BY KIMIKO ANZAI
アンジェロ・ガヤ氏は、1859年にピエモンテ州に設立された「ガヤ」の4代目として、最先端のワイン造りに取り組み、イタリアワインにおいて多くの改革を行ってきた。イタリアワインの世界にブルゴーニュのような”単一畑”の概念を持ち込んで、より優れた区画のブドウ栽培にフォーカスしたり、ピエモンテを代表する品種・ネッビオーロを使った銘醸酒「バローロ」、「バルバレスコ」の熟成に小樽を導入してタンニンを柔らかくしてエレガントに仕上げるなど、世界レベルにまで押し上げた。結果、世界的権威のあるワイン専門誌『ヴィニ・ディタリア』(通称”ガンベロ・ロッソ”)で最高評価の”トレ・ビッキエリ(3グラス)”を最多獲得している。
世界の注目をバルバレスコの地に向けるため、「まずは国際品種(カベルネ・ソーヴィニヨン)で世界に通用するワインを造らなくてはいけない」と、優良な畑のネッビオーロ種を引き抜いて、カベルネ・ソ―ヴィニヨンに植え替えた。彼の父は「ダルマジ!(残念だ)」と肩を落としたというが、その畑のブドウで造られたワインは「ダルマジ」と名づけられ、瞬く間にワイン愛好家垂涎の1本となった。同時に、土地の品種を大切にし、テロワールが感じられるワインを世に送り出している。たとえば、ネッビオーロで造られた「バルバレスコ 2019」は、ジューシーで甘やかな果実味となめらかなタンニンを持ち、一瞬で心を奪われるおいしさだ。常にワインと向き合い、次々と改革を続けてきたガヤ氏。彼を動かしたものは何だったのか。
「ワイン造りにおいて『これが正解』というものはないと私は思うんだ。より素晴らしいワインを造るために、今行われていることを常に見直していく。そうすると、いろいろなことに気がつく。ただそれだけだよ。ただし、人と同じことをするのではなく、リスクを取っても挑戦することが大切なんだ」。
ガヤ氏はなにより土地を大切にする生産者としても知られる。最上級のワインは健康な土地から生まれる。サステナブルの概念が普及する前から、「とにかく畑は大切にしてきた」と胸を張る。化学肥料を使わず、下草はそのままに。生物多様性を尊重した畑には、クローバーやマメ科の植物も生えている。これらの根は土中に伸びることで土を柔らかくしてくれるのだという。昆虫も多数棲み、テントウ虫や蝶々の天国だという。「蝶々は清らかな土地でしか飛ばない。畑に飛ぶ蝶々を見るのが大好きなんだ」と笑顔を見せる。
また、ガヤ氏は1996年には、スーパー・タスカンが生まれるトスカーナ州沿岸部のボルゲリにワイナリー「カ・マルカンダ」を設立、ボルゲリの新たなスタイルを探ることを目的とするプロジェクトをスタートさせた。結果、ワイナリーを代表する「カ・マルカンダ」(赤)や「マガーリ」(赤)は、瞬く間に銘醸ワインの仲間入りを果たした。「ヴィスタマーレ」はここで造られる唯一の白で、レモンの風味と心地よい酸味が特徴。夏に飲みたくなる味わいで、魚介類との好相性を見せる。
ガヤ氏は、すでに80才を迎えたが、ワインに対する情熱は衰えを知らない。2016年にはシチリア・エトナに進出、新たなプロジェクトに取り組んでいる。現在では彼の3人の子どもたちが次世代として教えを受けているところだ。
彼を動かした原動力は何だったのかと尋ねると、彼は笑顔でこう答えた。
「『人と同じことをせず、常に上を目指せ』と教えてくれた祖母や父の教えだね。間違うことを恐れず、そして楽観的であれ、とも言われたよ。以来、私はずっと上を向いてる。下を見ていては、虹は見えないからね(笑)」
エノテカ
TEL. 0120-81-3634
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