BY MARI MATSUBARA, PORTRAITS BY KAZUYA TOMITA
世界にクリスタルメーカーは数あれど、欧州大陸最古の歴史を誇るのが「サンルイ」だ。1586年、フランス東部サンルイ=レ=ビッチュ村に構えた工房の炉に火が入って以来、一度も拠点を変えることなく、全ての製品をこの工房で製作し今日に至っている。メゾンの日本上陸は1992年。以来日本でもその製品は時代を超えて愛され続けてきた。そしてついに2024年、麻布台ヒルズに独立したブティックをオープン。「サンルイ」の日本における唯一の路面店が誕生した。
「これまで『サンルイ』は伊勢丹新宿店などに出店し、日本のお客さまから我々の製品に対する渇望が予想以上に大きいことを確信しました。そして『サンルイ』のアイデンティティをもっとダイレクトに、明確に打ち出せる店舗が必要だと考えました。百貨店はたくさんのお客さまに立ち寄っていただけるメリットがありますが、スペースの制約はどうしても避けられません。特に天井高が充分でないと、我々のメゾンにとって最も重要な分野である照明やシャンデリアをご紹介するのが難しいのです。コレクションをトータルにご紹介できる場所を日本に設けたいと考えていた時、麻布台ヒルズの存在が光明を与えてくれました。『サンルイ麻布台ヒルズ店』は、言ってみればヒューマンサイズ。広大な空間というよりも人としてホッとできるような適正なスケールで、照明やテーブルウェア、インテリアオブジェや卓越したコレクションの数々を、余すところなくご紹介できるだけの余裕があります。まるで小さな宝石のようなブティックです」
そう語るのは、5月に来日したサンルイCEO、 ジェローム・ド・ラヴェルニョール氏だ。
「サンルイ」の製品は主力のテーブルウェアやバーウェアをはじめ、インテリアオブジェ、ライティングなど幅広く展開している。そして意外にも売り上げナンバーワンはアジア地域だとか。
「現在、売上高の45%をアジア地域が占め、ヨーロッパが25%、アメリカと中東が15%ずつで続きます。アジアでは中国で一番売れ行きが良く、日本は第2位ですが伸び率が高いです。15年前はヨーロッパがトップで、アジアは日本だけでわずか4%でしたから、状況は大きく変わりました。特に日本のお客さまにはアジア地域で最も古くからご愛顧をいただいています。それはなぜかと言えば、我々のサヴォアフェール(職人技)を深く理解し、共感してくださるからでしょう」
日本では特にテーブルウェアが好調だが、毎年新作が発表されるペーパーウェイトもコレクターアイテムとして人気を誇る。
「ペーパーレス時代にあっても、デコレーションオブジェとしてペーパーウェイトは非常に人気があります。この製品には『サンルイ』のDNA、つまり多彩な色遣い、装飾技術、カッティングなどすべてが詰まっています。19世紀には『サンルイ』のみならず多くのクリスタルメーカーがペーパーウェイトをつくっていたのですが、20世紀初頭には我々も、他のメーカーも製造をやめてしまいました。ところが1950年代初めにアメリカ人コレクターがエリザベス女王の戴冠式を記念したペーパーウェイトの製造をオファーし、他社は軒並み断ったのですが『サンルイ』が挑戦を引き受けました。しかしその技法は古参職人の引退と共に失われてしまっており、再びゼロから取り組まねばなりませんでした。職人の技術は文書に残るものではなく、老練の職人から若手へと、見よう見まねで受け継がれるのだということを痛感しました。もう二度と職人技が途切れることがないようにと、毎年ペーパーウェイトの新作をつくることにしたのです」
伝統とイノベーションの融合。
新作『フォリア』ミニポータブルランプ
麻布台ヒルズ店のオープンを記念して、世界初のローンチとなったのが新作のコードレス照明、「フォリア」ミニポータブルランプだ。
「サンルイの工房は森に囲まれています。森の木が熔解炉の薪となり、小川の水がすべての製造過程、中でもカッティングの際に使われ、周囲の岩石に含まれる珪砂がガラス成分となります。シダを焼いた灰を水に混ぜて抽出したカリウムがガラスの熔解温度を下げ、燃焼エネルギーを節約してくれます。つまり森はサンルイのものづくりに欠かせない存在であり、大切な心臓部なのです。そのことに感銘を受けたデザイナーのノエ・デュショフール=ローランスが、このコレクションをラテン語で『葉っぱ』を意味する『フォリア』と名づけました。カッティングの一つ一つが木の葉のようで、明かりを灯すとテーブルに美しい光のパターンが広がります」
「このランプはUSBコードと繋いで充電できるので、コードレスで手軽にどこへでも持ち運ぶことができます。職人がガラスを吹き、カッティングをほどこすという手仕事に根ざした伝統と、テクノロジーが融合した製品だと言えるでしょう。私のおすすめはダイニングテーブルに『フォリア』の『ミニポータブルランプ』を2個置くこと。キャンドルホルダーの代わりにテーブル上に美しい光の模様を広げ、素晴らしいテーブルセッティングになりますよ。もちろん、寝室のベッドサイドにも最適です」
「サンルイ」のクリスタルを
体感できるバー
もう一つ、話題となっているのが銀座・虎屋ビルの12階にオープンした「ST LOUIS BAR by KEI」だ。パリの3ツ星レストラン「Restaurant KEI」のオーナーシェフ、小林圭氏の料理とデセールが楽しめるバーで、ドリンクは「サンルイ」のクリスタルグラスで提供される。
「小林圭シェフがパリにレストランをオープンする際に『サンルイ』のシャンデリアを採用していただいて以来、ずっと親しくお付き合いし、目覚ましい躍進を見守ることができ光栄でした。圭シェフから銀座の虎屋ビルで新しい形態の店を出すことを相談された時、虎屋の創業ファミリーともお目にかかりました。我々の創業年である1586年頃に虎屋は皇室御用達になったそうで、その奇遇と長い歴史に驚きました。圭シェフはこの場所でパリのエスプリを再現したいと考え、『サンルイ』のクリスタルグラスがその一役を担うことができ嬉しく思っています」
ジェローム・ドゥ・ラヴェルニョール(Jérôme de Lavergnolle)
1963年生まれ。エルメス・インターナショナルを経て2010年より「サンルイ」CEO。2015年、フランスクリスタルガラス連盟(FCV)の会長に就任。
24時間、デイリーに親しむクリスタル
クリスタル製品は特別な日だけではなく、日常に使って楽しんでいただきたいとCEOは語る。
「たとえば昨年発売された『アポロ』のティーコレクションは、初めてクリスタルと磁器を融合させたティーウェアです。紅茶やハーブティなどヨーロッパスタイルのための『グランデ』ティーセットのほか、濃いお茶を少量味わうための『シャルマン』ティーセットがあります。コーヒーにぴったりのエスプレッソタンブラーもコレクションに加わり、私はこれで毎朝エスプレッソを飲んでいますよ」
「一つでいろいろな使い方ができる製品も必要だと考えてきました。その成果が2015年に発表した、日常づかいとテイスティングを両立させたワイングラスコレクション『ツイスト 1586』ですし、1950年代から存在した小規模なラインアップをカクテルやシェーカー、クープなどへと拡大させた『マンハッタン』コレクションです。朝のコーヒーから午後のティータイム、カクテルアワー、ナイトキャップまで、1日を通して楽しむことができるのが『サンルイ』なのです」
ユネスコに登録された
フランスのガラス職人の手技
2023年にはフランスのガラス職人の手技がユネスコの「人類の無形文化遺産」に登録された。
「フランスのクリスタルガラス連盟の会長を兼任する身として、『サンルイ』のみならず他のメゾンも含め、フランス国内のガラスとクリスタル製造に携わる職人たちの仕事に敬意を表したいとの思いから、ユネスコに申請しました。彼らの技術を次世代へ継承していくことが目下の課題です。若い世代に関心を持ってもらい、この業界に入ってきてもらわなければなりません。そのためにもユネスコ登録のニュースは、ガラス手工芸の価値を知っていただくための大きな意味があったと思っています」
サンルイ麻布台ヒルズ店
住所:東京都港区虎ノ門5-9-1 麻布台ヒルズ ガーデンプラザB 1F
電話番号:03-5843-8678
営業時間:11:00〜19:00
定休日:月曜(祝日の場合は営業)
ST LOUIS BAR by KEI
住所:東京都中央区銀座7-8-17 虎屋銀座ビル12F
電話番号:03-6274-6612
営業時間:17:30〜23:30(食事L.O.22:30、ドリンクL.O.23:00)
定休日:日曜・月曜