戦後の演劇シーンを牽引した舞台美術家、画家の朝倉摂の回顧展、生物学者のヤーコプ・フォン・ユクスキュルの「ウンベルト(環世界、環境世界)」をヒントにあるべき未来を考える展覧会、新潟県越後妻有地域を舞台にした芸術祭。今週絶対に見るべき3つのエキシビションをピックアップ

BY MASANOBU MATSUMOTO

『生誕100年 朝倉摂』展|神奈川県立近代美術館 葉山

画像: 《更紗の部屋》1942年 顔料、紙 練馬区立美術館蔵

《更紗の部屋》1942年 顔料、紙
練馬区立美術館蔵

 商業演劇から歌舞伎、オペラまで。蜷川幸雄や唐十郎といった演出家と共創し、既成概念を打ち破る数多くの舞台美術を手がけた朝倉摂(あさくらせつ)。神奈川県立近代美術館 葉山での回顧展『生誕100年 朝倉摂』は、これまで深く紹介されてこなかった画家としての姿にもフォーカスし、その創作人生をつまびらかにする。

 17歳のとき、日本画家・伊藤深水のもとで絵画を学びはじめた朝倉。洗練された色彩感覚によるモダンな女性画などを発表し、若くしてその才能が認められることになった。戦後はピカソら海外作家に刺激を受け、新しい前衛的な表現にも挑んだ。また、戦争孤児、炭鉱や漁村の労働者へ取材を重ねながら絵画の主題を深めるなど、社会に生きるひとりの人間として描き出すべきものを的確に捉えようとした。本展ではこうした初期の日本画を含む約40点の絵画と、朝倉が手がけた絵本や小説の挿絵、また舞台美術の模型やデザイン画なども展示する。書籍『朝倉摂の見つめた世界 絵画と舞台と絵本と』(青幻舎)によれば、朝倉は常に“今”を生きていたという。彼女が生み出した作品の変遷、ジャンルの広がりは、そのまま彼女自身の生き様を物語る。

『生誕100年 朝倉摂』展
会期:〜6月12日(日)
会場:神奈川県立近代美術館 葉山
住所:神奈川県三浦郡葉山町一色2208-1
開館時間:9:30~17:00
※入館は閉館時間の30分前まで。感染防止対策として入場制限を行う場合もあり。
休館日:月曜
料金:一般 ¥1,200、20歳未満・学生 ¥1,050、65歳以上 ¥600、高校生 ¥100
電話:046-875-2800
公式サイトはこちら

『世界の終わりと環境世界』|GYRE GALLERY

画像: 展示風景。写真右から、リア・ジローの写真作品《エントロピー》、リア・ジローの映像作品《光合成》、アニッシュ・カプーアの《1000の名前》、加茂昂の《逆聖地》 COURTESY OF GYRE GALLERY

展示風景。写真右から、リア・ジローの写真作品《エントロピー》、リア・ジローの映像作品《光合成》、アニッシュ・カプーアの《1000の名前》、加茂昂の《逆聖地》
COURTESY OF GYRE GALLERY

『世界の終わりと環境世界』というすこし惨憺としたタイトルだが、この「環境世界」とは生物学者のヤーコプ・フォン・ユクスキュルが提示した「ウンベルト(環世界、環境世界)」を引いたものであるという。この概念が示すのは、人間における10年と昆虫の10年の質が異なるように、また人間の五感が捉える世界と昆虫のそれが違うように、生物はそれぞれ個別の世界、時間軸を生きているということ。世界というものが、人間が認識できるひとつだけの固有のものではなく、生物それぞれに存在するという考え方は、多様性や脱人間中心主義的な生き方が求められる現代の重要なキーワードとして、近年注目されてきた。

 本展は、環境問題や核の脅威、地政学的な緊張関係など「世界の終わり」を予感させる現状を「環境世界」という概念から問い直そうとするもの。象徴的なのが、フランスのアーティスト、リア・ジローの写真作品《エントロピー》。銀塩フィルムの代わりに、フランス国立自然史博物館の「シアノバクテリア、シアノトキシン、環境」チームと共同開発した「アルゲグラフィック」という素材を使った写真作品で、植物プランクトンを光に反応させることでイメージを生み出すという、いわば植物・微生物との共創作品だ。荒川修作の初期の映像作品《Why Not – 終末論的生態学のセレナーデ》や、ドットのなかに人間の存在を消滅させていく草間彌生のパフォーマンス映像《草間の自己消滅》など、他ではなかなか見られない貴重な作品も会場に並ぶ。

『世界の終わりと環境世界』
会期:〜 7月3日(日)
会場:GYRE GALLERY
住所:東京都渋谷区神宮前5-10-1 GYRE 3F
開廊時間:10:00〜20:00
休廊日:会期中無休
入場料:無料
電話:0570-056990
公式サイトはこちら

『越後妻有 大地の芸術祭2022』|新潟県越後妻有地域

画像: イリヤ&エミリア・カバコフ《手をたずさえる塔》 PHOTOGRAPH BY NAKAMURA OSAMU

イリヤ&エミリア・カバコフ《手をたずさえる塔》
PHOTOGRAPH BY NAKAMURA OSAMU

 いまでは日本各地で開かれるようになった地域芸術祭。その先駆けと言えるのが、新潟県越後妻有地域を舞台にした『大地の芸術祭』だ。2000年から3年に一度開かれてきたが、2021年はコロナ禍により延期され、今年4月29日に開幕日を移した。今回も十日町、川西、中里、松代、松之山、津南の6つの地域、約200の集落に333の作品が展示され、またパフォーマンス作品も展開する。2018年に公開されSNSで話題になった清津峡渓谷トンネル内のマ・ヤンソン/MAD アーキテクツの《Tunnel of Light》、宿泊できるジェームス・タレルの《光の館》やマリーナ・アブラモヴィッチの《夢の家》など、越後妻有越の風土を生かしたもの、越後妻有にしかない世界的作家の作品も多い。

 注目は、昨年末に完成したイリヤ&エミリア・カバコフの《手をたずさえる塔》。イリヤは旧ソビエト連邦(現ウクライナ)で生まれ育ち、現在はニューヨーク在住。作家曰く、この作品は民族、宗教、文化の違いについて平和的に話し合うことを促すモニュメントであり、塔上のオブジェは世界の国や地域で起こっているニュースを反映して照明の色が変わるという仕組みだ。また、芸術祭の拠点のひとつ「越後妻有里山現代美術館 MonET」での「大地の芸術祭2000-2022 追悼メモリアルシリーズ 今に生きる越後妻有の作家たち」も見逃せない。芸術祭がスタートしてから23年間、そのうちに亡くなった12名の本芸術祭出展作家を追悼する小さな展覧会で、期間中、2週間ごとに展示替えを行い、それぞれの作品、越後妻有との関わりを紹介する。

『越後妻有 大地の芸術祭2022』
会期:〜11月13日(日)
会場:新潟県越後妻有地域
休場日:火・水曜
料金:[作品鑑賞パスポート]一般 ¥4,500、大学・高校・専門学校生 ¥3,500、中学生以下無料
※早期割料金等の詳細はこちらから
電話:025-761-7767(「大地の芸術祭」の里 総合案内所)
公式サイトはこちら

※新型コロナウイルス感染予防に関する来館時の注意、最新情報は各施設の公式サイトを確認ください

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