今年の春に刊行された『ずっと美しい人のおしゃれスタイル』。シリーズ3冊の最後を飾るこの本に登場する“カッコいい”シニアマダムたちの言葉は、今を生きる大人の女性たちへの力強いエールだ

BY JUNKO ASAKA, PHOTOGRAPHS BY KIKUKO USUYAMA

 今年4月に刊行された『ずっと美しい人のおしゃれスタイル』。シニアの女性たち31人のファッションをそれぞれの自宅で撮影し、生き方、年齢の重ね方についてインタビューしたユニークな書籍だ。2016年の『ずっと美しい人のマイ・スタイル』、2017年の『ずっと美しい人のインテリア』に続くシリーズの3冊め。シリーズに登場した50代後半から60代の女性たちは計94人にのぼる。

画像: (写真左から)『ずっと美しい人のマイ・スタイル』『ずっと美しい人のおしゃれスタイル』『ずっと美しい人のインテリア』(各¥1,500/集英社)。50代後半や60代女性のファッションやインテリアを通じて、年齢を超えて自分らしくいきいきと生きる、ひとりひとりの“スタイル”を紹介する PHOTOGRAPH BY SHINSUKE SATO

(写真左から)『ずっと美しい人のマイ・スタイル』『ずっと美しい人のおしゃれスタイル』『ずっと美しい人のインテリア』(各¥1,500/集英社)。50代後半や60代女性のファッションやインテリアを通じて、年齢を超えて自分らしくいきいきと生きる、ひとりひとりの“スタイル”を紹介する
PHOTOGRAPH BY SHINSUKE SATO

「私自身、60歳の定年が近づくにつれ、次第に『定年後はどうやって生きていけばいいのか』と思い迷うようになりました。社会から隔絶された、未知の世界に落ちていくような不安にとらわれて……。でも、ふとまわりを見渡してみると、60歳を越えても素敵な女性たちがいっぱいいる。彼女たちは年齢をどう考え、これからどう生きていこうと思っているのか知りたい! と思ったのがきっかけで、このシリーズが生まれました」と語るのは、このシリーズすべてを手がけたフリー編集者の野村英里さんだ。
「私と同じように、年齢を重ねることに不安を覚えている人はたくさんいるはず。その方たちにとって何かの指針になるような本ができたらと思ったんです」

画像: おしゃれで大切なのは「大人の品」と語る浅田美代子さん。女優業とともに、保護犬・保護猫を救う動物愛護の活動に力を注ぐ。「見た目の品だけでなく、自分以外のものやことに心を寄せられること――それこそが真の大人の品性なのだと感動しました」(野村さん) 写真は『ずっと美しい人のおしゃれスタイル』より

おしゃれで大切なのは「大人の品」と語る浅田美代子さん。女優業とともに、保護犬・保護猫を救う動物愛護の活動に力を注ぐ。「見た目の品だけでなく、自分以外のものやことに心を寄せられること――それこそが真の大人の品性なのだと感動しました」(野村さん)
写真は『ずっと美しい人のおしゃれスタイル』より

 登場するシニアマダムたちは、思い思いに自慢のファッションに身を包み、個性豊かなインテリアを背景に微笑んでいる。ストリートスナップとは違った、ひとりひとりの人となり、暮らしの匂いが伝わる写真が魅力的だ。
「シリーズの最初から、借り物ではなくその方自身の服で、お住まいやお仕事場で撮影させていただくという点にはこだわりました」と野村さん。その結果、「同世代でこんな素敵な暮らしをしているカッコイイ女性がたくさんいる!」「昔から見てきた女性が、今も変わらず素敵!」といった感動の声や、「歳をとることが怖くなくなった」といった反響が多く寄せられたという。

「3冊を手がけて思うのは、登場する50代後半から60代の女性たちがみなさん、『私は私、年齢は関係ない』と堂々と言える方たちだということです。若いときは『今に私だって』とギラギラしたり、逆に人と同じでないと不安になったりと、常に周囲と比較しながら自分という存在を認識しがちですよね。でも、取材させていただいた女性たちは、人と自分を比べない。それぞれに紆余曲折があり、挫折を経て、でも『それがあるから今がある』と、現在の自分を肯定している」

画像: 『ずっと美しい人のおしゃれスタイル』の巻頭に登場する松田啓子さん(オフィスM.H.MATSUDA代表)は「大好きなアライアを着るために体型を維持しています」という。「60代後半でサイハイブーツをこんなに素敵に履きこなしている人見たこことない!と衝撃でした。『私は私。誰が何と言おうと私はこれが好き!』という気合のようなものを松田さんから学んだ気がします」(野村さん)

『ずっと美しい人のおしゃれスタイル』の巻頭に登場する松田啓子さん(オフィスM.H.MATSUDA代表)は「大好きなアライアを着るために体型を維持しています」という。「60代後半でサイハイブーツをこんなに素敵に履きこなしている人見たこことない!と衝撃でした。『私は私。誰が何と言おうと私はこれが好き!』という気合のようなものを松田さんから学んだ気がします」(野村さん)

 100人近くに取材して心に残った言葉は、と問うと「なんといっても筆頭は美輪明宏さん」と挙げてくれた。いわく、「シワがあろうがしみがあろうが太っていようが、加齢を情けなく思う必要はない。60にもなったら、若さが太刀打ちできないような包容力とかやさしさ、精神的ゆとりが魅力になる時期にさしかかったと思えばいい」のだと。

 もうひとつは、加藤タキさんの「年齢を言い訳にしない」という言葉。「歳をとれば容姿は衰えていきます。鏡を見るのも嫌になるけれども、鏡を見なきゃだめなのよ、と。鏡で今の自分とか精神状況がわかったら、そこからどうしたらいいのか考えること。自分を見つめなきゃというお言葉がとても胸に残りました」

「私は私」というたくましい自己肯定。それは、もうこのままでいいというあきらめではなく、今が完成形だと開き直っているのでもない。彼女たちは、「まだまだ私は変わっていくのよ」という進化形のエネルギーに満ちているのだ。

画像: 67歳から本格的に始めた社交ダンスのおかげで見事なプロポーションを保っている加藤タキさん。40代半ばから白髪を染めるのをやめ、「明るい色も無理なく着られます。逆に若々しいって言われるわ」と笑う

67歳から本格的に始めた社交ダンスのおかげで見事なプロポーションを保っている加藤タキさん。40代半ばから白髪を染めるのをやめ、「明るい色も無理なく着られます。逆に若々しいって言われるわ」と笑う

「魅力的に年齢を重ねている女性たちには、“年相応”という言葉も無縁です。相応というのはいろんな規範に自分を縛り付けていくことですが、取材させていただいた方々は、そういった規範を越えている。そこが素敵なんだと思います。たとえば60代後半でミニスカートにサイハイブーツを素敵に着こなしている方もいれば、人とは違う個性的なおしゃれを楽しんでいる方もいる。無理をすることなく、私はこれが好きなの! という気合、心意気の強さが、その服をその人に似合わせているんですね」

 興味深いのは、取材されたマダムたちのほとんどが、ひと目でわかるブランド物を身につけていないことだ。ブランドのパワーを借りるまでもなく、自分自身の選択眼に自信を持ち、自分だけのスタイルを愛しているから、彼女たちはこんなにも充実して見えるのだろう。

画像: 出版社を一昨年定年退職し、現在はフリーランスのエディターとして数々の書籍に携わる野村さん。「100人近くの女性たちにお会いしてたくさんの言葉をうかがい、それが私自身の宝物になりました」 PHOTOGRAPH BY SHINSUKE SATO

出版社を一昨年定年退職し、現在はフリーランスのエディターとして数々の書籍に携わる野村さん。「100人近くの女性たちにお会いしてたくさんの言葉をうかがい、それが私自身の宝物になりました」
PHOTOGRAPH BY SHINSUKE SATO

 60を過ぎれば「おばあさん」と思われた時代はすでに去った。「街を歩いていても、おしゃれな年配の方、白髪だけれど小綺麗な方がすごく増えました。いま、女性たちは年齢に関係なく、いくつになってもきれいでいたいとい思っている。でも男性に比べて、本来、女性のほうが“もっともっと”の欲に満ちているのではないかと思うんです。こうしたい、あそこに行きたい、あれが食べたい、と(笑)。加えて、『後がない』という思いゆえに、1日1日が本当に大切になっていきます。この3冊でお会いできた女性たちをお手本に、自分自身も毎日をちゃんと、そして楽しんで生きなければ、と思っています」

 エネルギッシュな欲望を道連れに、3冊に登場する日本のシニアマダムたちは今このときを、きらきらと輝きながらエンジョイしている。「Carpe diem カルペ・ディエム(今日という日の花を摘め)」――それこそが、抗いようのないエイジングに対する唯一の武器なのかもしれない。

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