BY KIMIKO ANZAI, PHOTOGRAPHS BY SHINSUKE SATO
川村が最初に着手したのが、ライフスタイル誌ジャーナリストへの啓蒙活動だった。「まずはシャンパーニュの魅力を知ってほしい」と、フランス大使館やインポーターの協力を得て毎年60種を超えるシャンパーニュを集め、「シャンパーニュの多彩な魅力を知る会」を開催した。それまではクリスマスと年末に消費が偏っていたが、「夏こそシャンパーニュを!」と提案。また、99年からは一般の愛好家を対象とした「シャンパーニュ・アカデミー」をスタート。さらに、日本料理との相性のよさをアピールするために、日本料理とシャンパーニュの会を開催するなど、シャンパーニュの楽しみ方を発信し続けた。
シャンパーニュ愛好家は次第に増え、それに従って、輸入本数も年々増えていった。バブルの時代でさえ150万本だった輸入本数が、2007年には初めて1000万本を越えた。そして昨年、201年には1,800万本を越え、日本はフランスにとって世界第3位のシャンパーニュ輸出国となったのだ。ちなみに、1位はイギリス、2位がアメリカである。川村はこう語る。
「ここまで日本でシャンパーニュ人気が高くなったのは、なんといってもインポーターの皆さまの努力が大きいと思います。各インポーターがそれまで1社1銘柄の扱いだったものを、リーマンショック以降は1社で何銘柄も扱い、価格帯や販路を広げて顧客のニーズに応えるという戦略をとるようになりました。また、伊勢丹新宿店が毎年11月末に開催するシャンパーニュの祭典『ノエル・ア・ラ・モード』や、日本事務局が19年間主催している消費者向けシャンパーニュ定期講座なども功を奏していると思います」
そして近年では、かつて川村が願ったように、カフェなどでも気軽にシャンパーニュがグラスで楽しめるようになった。
「シャンパーニュは、海外の人々にとってはゆとりのある大人が楽しむものですが、日本では女性が中心となってワイン文化を盛り上げています。この現象は日本独特のものですね。日本は、ワインのスタイルの自由度が高いと思います。今後は、日本の日常のお惣菜にも、シャンパーニュを合わせて楽しむ人が増えるのではないかと予測しています」
ノン・ヴィンテージ、ブラン・ド・ブラン、ブラン・ド・ノワール、ロゼ、プレステージと、多彩なスタイルをもつシャンパーニュ。この多様な魅力を武器に、次に川村が仕掛けてくるものは何なのか。おそらくは、それは“トレンド”となって、また新たなシャンパーニュの文化を作り上げていくのだろう。