4月15日から21日までミラノ市内随所で開催されたミラノデザインウィークで、多くの注目を集めたのは「ラディカルな衝撃」を感じさせるデザインだった。

BY KANAE HASEGAWA

画像: Radical Sensationの展示の様子。1960年代に街中に設置されたモデュラーブースのタイムレスさを伝えるK67 Berlinによるキオスクブース。展示中は書籍やコーヒーの販売をした  COURTESY OF CAPSULE

Radical Sensationの展示の様子。1960年代に街中に設置されたモデュラーブースのタイムレスさを伝えるK67 Berlinによるキオスクブース。展示中は書籍やコーヒーの販売をした

COURTESY OF CAPSULE

 ミラノデザインウィーク中、市内で1150 もの展示が開催されたなか、最も話題をさらった展示のひとつが「Radical Sensation」だった。出版を手がけるクリエイティブチームの「カプセル」が企画した展示では、気鋭のデザイナーたちによる先進的なアイデアのデザインが発表され、展示のタイトル通り、見た人たちの間でセンセーショナルな騒ぎを起こした。

 もともと「カプセル」は、編集者のアレッシオ・アスカリと、建築家のポール・クルネが立ち上げた新しいデザインの視点を発信するためのプラットフォームだ。彼らが影響を受けたのは、なんと、1972年に誕生し、日本社会に衝撃をもたらした先鋭的な建築、中銀カプセルタワービル。建築家の黒川紀章が集合住宅として設計した中銀カプセルタワービルは、建築を固定化したものではなく、都市人口の増大とともに変容し、その都度既存の建築にカプセル状のユニットを足して増殖していくものとして捉えた。この進歩的な考えは、その後の建築のあり方や、住宅のあり方に新風を吹き込んだと言える。1970年代に生まれたある種の過激な考えに魅了された2人は、先の見通しの悪い現代、ともすれば失敗やリスクを回避する守りの姿勢になりがちなデザインの世界に、挑戦的で新しい視点をもたらしたいと、既成の概念を打ち砕いた中銀カプセルタワービルに重ねて「カプセル」を立ち上げた。

画像: 100%リサイクルアルミニウムからできたホームコレクション100%リサイクルアルミニウムからできたホームコレクション PHOTOGRAPH BY PHOTOGRAPH BY RUI WU T-SPACE STUDIO

100%リサイクルアルミニウムからできたホームコレクション100%リサイクルアルミニウムからできたホームコレクション
PHOTOGRAPH BY

PHOTOGRAPH BY RUI WU T-SPACE STUDIO

 展示では、カプセルと志を同じくする先進的な考えのメーカーとデザイナーのプロダクトが発表された。なかでもアルミニウムを素材にしたプロダクトが多かった。世界最大規模のアルミニウムメーカーであるノルウェーのハイドロ社はリサイクルアルミニウムを100%使用した家具や照明器具を発表した。デザインを手がけたのはインガ・センペや、マックス・ラム、フィリップ・マルインといった世界的なデザイナー。

 アルミニウムというと、家の窓枠サッシや、清涼飲料水の缶の素材を思い浮かべるが、実は優れた特質を持つ。軽量で、リサイクルがほぼ永遠に可能。加えてリサイクル時に要する電力はバージンアルミニウムの製造時に必要な電力の5%ほどですむ。さらに耐摩耗性にも優れている。世界で唯一、工業製品レベルで100%再生アルミニウムを用いることが可能なハイドロ社とデザイナーとの協働は、今後、家具やプロダクトとしてのアルミニウムの用途の可能性を広げるに違いない。

画像: 建設現場で生のコンクリートを流し込むアルミニウム製型枠を家具に転用 COURTESY OF CAPSULE

建設現場で生のコンクリートを流し込むアルミニウム製型枠を家具に転用

COURTESY OF CAPSULE

 韓国のデザインデュオ「Niceworkshop」は「アルミニウムフォームワークシリーズ」と題した家具のコレクションを発表した。アルミニウムフォームワークとは建築現場で生のコンクリートを固めるためのアルミニウム製型枠を指す。再生に適した素材のため、コンクリートが成型された後のアルミニウムの型枠はコンクリートから取り外した後、再び同じような型枠に再利用される。一般の人の目に触れることの少ないコンクリートの型としてのアルミニウムに、家庭用品としての用途を与えたのが、Niceworkshopのデザインした家具コレクションだ。コンクリートから剥がされたアルミニウムの型をそのままラウンジチェア、ダイニングチェア、テーブル、ベンチに転用した。

画像: リモワが制作したアルミ製エスプレッソマシン COURTESY OF CAPSULE

リモワが制作したアルミ製エスプレッソマシン

COURTESY OF CAPSULE

 アルミニウムのエスプレッソマシンも発表された。高品質なアルミスーツケースで知られるリモワが、イタリアの老舗エスプレッソマシンメーカーのラ・マルゾッコとともに制作したエスプレッソマシン。リモワを象徴するアルミニウムの溝が側面を覆い、特注の温水蛇口など一機に40時間かけて製造されるという。

画像: Poltronovaから1964年に発表された「Saratoga」ソファを再解釈した「Saratoga60」ソファシステム COURTESY OF CAPSULE

Poltronovaから1964年に発表された「Saratoga」ソファを再解釈した「Saratoga60」ソファシステム

COURTESY OF CAPSULE

 ほかにも、ニューヨークとパリを拠点にするデザイナーのハリー・ヌリエフは1960年代に革新的なソファの数々を世に送り出したイタリアの家具ブランド、ポルトロノヴァから、キューブ型のウッド材を農作物を保護するための農業用シートで被い、完成させたソファシステムを発表した。黒いフィルムで被われた家具は配送するために梱包されたかのようで、置かれた家具を見ると、これから設置のために開梱するのかと思わせる。しかし、梱包も開梱する手間の必要ない、そのまま運んで、そのまま配置するという発想の家具。定住することなく、移動を繰り返すから引っ越し荷物を荷ほどきをするのも億劫だ、という現代人の心境をそのまま形にしたようなデザインだ。

 中銀カプセルタワービルが誕生した時代に同じく現れたのがキオスクだ。1960年代、スロベニア人建築家のササ・マチテグがデザインした樹脂製のモデュラーブースK67は、現場で建てる建築物と異なり、工場で製造されたブースをそのまま家具を置くように街中に設置し、新聞販売やコーヒースタンドとして使うことができる、画期的なプロダクトだった。実験的な精神を現代にも吹き込もうと、ドイツのデザインチームK67 Berlinはキオスクブースを展示した。

 今、SNSに触れているとアルゴリズムが自分の嗜好に合った提案を親切にしてくれる。そのため、自分の好みに合ったもの以外、目に入らなくなりがちだ。人を困惑させるようなアイデアが出しにくい世の中で、ラディカルであることは何を意味するのか。カプセルを立ち上げた建築家のポール・クルネの言葉が印象的だった。
「ラディカルの語源はラテン語で本質を意味するラディチェにあると言われています。抜本的な変化に挑もうとする精神が今、ラディカルなのではないでしょうか」

 

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