大量生産の花に反旗を翻し、自然界の豊かな植物との接点を求める人々が新たなネットワークを築いている

BY DEBORAH NEEDLEMAN, PHOTOGRAPHS BY ROBIN STEIN, TRANSLATED BY FUJIKO OKAMOTO

画像: 草の根運動 ボタン、ロシア産のオリーブ ベリー、ミルクウィードの 種子を使った、ユタ州のフラワーデザイナー、 サラ・ウィンウォードの曲がりくねったブーケ COURTESY OF SARAH WINWARD

草の根運動
ボタン、ロシア産のオリーブ ベリー、ミルクウィードの 種子を使った、ユタ州のフラワーデザイナー、 サラ・ウィンウォードの曲がりくねったブーケ
COURTESY OF SARAH WINWARD

 味けない花たちに、ひそかに反旗を翻した人々がいる。その多くが30代の女性たちで、花屋の経営者やフラワーデザイナー、花の栽培農家など、花に対する豊かな感性を持つ人々だ。このフラワー革命の戦士たちの草の根運動は、カルト的なライフスタイルのムーブメントへと発展し花の生産から流通、消費に至るまでのシステムに影響を及ぼすほどのパワーを持つようになった。彼らは、自然の豊かな、多様性にあふれた植物―卸売市場ではめったに見かけることのできない、広がりきっていないシダの葉や野生の草花、原種に近いオールドローズなど―を扱いたいという一心で話し合いを重ね、採集場所や採集業者、栽培農家を探し出し、卸売業者には良質な生花を市場に出すように働きかけた。すると今度は、その業者が良質な生花を栽培するよう農家に働きかける。ほぼすべての関係者を巻き込んだワークショップが開催され、頻繁に情報交換が行われた。こうして、同業のライバルでありながら、「花の婦人グループ」あるいは「花の同志」とも言うべき支援ネットワークが築かれたのだ。

ちなみに、摘みたての庭の草花や森林に自生する植物を使った野趣あふれるアレンジメントが好まれるようになったのは、特に新しい話というわけではない。20世紀を代表する英国のフラワーデザイナー、コンスタンス・スプライは、エリザベス女王やウィンザー公のような著名な顧客のために、野草や鞘に入った種子野菜、ケールなどを使ったアレンジでフラワーシーンを演出した。1980年代から1990年代の初頭、マンハッタンの小さなフラワーショップ「マダーレイク」は、道端で摘んだ野生のチコリやタンポポにカボチャの花をアクセントにあしらったカジュアルなブーケを発表して、当時のフラワーアレンジメント界に衝撃を与えた。しかし、その後現在に至るまで、ムーブメントを起こすような卓越したスタイルが登場することはなかった。

 今のムーブメントは、これまでと何が決定的に違うのか? それはビジュアル・イメージにおけるグーテンベルク的な発明ともいえるインスタグラムの登場だろう。とりわけ「FOMO(フォーモー)」と呼ばれるソーシャルメディア依存によって、ライフスタイルの画像が大量に配信されるようになったことが大きい。フラワーデザイナーや花農家の人々は、バケツ一杯のスイートピーや、ジャーマンアイリスが咲き乱れる花畑を収めた、たった1枚の写真によって、洗練された美意識やエコ意識を一度に多くの人々の心にアピールすることができる。こうして現代のフラワームーブメントは、生い茂る葛(※アメリカ南東部で異常繁殖して深刻な問題となっている)のように熱心な支持者を増やしてきたのだ。

少し前から、嵐の前触れというべき予兆はあった。ことにミレニアル世代の若者のあいだで変化が起きていた。パーテーションで仕切られた小部屋の中で働くことに嫌気がさし、仕事に意義を見いだそうとしていた若者たちは、歩み始めたばかりのキャリアを投げ捨て花づくりやフラワーデザインの世界に飛び込むことに何のためらいもなかった。あるいは、ただ単にそうした夢を抱く者もいた。しかし、「シンプルな時代に戻ろう」というプロパガンダの最強のツールが、インスタグラムなどのデジタルメディアだというのはなんとも皮肉な話だ。

 このムーブメントのスーパースターの一人が、スカジット渓谷で「フローレット・ファーム」を経営する花の栽培家、エリン・ベンザケインだ。ベンザケインのワークショップは、参加者の募集を始めてからほんの数分で定員に達し、2017年3月に出版された著書『CutFlowerGarden』は、出版社始まって以来の先行予約部数を記録した。ベンザケインの活動にインスパイアされて人生を変え、花づくりを始めようとする若者は急速に増えている。

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