TEXT&PHOTOGRAPHS BY JUNKO AMANO
京都には独自の進化を遂げた中華がある。最近では京都中華と呼ばれることもあり、ここ数年、京都にやってくる友人から「中華を食べたい」というリクエストをよく受ける。そこで今月は地元人に愛される町中華を紹介。第3弾は「中華のサカイ本店」をご案内します。
紫野「中華のサカイ本店」
「中華のサカイ本店」と言えば、冷麺。逆もしかり、京都で冷麺と言えば、「中華のサカイ本店」と答える人も多い。ちなみに冷麺とは全国的に言う冷やし中華のことである。
大徳寺の東側に位置し、決してアクセスがいい場所ではないが、サカイの冷麺を食べるために、わざわざ訪れてしまうほど、シンプルにして唯一無二のおいしさだ。
自家製マヨネーズや酢、からし、鶏ガラスープを使ったソースはクリーミーかつコクもあり、爽やかな酸味とほのかな辛みもふわり。親しみやすい味ながら、再現不可能な味わいで、湯がいた後に氷水でしめたキンキンに冷えた太麺にたっぷりからませていただけば、箸が止まらない。
「うちは麺とタレがメインやしね」と、具材はあえて焼き豚(またはハム)、キュウリ、刻み海苔と、シンプルに。自家製の焼き豚もあっさりしていて、主張しすぎず、脇役に徹している。
冷麺は昭和28年から出しているメニューで、最初は他店と同じく、夏限定だったとか。ところが、サカイの冷麺で育った人たちが、正月に実家に帰った時に食べたいという声や、年末に帰省する際に田舎に持って帰りたいという声が多く、30年前から一年中出すようになったそう。
豆腐屋さんやかしわ屋さん(鶏肉専門店)など、昔ながらの個人商店が軒を連ねる商店街にあり、元々は地元人に愛される町中華だったが、今や冷麺を求め、旅行者もわざわざ訪れ、昼には行列も。
「観光の方は冷麺を目指して来はるし、最近はお客さんの8割が冷麺を注文しはるね」と、2代目女将・土田美津子さん。
ダントツ人気は冷麺だが、オムライスも隠れファンが多いメニューだと言う。実は、昭和14年、喫茶店として創業し、次第に洋食メニューを出すようになり、戦後、中華料理店に転身。オムライスは洋食店時代の名残だそう。
「戦後、食材が手に入らなくて、洋食を作るのが難しく、中華やったら、食材を余らさずに使い切れるし、中華をやり始めたって聞いてます」。
鶏肉とタマネギ入りのケチャップライスを薄焼き卵で巻いたオムライスは昔ながらの優しい味わい。サイズも小ぶりで、スルスルペロリといける冷麺と共に一人で両方食べる人も少なくない。
店の至るところにあしらわれたサカイのロゴや看板屋さんに書いてもらっているという達筆なお品書き、サービスするおねえさんたちのトリコロールカラーのエプロンまでも、長年変わらない町中華らしさが感じられ、楽しい。
昼の営業は16時までと長めで、昼時を外すと並ばず入れることも多い。塔頭が立ち並ぶ大徳寺やあぶり餅を扱う日本最古の菓子店が参道にある今宮神社なども近く、紫野エリアの散策の際には是非。
中華のサカイ本店
住所:京都市北区紫野上門前町92
営業時間:11:00~16:00(15:50L.O.)、17:00~21:00(20:30L.O.)
定休日:月曜(祝日の場合営業、翌火曜休)
TEL. 075-492-5004