BY YUJI ITO
英国が誇るこの老舗ブランドの伝統に、現代的かつ大胆な感性をもってアレンジを加えたのが、新クリエイティブ・ディレクターとして就任したルーク・ゴダディンである。彼の初のコレクションとなる、2019-20年の秋冬コレクションは、スマイソンのブランドヘリテージを重んじつつ、英国らしいウィットとの折衷主義をテーマに新しいシェイプやテクスチャーが採用されている。鳥や羽根を連想させるデザインディテールはフェザー・ウエイト・ペーパーにインスピレーションを受けたもので、スマイソンらしさを確実に継承しながら、現代的なモダニズムも漂う。
その一例を紹介すると、アコーディオン型の仕切りを取り入れた「CONCERTINAシリーズ」をはじめ、丸みを帯びたフラップを採用した「PILLOWバッグ」、シンプルなデザインと大容量の機能性に定評のある「CIAPPAトート」は、コンパクトなトップハンドルモデルも登場する。月の満ち欠けから着想を得た「MOONコレクション」では、底が平らな半月形ボーリングバッグと、アシンメトリーに伸びたバックルをあしらい、半月形をさらに半分に切った形のクロスボディ バケツバッグがデビューする。
ゴダディンが手掛けたコレクションはバッグのみならず、トップステッチが施されたバックギャモンケース、折りたたみ式ウォッチロール、革製の写真立て、シルクスカーフなど多岐にわたる。ここにもスマイソンがこれまで展開してきた、ざまざまなアイテムに対するオマージュが感じられる。
英国では、伝統と歴史があるものはリスペクトされる。だが、伝統をただ継承するだけでは時代に取り残されていってしまう。その本質を先見の明をもって見極めていたのが、フランク・スマイソンの偉業ともいえる。ブランドがもつ伝統に創造性や革新をくわえた、2019-’20年の秋冬コレクションによってスマイソンは新たな扉を開いた。ルーク・ゴダディンが表現したかったことは、ブランドの原点でもある、“伝統とモダニズムのツイスト”だったのかもしれない。