BY TOMOSHIGE KASE
1925年、デンマーク北西部の街ストルーアにてラジオメーカーとして創業した「BANG & OLUFSEN(バング&オルフセン)」。その製品はバウハウスの影響を受けながら当初よりモダンデザインを纏ってきた。1960年代には北欧を代表するプロダクトデザイナー、ヤコブ・イェンセンを起用。このことが、現在に見る革新的デザインの方向性を決定づけた。
以来、時代の最先端を表わすデザインの製品を世に送り出しているのはご存じの通り。オーディオファンからの厚い支持のみならず、現在実に18の製品がMoMAに所蔵されていることからも、バング&オルフセンが手掛けるデザインはすでに世界的な評価が定まっていると言えるだろう。
11月に登場したワイヤレススピーカー「Beosound Edge」もまた、バング&オルフセンのこれまでの製品と同様、大きな衝撃を与えてくれた。立ったまま転がらずにバランスを保つ、シンプルかつ大胆な円形デザイン。目に見える素材は磨き上げられたアルミニウムのフレームと黒い布地のみというミニマルさながら、どう置いても空間の主役となる圧倒的な存在感を放つ。
このデザインを手掛けたのはロンドンを拠点として活動するマイケル・アナスタシアデス。照明デザイナーとしても著名な人物だ。
「視覚的に複雑な製品は初めは衝撃的ですが、目新しさが去ると何も残りません。一方、視覚的にシンプルなものにわかりやすい魅力はない。でも再度見ると関心が芽生え、3度目にはさらに興味をそそられるのです」と彼は言う。
腕時計でいうならば、シンプルな三針の腕時計のようなものだろうか。ただ腕時計のように操作系のプッシュボタンは見当たらない。実は、センサーが人の接近を感知すると、アルミニウムフレームにタッチインターフェースが点灯するという仕組みだ。このインターフェースで再生・停止などの操作を行う。
また円形の躯体を前後に動かすことで音量を調整できる。静かに動かせば音量は少しずつ変わり、強いタッチで動かせば素早く変化する。まるでゆりかごを揺らすようなアクションは、なかなかにおもしろい。テクノロジーによって利便性だけではなく、楽しさを感じさせてくれるのも、バング&オルフセンならではの魅力のひとつであろう。もちろん公式アプリをダウンロードすれば、スマートフォンなどのデバイスからの操作も可能だ。
もちろんデザインのみならず音響にも最新の技術が活かされている。円の片面に10インチの巨大なバスドライバーを、両サイドには中音域用ドライバーと高音域用トゥイーターを配置。コンパクトなサイズに比べ、驚くほどパワフルなサウンドを実現してくれる。また音量の大小によって低音の響きを変える「アクティブ・ベース・ポート」という新たな技術を採用。小さな音量では低音を抑え、大きな音量では低音を開放してサウンドの正確さを維持し、リスナーに「心地よい音」を届けてくれるという技術である。
昨今のサウンドライフは、もっぱら「Apple Music」「Spotify」「Amazon Music」などのストリーミングサービスの利用が主流だ。スマートフォンとイヤフォンがあれば十分音楽が楽しめる現代に、このようなワイヤレススピーカーはなぜ求められるか。美しいデザインが暮らしの空間を一変させてくれるから? 力強いサウンドが音楽の豊かさを再認識させてくれるから? それは確かにそうだが、「Beosound Edge」がもたらしてくれるのは、もっと本質的な、音楽を聴くときの喜びだろう。
アプリを通じて「Beosound Edge」の音像を納得いくまであれこれと調整することは、スピーカースタンドの場所と高さに腐心したかつてのサウンドライフに似る。また曲をセレクトして再生ボタンを押すときの高揚は、やはりかつてアナログレコードに針を落とした瞬間の興奮にも近い。
膨大なアーカイブのなかから簡単に自分好みの曲が見つかってしまうこの時代。その一曲に対して、はたして我々はどれほどの喜びを感じ、かつてのように心ときめかせているだろうか。「Beosound Edge」が、デザインとテクノロジーを通じて改めて“一曲を大事に聴く”ことを教えてくれた気がする。
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