BY MASANOBU MATSUMOTO, PHOTOGRAPHS BY SHINSUKE SATO
手描きの現代的な魅力を語るデーモンだが、彼は決して“アンチ・デジタル”というわけではない。制作のプロセスにおいてデジタル処理を行うこともある。たとえば、巨大な看板を制作する際には、スケッチしたパターンを一度スキャナーで読み込み、実物大に拡大。それをもとに文字の輪郭を手作業でボードに転写し、ブラシで着色していく。
「そもそもテクノロジーを駆使することを僕は批判していないし、決して悪いことではない。むしろ、そうやって新しい表現にトライすることはいいことだ。ただ、僕が問題だと思うのは、コンピューターで文字を打っただけのものや、子どもが描いたような“真似っこ”の文字がデザインとして使われていたりすること。なかには、デザインの良し悪しの問題以前に、昔のサインペインターが間違えて描いてしまった文字が使われていたりもする。Rの文字が少し変だったり、数字の“0(ゼロ)”がアルファベットの“O(オー)”になっていたりね。それを“あえて”やっているのかもしれないけど、僕はまずは(手描きの文化が培ってきた表現の)基本に忠実であるべきだと思うんだ」
近年、デーモンは看板制作とともに、サインペインティングの基礎を教えるワークショップにも勤しんでいる。ショップでは月に1回、希望者を募り、土曜日と日曜日の2日間にわたって看板作りの体験会を行なっている。「1日6時間ほど使って、参加者は、僕らが用意したサンプルを真似しながら小さな看板を仕上げるんだ。みんな、一日中、文字を書くことに集中する。だから終わった後は、メディテーション(瞑想)したあとのように、すっきりとした顔で帰っていくよ」と笑う。そして、テーブルの上に、ワークショップのための資料やアイデアノートを広げ、文字を指でなぞりながら、“ここでツイスト(筆をねじる)して曲線を描くんだ”と、ワークショップの内容について、楽しげに説明を続けた。
ちなみに彼がワークショップをはじめたのは、サンフランシスコに住んでいる顔見知りからのリクエストがきっかけだったそうだ。その依頼内容は“奥さんへのクリスマスプレゼントとして、ハンドペイントのメッセージ作品を送りたい”というもの。「その奥さんはとても喜んでくれたと聞いた。人々が、こういう手描きのものを求めているのが改めてわかったし、普段、看板屋の仕事は現地に設置して終わりだから、そういった声を聞くことができたのも新鮮だったね」
インタビュー最後にもう一度「なぜ、手描き看板にこだわるのか?」と問いかけた。手描きによるサインペインティングが、単なる装飾デザインを超え、アート的なものとして、また特別な誰かへ気持ちを伝える媒体として、機能しているからだろうか? じっと手元のノートに目をやり彼が言ったのは、看板職人として、また、おそらくひとりのペインターとしての答えだ。「すくなくとも僕は、ハンドペイントによるデザインが美しいと思うし、作っていて面白いんだ」