歌舞伎ワールドへようこそ。劇場の扉、時空の扉、そして心の扉を開いて、絢爛たる異世界へと誘う連載。第十一回は、コロナ時代の新たな表現手法に挑む、中村壱太郎さんが登場

BY MARI SHIMIZU

 止まれない性格なので。

 中村壱太郎さんは取材中にそんな言葉を幾度か口にした。その表情は明るく、女形を中心に活躍するしなやかな身体には溌溂としたエネルギーが充満している。  

 新型コロナウィルス感染拡大に伴いあらゆる公演が中止となり、エンターテインメント業界が未曽有の危機に直面し始めた3月、壱太郎さんは繊細に揺れる心模様を自身のブログに綴っていた。が、その気持ちを切り替えると、いち早くYouTubeチャンネル「かずたろう歌舞伎クリエイション」を開設するなど、自粛期間中の「いまできること」に懸命に取り組み始めた。そして粛々と準備を進めて来たことがいま一気に花開きつつあるのだ。

画像: 中村 壱太郎 (NAKAMURA KAZUTARO) 歌舞伎俳優。1990年8月3日生まれ。1995年1月大阪・中座〈五代目中村翫雀・三代目中村扇雀襲名披露興行〉『嫗山姥』の一子公時で初代中村壱太郎を名のり初舞台。祖父は人間国宝の四代目坂田藤十郎、父は四代目中村鴈治郎。若くして『鏡獅子』『曽根崎心中』のお初などの大役を勤め、新時代を担う女形として活躍。2013年3月、慶應義塾大学総合政策学部卒業。2014年9月、吾妻徳陽として日本舞踊吾妻流七代目家元襲名。振付にも才能を発揮し、新海誠監督の 映画「君の名は。」でヒロイン・三葉と四葉の姉妹が舞う巫女の奉納舞を創作。テレビやラジオにも活躍の場を広げている PHOTOGRAPH BY KEIKO HARADA

中村 壱太郎 (NAKAMURA KAZUTARO)
歌舞伎俳優。1990年8月3日生まれ。1995年1月大阪・中座〈五代目中村翫雀・三代目中村扇雀襲名披露興行〉『嫗山姥』の一子公時で初代中村壱太郎を名のり初舞台。祖父は人間国宝の四代目坂田藤十郎、父は四代目中村鴈治郎。若くして『鏡獅子』『曽根崎心中』のお初などの大役を勤め、新時代を担う女形として活躍。2013年3月、慶應義塾大学総合政策学部卒業。2014年9月、吾妻徳陽として日本舞踊吾妻流七代目家元襲名。振付にも才能を発揮し、新海誠監督の 映画「君の名は。」でヒロイン・三葉と四葉の姉妹が舞う巫女の奉納舞を創作。テレビやラジオにも活躍の場を広げている
PHOTOGRAPH BY KEIKO HARADA

 目前に控えているのが7月12日(日)に配信公演を行う「ART歌舞伎」。斬新なビジュアルに身を包み、共演の尾上右近さんと男女の舞を披露するイメージ映像は、すでにWebに公開されている。

「自粛期間中、これまで自分はどんな人と出会いどう影響を受けて、ここまでやって来たのだろうということを思い返していました。そして新羅さん(湘南乃風の若旦那)と何かやりたいという、以前から抱いていた思いが膨らんでいったんです。それで連絡を取ろうとした矢先、偶然にも新羅さんのほうから『何かやらないか』というお誘いがあったんです」

 ミュージシャンとしての側面だけでなく、近年は本名でさまざまなプロデュース活動をしている新羅慎二さんとのリモートによるミーティングを重ねること数回。そして世の中が少しずつ日常を取り戻し始めたことを受けて、久々に顔を合わせると一気に話は進んだ。

「男女の物語にしようと話している時、目の前にドライフラワーが飾ってあったんです。そこからドライな女という発想が生まれ、じゃあ男は水。濡れた男にしよう、色彩は白と黒の対比だね。という話になり、ヘアメイクの冨沢ノボルさんとスタイリストの里山拓斗さん、それからフラワークリエイターの篠崎恵美さんがご参加くださることになりビジュアルができあがっていきました」

 歌舞伎の伝統的な衣裳とは一線を画しながらも、どこか相通じる雰囲気が感じられるから不思議だ。「傾(かぶ)いているからじゃないですか? 歌舞伎の語源となっているのが傾く精神。そこにはこだわっていきたいんです」

 作・演出を自ら手がける壱太郎さんは全体を4つのパートで構成することにした。「四神降臨」、「五穀豊穣」、「祈望祭事」、「花のこゝろ」である。壱太郎さんと右近さん以外の出演者は日本舞踊家の花柳源九郎さん、藤間涼太朗さんだ。出演者、スタッフが密にならないようにとの配慮も含め、靖国神社の野外の能舞台で撮影を行った。
「撮影した日はものすごい暴風雨だったんです。四神降臨とはまさにこういうことかと、そんな気にさせられました」

画像: 『花のこゝろ』より、尾上右近(左)と中村壱太郎 COURTESY OF ART KABUKI

『花のこゝろ』より、尾上右近(左)と中村壱太郎
COURTESY OF ART KABUKI

 青龍、朱雀、白虎、玄武。東西南北それぞれの守護神のうち、壱太郎さんが演じるのは流水の象徴である青龍。自然が織りなす演出効果に演者たちの気持ちは否応なく昂る。紋付袴という姿での〝素踊り〟に始まり、古来より神事や民の祈りと密接に結びついて発展してきた芸能の歴史を辿るかのような構成で舞台は進んでいく。
「だんだん変化していく様子を楽しんでいただけたらと思います。カメラや照明、撮影に携わってくださったスタッフは歌舞伎も日本舞踊も初めて見たという方々ばかり。その感覚が新鮮で作品の意図するところを敏感に感じ取って、いい味を引き出してくださっています。最終的にどんな仕上がりになるのか、ものすごく楽しみです」

 ドライフラワーの髪飾りを戴いた姿での登場となるのは、眼目の「花のこゝろ」だ。共に踊る二歳年下の右近さんは壱太郎さんにとって「親友であり戦友」のような存在だという。
「常にどこかで意識させられ、制作に向かう姿勢においても舞台においても、同じ熱量、同じビートで生きていると実感します。それでいて作品へのアプローチはまるで違う。そこがまたやっていて面白いんです。この創作舞踊で描かれるのは男女の輪廻転生の物語。それを、友吉鶴心さんの琵琶と語りでお見せします」

画像: モード界のトップクリエイターが手掛ける斬新なビジュアルは、日本の伝統美にも通じる PHOTOGRAPH BY MUGA MIYAHARA

モード界のトップクリエイターが手掛ける斬新なビジュアルは、日本の伝統美にも通じる
PHOTOGRAPH BY MUGA MIYAHARA

 琵琶、箏・二十五絃箏、津軽三味線、笛、太鼓と日本の伝統楽器奏者が奏でる音楽が、現代のモード界などで活躍するクリエイターたちのビジュアルと融合し、舞踊という身体表現に昇華した時、どんなARTが生まれるのだろうか。
「ご視聴いただく環境は実にさまざまだと思いますが、どんな環境であれ配信している約80分の間、一瞬たりとも集中力が途切れないようなものを目指します。そしてこの後もこうした活動はずっと続けていきたいと思っています」

 もちろんそれは、徐々に再開し始めた生の舞台と並行してのことだ。3月以降休業していた歌舞伎座もいよいよ「八月花形歌舞伎」で幕を開け、壱太郎さんは第一部の『連獅子』に出演する。
「実際にお客様の前に出て行った時、どんな感情が湧き上がるのか……。感動量はすごいでしょうね」

 コロナをきっかけに歌舞伎がなければ「生きていけない自分」を再認識。ここからが「新たな始まり」だ。「やりたいことはまだまだたくさんあり、別の企画も進んでいます。それらをひとつひとつ形にして、これからもずっと駆け抜けます!」

画像: 『連獅子』仔獅子の精=中村壱太郎(2017年10月御園座) ©︎ SHOCHIKU

『連獅子』仔獅子の精=中村壱太郎(2017年10月御園座)
©︎ SHOCHIKU

<出演情報>

中村壱太郎×尾上右近 ART歌舞伎(オンライン配信公演)
演目:『四神降臨』『五穀豊穣』『祈望祭事』『花のこゝろ』
出演:中村壱太郎、尾上右近、花柳源九郎、藤間涼太朗
演奏:中井智弥(箏・二十五絃箏)、浅野祥(津軽三味線)、藤舎推峰(笛)、
山部泰嗣(太鼓)、友吉鶴心(琵琶)
ヘアメイク:冨沢ノボル、衣装:里山拓斗、ヘッドピース:edenworks
写真:宮原夢画

配信日時:2020年7月12日(日)19:30配信スタート(約80分を予定)
料金:¥3,000(税込)
配信場所:e+「Streaming+」、ローソンチケット「ローチケ powered by Zaiko」
チケット販売期間:2020年7月12日(日)23:00まで
チケット購入ページ:e+
ローソンチケット
※ 配信公演終了後、見逃し配信として7月13日(月)19:29までご視聴いただけます
※ 本配信ののち、7月13日(月)から「アーカイブ配信」を実施。アーカイブ配信の視聴には別途チケットが必要になりますのでご注意ください

図夢歌舞伎『忠臣蔵』第三回(オンライン配信公演)
中村壱太郎 配役:「五・六段目」女房おかる
配信日時:2020年7月11日(土)11:00〜生配信
料金:¥3,700(税込)
配信チケットはe +「Streaming+」にて受付
※ 有料配信チケットは、7月11日(土)23:00まで発売
※ 配信開始後、ライブ配信終了後にチケットを購入いただいた方も7月12日(日)23:00までアーカイブ配信をご視聴できます

歌舞伎座『八月花形歌舞伎』
第一部『連獅子』、第二部『 棒しばり』、第三部『義経千本桜 吉野山』、第四部『与話情浮名横櫛 源氏店』
中村壱太郎 配役:第一部『連獅子』狂言師左近後に仔獅子の精

会期:2020年8月1日(土)~26日(水)
休演日:8月7日(金)、17日(月)
会場:歌舞伎座
住所:東京都中央区銀座4-12-15
料金:1等席¥8,000、2等席¥5,000、3階席¥3,000 ※ 1・2階桟敷席および、4階幕見席の販売はなし
公式サイト
<チケットの購入は下記から>
電話: 0570-000-489(チケットホン松竹)
チケットWEB松竹

 

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