ブームに沸く日本ワインの実力は世界に届くのか? ワインジャーナリスト安齋喜美子が俯瞰する

BY KIMIKO ANZAI, PHOTOGRAPHS BY KASANE NOGAWA

 「グレイス エクストラ ブリュット 2011」を口にしたとき、その華やかな香りと豊かな果実味に魅了された。もし、ブラインドで出されたら、これが日本のシャルドネだと答えられる人は多くはないだろう。「日本ワインはここまで来たのか!」と感動する一瞬だ。

画像: 北杜市にある「明野・ミサワワイナリー」の自社畑。甲州、シャルドネ、メルロ、カベルネ・ソーヴィニヨン、プティ・ヴェルド、カベルネ・フランを栽培

北杜市にある「明野・ミサワワイナリー」の自社畑。甲州、シャルドネ、メルロ、カベルネ・ソーヴィニヨン、プティ・ヴェルド、カベルネ・フランを栽培

 2016年6月、英国の権威あるワイン専門誌『デキャンタ』が主催する「デキャンタ・ワールドワイン・アワード(DWWA)2016」において、「グレイス エクストラブリュット 2011」は、スパークリングワインとして、アジア初の「プラチナ賞」を受賞した。対象となったのは世界中から出品された約16,000銘柄。「プラチナ賞」は95点以上の「金賞」を獲得したワインの中から最高得点を獲得したワインに授与されるもので、全体の1%弱という“狭き門”。しかもライバルはその8割が欧州勢だ。加えて、日本の在来品種の甲州種ではなく、国際品種であるシャルドネでの受賞は、まさに日本ワインにとっての快挙だった。

画像: 「デキャンタ・ ワールドワイン・アワード 2016」でアジア初のプラチナ賞を受賞した 「グレイス エクストラ ブリュット 2011」(750ml)オープン価格

「デキャンタ・ ワールドワイン・アワード 2016」でアジア初のプラチナ賞を受賞した 「グレイス エクストラ ブリュット 2011」(750ml)オープン価格

 造り手は山梨県勝沼町にある「中央葡萄酒」。醸造責任者は“日本ワインのホープ”と評される5代目の三澤彩奈だ。1923年創業の「中央葡萄酒」は日本ワインを牽引してきた造り手のひとつで、彩奈の父である三澤茂計は、かつて日本ワインの世界に大きな思想的影響を与えた「シャトー・メルシャン」元醸造部長の故・麻井宇介(浅井昭吾)とともに、甲州種の発展に大きく寄与した人物だ。彩奈は、真摯にワインを造る父の背中を見て育った。彩奈が幼かった頃は、女性が蔵(カーヴ)に入ることさえはばかられた時代で、彼女自身、ワインに興味をもちつつも、醸造家になろうとは思っていなかったという。

画像: 三澤彩奈。父にならい、「畑は聖地」の思いをもつ

三澤彩奈。父にならい、「畑は聖地」の思いをもつ

 だが、20代前半のある日、マレーシアの「マンダリン オリエンタル クアラルンプール」の和食レストランで、ある夫婦に出会う。ヨーロッパ系の夫とアジア系の妻は、毎晩ディナーで「グレイス甲州」を1本開けていたのだ。彩奈の父が挨拶に行くと、女性はこう言ったという。「日本を象徴するようなワインですね」――。彩奈は、この言葉に深い感動を覚えた。同時に、子ども時代に聞いた「甲州は淡い撫子色。日本女性の色なんだよ」という父の言葉が蘇った。次第にワイン造りへの思いは強くなり、ある日、父に醸造家になる意思を告げると、父は満面の笑顔でこう言ったという。「地獄へようこそ」――。まだ、日本ワインが注目されなかった時代のことだ。

 

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