラムに投稿したらーー? ユニークな“想像上のインスタグラム”アートブックを上梓したイラストレーターのジャンフィリップ・デロームにインタビュー

BY KANAE HASEGAWA, PHOTOGRAPHS BY SHINSUKE SATO

 もしも偉大な芸術家たちの生きた時代にインスタグラムが存在していたら、彼らはどんな投稿をしただろう? 決して見ることのない想像上のインスタグラムを描いたアートブック『Artists’ Instagrams: The Never Seen Instagrams of The Greatest Artists』(美術の巨匠たちの未だ見ぬインスタグラム集)がこのほど発刊された。

『Artists’ Instagrams』の作者は、フランス人イラストレーターのジャンフィリップ・デローム氏。1980年代から各界の名士のポートレートや都市の風景を描き、写真では表現できないユーモアとその鋭い観察眼でデザイナーからの信望も厚いイラストレーターだ。普段は米国のクオリティマガジン『The New Yorker』、クレジットカード会社の会員誌『Departures』のほか、ファッションブランドからの依頼でイラストを手がけることの多い彼が、自ら企画した最新作がこのイラストブックである。

画像: ジャンフィリップ・デローム 著 『ARTISTS’ INSTAGRAMS:The Never Seen Instagrams of the Greatest Artists』¥4,000/August Editions(2019年4月23日発売) amazon.co.jp

ジャンフィリップ・デローム 著
『ARTISTS’ INSTAGRAMS:The Never Seen Instagrams of the Greatest Artists』¥4,000/August Editions(2019年4月23日発売)
amazon.co.jp

 本の中には、印象派の画家クロード・モネに始まり、20世紀の美術界の巨匠パブロ・ピカソ、フェルナンド・レジェ、アンリ・マティス、アンディ・ウォーホルといった、いずれも作品をどこかで見たことのある偉大なアーティストたちが、自身のインスタグラムのアカウントとして登場する。このアイデアが生まれた背景について、出版記念で来日したデロームは次のように語ってくれた。

Jean-Philippe Delhomme(ジャンフィリップ・デローム)
イラストレーター/アーティスト。1959年パリ生まれ。独特なタッチの作風で、Barneys New YorkやThe Mark Hotel NYCなどとコラボレーションを果たし、ファッション業界を中心に幅広く活躍
COURTESY OF JEAN‐PHILIPPE DELHOMME

「芸術家というのはときに孤独な存在です。アトリエの中に何時間もこもりっきり、描いては捨て、描いては捨てを繰り返す。そうして世の中に送り出すのは、自分の姿ではなく、自問自答しながら生み出した作品です。かつては、芸術家の日常生活というのは、親密な間柄の人間を除けば謎のままでした。しかし今はというと、自分の作品を公開するだけにとどまらず、インスタグラムを通して日常の暮らしや、取り組み始めたばかりのプロジェクトを公開するクリエイターも増えてきました。これまで謎に包まれ閉ざされていたものを、芸術家たちのほうから見せてくれるようになったのです。

そうなると、むしろまだ見たことのない、インスタグラムが登場する以前の芸術家のひそやかな暮らしをのぞきたくなるのが人間の心理ではないでしょうか。ピカソは私生活についても多く知られていますが、モネやゴーギャンたちはどんな暮らしをしていたのか? もしも彼らがインスタグラムのアカウントを持っていたらどんな投稿をしたのか、想像してみたくなったのです」

 美術書やアーティストの伝記を読んでも表に出てこない、彼らの“ありきたりの日常”を妄想した投稿にクスっと笑いがこみあげてくる。たとえば、夏の盛りに南仏を訪れ、暑さにお手上げの様子を投稿したマティスのインスタグラムには、友人のピカソからの「腕のいいエアコンエンジニアの連絡先を送るね」というコメントが添えられている。あるいは、お気に入りの庭で撮った写真をポスティングしたモネのインスタグラムには、友人の作家モーパッサンが「ご機嫌なヒップスターに見えるよ!」と反応。もちろんこれすべて、デローム氏の作り上げた想像上のインスタグラムだ。

画像: ピカソのインスタグラム。お気に入りのイビザ島のプラヤビーチでのエピソードを“投稿”

ピカソのインスタグラム。お気に入りのイビザ島のプラヤビーチでのエピソードを“投稿”

 しかし、インスタグラムに本当の素の自分を露出する人は多くはないだろう。見る人の想像をかき立てるように、多少なりとも演出をかけるはずだ。つまり、私たちが今使っているインスタグラムに載っているのはファンタジーの世界と言えるかもしれない。こうしたインスタグラムを、自身もクリエイターであるデローム氏はどのように捉えているのだろうか?

「まさにインスタグラムのもつファンタジーの側面が、この本を作ろうと思った動機になっています。もちろん、個々の人物像を作る際は史実に沿ったつもりですが、一般的に美術史上で語られているような芸術家のキャラクターに私の思い描くファンタジーを加えることができたのは、インスタグラムという媒体だからこそです」と語る。

“仮想のインスタグラム集”には、タイアップ企画あり、絵文字あり、アーティストの愛犬がアカウントをもっていたりと、美術史を知らなくても、“リアル・インスタグラム”を見ているかのごとく楽しめるしかけが散りばめられている。このイラストブックをきっかけに、巨匠たちの美術史を学びたくなるかもしれない。

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