BY CHIKO ISHII, PHOTOGRAPH BY MASANORI AKAO, STYLED BY YUKARI KOMAKI

文豪たちが筆をふるったのがどこの品か記録はないが、羊羹といえば「とらや」。右は、その名を『古今和歌集』の一首「春の夜の闇はあやなし 梅の花 色こそ見えね 香やは隠るる」にちなむ「夜の梅」。切り口の小豆は闇に咲く梅の花。崇高なたたずまいに惚れぼれ。「竹皮包羊羹 夜の梅」¥3,024
とらや
TEL.0120-45-4121
眼鏡¥49,500/モスコット
モスコット トウキョウ
TEL.03-6434-1070
禅僧が食べることを禁じられた肉に見立てて小豆などで作った料理を由来とする羊羹。贅沢なイメージがある和菓子だ。永井荷風は「羊羹」という題名の短編小説を書いている。主人公の新太郎は、小料理屋の見習い料理人だったが、戦後は金に不自由しない身となり、今の自分を元の主人に見せようと会いに行くが……。戦争により古い社会は破壊されたはずなのに、階層は入れ替わっていないと知った新太郎が、高価な羊羹を買うラストシーンは複雑な後味を残す。その羊羹はもしかしたら「とらや」の「夜の梅」をイメージしていたかもしれない。荷風の「毎月見聞録」に「全国菓子陳列会」に行ったときの記録があり、銘菓の名前が並ぶ中に「夜の梅」もある。
また、谷崎潤一郎は『陰翳礼讃』で羊羹の色合いを〈玉(ぎょく)のように半透明に曇った肌が、奥の方まで日の光りを吸い取って夢みる如きほの明るさを銜(ふく)んでいる〉と称賛している。
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