新型コロナウイルスの出現とともに、私たちを取り巻く社会は一変した。ウイルスとの共生が求められるなか、私たちの日常はどのようなものになってゆくのか。先の見えない世界を生きてゆくヒントを、さまざまな分野で活躍する識者の方たちが一冊の本を通じて語る

BY JUN ISHIDA

身体と同じく、絶えず変化してゆく建築とは

 僕自身も、人間は自然とともにあるとずっと考えてきました。もう少し自然と共生した社会はないのだろうか。自然は、日々変化しています。自然界はいつも流動していて、変化しています。福岡さんの見方は、人間の身体も日々変化していて、ある種の平衡状態を保っているだけというものです。そういう見方に立つと、「人間と自然の間にある建築とは何なのか?」「絶え間なく流動して、変化する建築はあり得るのだろうか?」という考えが浮かびます。

 公共建築の場合、内外の環境をはっきりさせておかないと管理が難しくなるため、内と外がはっきり区別された、自然から切り離された建築しか作れない状況にあります。しかし、自然と繋がりながら、安全で省エネでもある建築のあり方が可能な時代になりつつあるのではないかと信じて、少しずつではありますがそうした実験に取り組んでいます。プリミティブな例ですが、〈せんだいメディアテーク〉(2001年オープン)は、外からはいかにも近代主義のボックスのように内と外が切れているように見えるのですが、13本の垂直方向のチューブを通して上から自然光が入ってきたり、外の新鮮な空気をチューブを通して地下の機械室に送り込み空調に使ったり、チューブを備えた人体のような建築にしています。内と外の関係を高度にコントロールできるようになれば、人間の器官と同じような建築ができるはずというのが、今描いている建築像です。建築も流動的なものになり、都市まで全てが平衡状態にある、そんな動的平衡にある建築や都市ができないのだろうか、と。

画像: 伊東豊雄(TOYO ITO) 建築家。1941年生まれ。菊竹清訓建築設計事務所をへて、71年アーバンロボット設立。79年伊東豊雄建築設計事務所に改称。近作に、「みんなの森 ぎふメディアコスモス」(岐阜)、「新青森県総合運動公園陸上競技場」(青森)など。日本建築学会賞、プリツカー建築賞など多数受賞。2011年に私塾「伊東建築塾」を設立。これからのまちや建築を考える場として様々な活動を行う。また、自身のミュージアムが建つ愛媛県今治市大三島においては、塾生有志や地域の人々とともに継続的なまちづくりの活動に取り組んでいる COURTESY OF TOYO ITO & ASSOCIATES, ARCHITECTS

伊東豊雄(TOYO ITO)
建築家。1941年生まれ。菊竹清訓建築設計事務所をへて、71年アーバンロボット設立。79年伊東豊雄建築設計事務所に改称。近作に、「みんなの森 ぎふメディアコスモス」(岐阜)、「新青森県総合運動公園陸上競技場」(青森)など。日本建築学会賞、プリツカー建築賞など多数受賞。2011年に私塾「伊東建築塾」を設立。これからのまちや建築を考える場として様々な活動を行う。また、自身のミュージアムが建つ愛媛県今治市大三島においては、塾生有志や地域の人々とともに継続的なまちづくりの活動に取り組んでいる
COURTESY OF TOYO ITO & ASSOCIATES, ARCHITECTS

コロナ禍から学ぶ新しい暮らし方

 今の日本は、都市か地方かの二項対立になっていますが、コロナ禍でテレワークを多くの人々が体験し、同時に両方を活用できる暮らし方の可能性が浮上したと思います。都市には小さなスペースを持ち、地方は地価も安いし空き家も多いから、大きな一軒家を改修して住むとか、これからは、多様な暮らし方、都市と地方が等価な暮らし方が可能になるでしょう。このコロナ禍は、自然が豊かで密集の少ない地方での暮らし方をもう一度考えさせてくれたような気がします。エネルギーを減らしながら、今までより快適な暮らしができる社会は可能なのです。

 現代都市は、人を街の中へと誘い出す。もちろん、人を動かさないと経済活動は成り立ちませんし、消費社会はそういうものです。しかしあまり過剰になると、コロナ禍のような事態を招きかねない。自然と都市のバランスがとても大事だということを、今回、みんなが考えさせられたのではないでしょうか。台風や地震が多発する日本においては、自然をコントロールできると考えるようになったのは近代以降の話です。そうした近代主義の思想自体を変えることができれば、かなり社会は変わってゆくはず。3.11の後にそのことを期待しましたが、一年もすると世の中は戻ってしまいました。世界中で人間の驕りに対する反省が起こるのかという一縷の期待を抱いています。

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