BY MASANOBU MATSUMOTO
客室エントランスの両壁には、「あうん像」のように二対になった絵画が飾られ、さらに客室に足を踏み入れると、お花モチーフのラグや絵文字とお花を融合させた平面作品、そして金箔で装飾された“お花の親子”の彫刻が目に入る。すべて現代美術家、村上 隆の作品だ。「グランド ハイアット 東京」は村上 隆とコラボレーションし、彼の代表的シリーズである“お花”モチーフの作品を客室に展示。このいわば村上の“プライベート・アート・ギャラリー”に宿泊できる特別プランを1泊1組限定で開始した。
飾られている作品は14点。うち10点が新作だ。村上本人が客室に合わせて作品を構想し、また展示位置も自らが決めたという。コンセプトは“村上作品のコレクターの部屋”。美術館やギャラリーとはまた違う、リラックスしたスペースで作品をより身近に味わえる。ゲスト用のトイレのなかには、便座に座るお花の子どもをモチーフにした《Puuuu》を配置したり、ベッドには、人間サイズの《お花の親子のぬいぐるみ》を寝そべらせたりと、遊び心溢れる演出も楽しい。
ただ、ここで体験できるのは“見る”だけではない。ウェルカムスイーツや客室で提供されるディナーも、お花バージョンでアレンジ。オプションとして、お花モチーフのネイルサービスも受けられる。また宿泊者には1組1冊、村上のアートブック『©︎ TAKASHI MURAKAMI』がサイン入りでプレゼントされ、お花のマスクやマグカップが数量限定でお土産に。
コロナ禍により、美術館やギャラリーの閉鎖が余儀なくされた当時、村上自身、アートとのタッチポイント、新しいコミュニケーションの形を提案したいと思ったことも、今回のコラボレーションの背景にはあるそうだ。村上のお花モチーフは、現代アートに多くみられる難解な作品とは一線を画し、子どもから大人まで誰もが楽しめる。しかもそのほとんどが笑顔だ。ハッピーだけでなく、仏像的なアルカイックスマイルや日本人特有の“怖い笑顔”もあるとも本人は語っているが、村上のお花はカラフルな彩りと相まって、見る者の頬を緩ませる力がある。そんな楽しく幸福なモチーフが散りばめられた客室でのステイは、不穏なニュースが多い現代における最高の癒しになるだろう。