BY JUNKO ASAKA

雑誌『an・an』などで一世を風靡したモデルの金子ユリ。日本人離れした彼女の雰囲気と風貌、立木のストーリー性のある斬新なファッション写真は多くの女性たちの心をつかんだ
© TATSUKI YOSHIHIRO
アドセンターに出入りしていた当時若手の花井幸子や高田賢三、金子 功といったファッションデザイナー、『ミセス』や『ハイファッション』などのアート・ディレクターを務め日本の雑誌カルチャーの礎を築いた江島 任。そして寺山修司、司馬遼太郎、開高 健……。立木が仕事で出会い、ともに時間を過ごした人々の名がいずれ劣らぬ伝説的クリエイターばかりであることに、いまさらながら驚かされる。「日本が何かに手を伸ばしてつかもうとしていた時代だったから面白かったんだろうね。金はなかったけど、会う人会う人、また会いたくなる人ばっかりで。幸せな日々でした」
今回の展覧会場となる上野の森美術館では、1階にこうした華々しいキャリアの中で手がけてきたポートレート写真が並ぶ。山口百恵、夏目雅子、大原麗子、黒澤 明、松田優作、勝 新太郎、北野 武……。誰もが知るスターたちの輝ける一瞬を捉えた作品の数々は、躍動する時代の空気を鮮やかに伝える。通路の片側いっぱいにモデルの金子ユリのコケティッシュな写真が並んだり、またある部屋は女優・加賀まりこの写真集『私生活』から、小さなモノクロプリントで壁面を埋め尽くしたりと、工夫を凝らした展示も来場者を楽しませる違いない。

2階に展示されるスナップの中から。厚底靴が街を席巻した1990年代後半の東京。「写真の中に時間が撮れているか。その時代を切り取れていたらいいんだけど、そこにはなんにもないかもしれない。それも含めて、現場で“発見”するのがスナップの楽しさ」だという
© TATSUKI YOSHIHIRO
2階には、ニューヨーク、キューバ、アフリカ、フランス、そして東北と、旅の合間に撮り続けてきたスナップ写真を展示する。「僕が写真撮り始めた頃は、どれも『どうだ! オレが撮った!』っていう写真だったよね。でも、ひとりで撮ったような顔していても、その前に必ず誰かがいて、その影響を受けている。オリジナルなんてものはあるようでいて、ないかもしれない。
一方で、そういうおおげさな写真じゃなく、日々の生活の中に、ふと気がつくとすごいものがある。そういう日常のすごさ、みたいなものをいかに“ふわっと”撮るか。それがスナップなんじゃないかな。でも、こういう写真を撮りたいとか、頭で考えたらそれはもうスナップじゃない。現場の空気の中で、そこに寄り添い、ポンと反応できる身体があるかどうか、なんです」

1年間に9回ほど渡米して集中的に撮影したスナップのシリーズ「マイ・アメリカ」より。2階の展示はほかに、フジテレビの番組「イブたち」でセンセーションを呼んだヌード写真や、PCのバグが原因で壊れた画像から生まれたユニークなアート写真「バグ」シリーズなども並ぶ
© TATSUKI YOSHIHIRO
今、撮りたい人はいますか? と聞くと「普通の人を撮りたいね」という。そして、この展覧会は集大成ではなく、通過点に過ぎない、とも。「だって、スナップに終わりはないからさ。それに、そもそも回顧展なんて恥ずかしいじゃない。生きていくことの基本は含羞だから。できれば冗談言って死んでいきたいよ(笑)」。そう言ってシャイな笑顔を浮かべる立木義浩の周囲には、いまも躍動する時代の風が吹いている。

立木義浩(YOSHIHIRO TATSUKI)
1937年、徳島県徳島市の写真館に生まれ、東京写真短期大学(現・東京工芸大学)卒業後、広告制作会社「アドセンター」に最初のカメラマンとして所属。1969年よりフリーランスとして広告、雑誌、出版など幅広い分野で活動。『私生活/加賀まりこ』『MY AMERICA』ほか写真集も多数
http://tatsukiyoshihiro.jp
COURTESY OF © TATSUKI YOSHIHIRO
「時代 - 立木義浩 写真展 1959-2019 -」
会期:2019年5月23日(木)~6月9日(日)
会場:上野の森美術館
住所:東京都台東区上野公園1-2
開館時間:10:00~17:00(金曜日は~20:00。入場は閉館30分前まで)
会期中無休
料金:一般¥1,200、大学・高校生¥800、中学生以下無料
電話: 03(3833)4191
公式サイト