「ラデュレ」を皮切りに「オテル・ル・ムーリス」ほか、ミッシェル・トロワグロ率いる「オテル・ランカスター」と三つ星レストラン「ピエール・ガニェール」ではシェフパティシエを歴任。世界のグランシェフたちの信頼を得てガストロノミー界の檜舞台に登場し、現在はパリを拠点に、世界各地で活躍中の長江桂子さん。その精確で明瞭なレシピにはプロの間でも定評あり。家庭で楽しむお菓子においては、誰もがつくりやすく、砂糖やバターの量をギリギリまで減らし、味わい深く食べ心地は軽やかなレシピを提案している。基本のレシピをマスターしたら、風味や形を変えてさまざまに楽しめるアイデアも。これさえ覚えておけば、お菓子づくりには一生困らない。とっておきのレシピを丁寧にお伝えします。お菓子の時間の幸せを、あなたもどうぞ

RECIPE BY KEIKO NAGAE, PHOTOGRAPHS BY MANA LAURENT, TEXT BY MIKA KITAMURA

画像: アングレーズソースを凍らせ、ミキサーで攪拌して空気をたっぷり含ませたバニラアイスクリーム。使用したバニラビーンズのサヤを添えて

アングレーズソースを凍らせ、ミキサーで攪拌して空気をたっぷり含ませたバニラアイスクリーム。使用したバニラビーンズのサヤを添えて

 冷菓といえば、バニラアイスクリーム。なめらかな口当たり、上品なバニラの香りは飽きのこない定番の味。

 アイスクリームの歴史は古い。もっとも古い記述は旧約聖書の『創世記』に、イサクがアブラハムに「雪と山羊の乳を混ぜたもの」を飲ませたとある。古代ローマの英雄、ジュリアス・シーザーがアペニン山脈から氷や雪を運ばせ、乳や蜜、ワインなどを混ぜて飲んで楽しんだことはよく知られている。フランス菓子として登場するのは、16世紀から。フィレンツェの大富豪・メディチ家のカトリーヌ・ド・メディチがオルレアン公(後のフランス王アンリ2世)との結婚に際し、菓子職人を伴って輿入れをしたときが始まりといわれている。

 「バニラアイスクリームのレシピはいろいろあり、私は季節やデザートの内容によって使い分けています。今回は夏向きに、口溶けがよく、すっきりと軽やかな味わいのアイスクリームをご紹介します。私自身、重すぎる味をあまり好まないので、このレシピはとても気に入っています」と長江さん。

 アイスクリームメーカーを持っていなければ家でアイスクリームを作るのは大変と一般に思われているが、長江さんのおすすめレシピは、アングレーズソースを凍らせてミキサーで攪拌するだけ。専用器具がなくても、添加物ゼロ、糖分も脂肪分もぐっと控えめなのに風味豊かなアイスクリームを、自分で作れるのだ。もしもアイスクリームメーカーがあるなら、アングレーズソースを器具に入れるだけでOK。キッチンに長時間立ちたくない暑い季節でも、トライしやすいレシピだ。

 「アングレーズソースに生クリームをプラスしたり、卵黄の量を増やしたり、よりリッチな仕上がりのレシピも多いのですが、これはとてもシンプル。基本のレシピとして覚えてほしいですね」。

 冷たくて甘いものは、古来、夏の健康食品として貴重だった。今はスイーツとして愛されているが、夏バテ防止に、手作りのアイスクリームなんて洒落てみてはいかが。

画像1: パリのパティシエ
長江桂子さんにお菓子を習う
Vol.8 バニラアイスクリーム

材料

牛乳 250g
バニラビーンズ 1/2本
グラニュー糖 40g
卵黄 50g

作り方 

画像1: 作り方

1 バニラビーンズは縦に切り、タネを包丁でしごき出す。鍋に牛乳とバニラビーンズのタネとサヤを入れ、中火にかけて沸騰する直前に火を止める。

画像2: 作り方

2 ボウルに卵黄、砂糖を入れて泡立て器でもったりするまでしっかり混ぜる。最初は白っぽいが、次第に濃い卵色になる。なめらかなツヤが出てくるまですり混ぜる。

画像3: 作り方

3 1の牛乳の半量を2の卵黄に加え、よく混ぜて1の鍋に戻し入れる。

画像4: 作り方

4 ヘラで底を万遍なく混ぜながら、表面の泡が消え、トロッとするまでアングレーズソースを炊く。完成の目安は下の写真を参考に。

画像5: 作り方

5 出来上がりの目安は、ヘラについたソースを指でこすり、写真のように跡がついたら、ちょうどよい濃度になっていてOK。
*万が一、4でダマができてしまったら、ざるで漉し、ハンドミキサーでなめらかになるまで混ぜるとよい。強火で加熱し過ぎたり、鍋底をよくかき混ぜなかったりすると、ダマができやすいので気を付けて。

▼アングレーズソースの作り方については、こちらの記事をご参考に

画像6: 作り方

6 バニラのサヤや粒が残ると雑味が出てくるので、5を茶漉しなどで漉す。ボウルの底を氷水につけてヘラで混ぜながら冷ます。

画像7: 作り方

7 6をシリコン型などに注ぎ入れ、1時間以上冷凍する。型は小さめのほうがミキサーにかけやすいので、おすすめ。

画像8: 作り方

8 7をブレンダーで攪拌し、器に盛る。

長江桂子(ながえ・けいこ)
学習院大学を卒業後、ソルボンヌ大学に留学。ル・コルドン・ブルーでディプロマを取得。「ラデュレ」を経て、ロンドン「スケッチ」のオープニングスタッフに。2003年ヤニック・アレノ率いる「オテル・ムーリス」、2004年「オテル・ランカスター」シェフパティシエ、2008年パリ「ピエール・ガニェール」シェフパティシエを歴任。2012年、ガストロノミー界のコンサルティング会社「AROME」をフランスで設立。パリを拠点に、世界各地にて菓子ブランドや店舗の立ち上げ、商品開発、技術指導、監修などを手がける

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