せきね きょうこ 連載
新・東京ホテル物語<Vol.40>

New Tokyo Hotel Story “THE RITZ-CARLTON, TOKYO”
ホテルジャーナリスト、せきね きょうこが独自の視点でおすすめの東京ホテルを案内。連載第40回目は、六本木の街と東京のホテル事情を変貌させた最高級ホテル「ザ・リッツ・カールトン東京」

BY KYOKO SEKINE

 現在、東京ミッドタウンのある六本木エリアは、その昔、江戸時代にさかのぼれば萩藩・毛利家下屋敷だったという歴史がある。時は流れ、終戦後には米軍将校の宿舎に、やがて防衛庁本庁の所在地として知られた都心の一等地は、2000年の本庁移転とともに大規模な都市計画の対象となった。

 長い時をかけた結果、2007年3月、われわれの想像をはるかに超えるゴージャスなコンプレックス「東京ミッドタウン」のグランドオープンに至り、この一角のイメージはすっかり変えられた。新しい施設内を飾ったのは、数々の一流企業やトレンディな店舗が軒を並べた商業施設。最上部には豪華ホテルが、隣接してレジデンス棟が併設された。

画像: 東京港区六本木エリアに、ひときわ高くそびえる東京ミッドタウンの超高層ビル。ホテルはこの高層階に展開されている

東京港区六本木エリアに、ひときわ高くそびえる東京ミッドタウンの超高層ビル。ホテルはこの高層階に展開されている

 最大の話題となったのは、東京のホテル事情を大きく変えた外資系最高級ホテル「ザ・リッツ・カールトン東京」の開業である。1997年以来、すでに営業していた「ザ・リッツ・カールトン大阪」に次いで待ち望まれた2軒めとして、東京初の同ブランドオープンであった。

 華やかに幕を開けた話題のホテルには、全国から多くのホテルファンがやってきた。先に誕生していたコンプレックス「六本木ヒルズ」内の高級ホテルとともに、「ザ・リッツ・カールトン東京」の開業は、六本木がよりいっそうカルチャーの先端をいく、クールで国際的な街へと変貌していく序章となったのである。

画像: 朝から晩まで1日中込み合う人気のザ・ロビーラウンジ。奥に見えるカウンター席はバーの一部。窓が大きいため、昼もエキサイティングな情景が望めるが、夜景は都会ならではの美しさ

朝から晩まで1日中込み合う人気のザ・ロビーラウンジ。奥に見えるカウンター席はバーの一部。窓が大きいため、昼もエキサイティングな情景が望めるが、夜景は都会ならではの美しさ

「ザ・リッツ・カールトン東京」は、ミッドタウン・タワーの地下1階~2階、高層階の45階~53階に分かれ、フロント、ロビー、広いラウンジやレストランは45階に設置された。全247室の客室があるのは47階以上。超高層階から眺める東京の情景は、好天の日なら西の空に富士山を望み、東には東京湾が広がり格別にドラマチックである。客室の広さはボトムで52㎡、最大の「ザ・リッツカールトン スイート」は300㎡と、広く堂々たる造りだ。

画像: 53階からの眺望がすばらしい「プレジデンシャル スイート」<220㎡> 写真のリビングルームでは、都会の景色の奥に富士山も一望。床材には最高級素材のエボニー(黒檀)を使用。寝室のベッドヘッドには、組子細工職人による神大杉と檜の細工が飾られている

53階からの眺望がすばらしい「プレジデンシャル スイート」<220㎡>
写真のリビングルームでは、都会の景色の奥に富士山も一望。床材には最高級素材のエボニー(黒檀)を使用。寝室のベッドヘッドには、組子細工職人による神大杉と檜の細工が飾られている

画像: 客室「モダンジャパニーズ スイート」<100㎡> ベイエリアや東京タワーが目前に迫る部屋。障子やヘッドボードの西陣織、京友禅職人が和紙に手描きした豪華な襖など、貴重な日本伝統のアートに包まれている

客室「モダンジャパニーズ スイート」<100㎡>
ベイエリアや東京タワーが目前に迫る部屋。障子やヘッドボードの西陣織、京友禅職人が和紙に手描きした豪華な襖など、貴重な日本伝統のアートに包まれている

画像: 新宿エリアが望める客室「クラブ デラックス」<52㎡> クラブレベルへのアクセスが可能な客室。ベッドヘッドボードは300年続く西陣織の伝統技法で、銀泊を貼った和紙を数ミリ単位で裁断し、糸として織り込んだもの。両側の渋柿色の壁を飾る「子持菱」は木を編み込むような組付け技法で、無病息災を祈る意味をもつ

新宿エリアが望める客室「クラブ デラックス」<52㎡>
クラブレベルへのアクセスが可能な客室。ベッドヘッドボードは300年続く西陣織の伝統技法で、銀泊を貼った和紙を数ミリ単位で裁断し、糸として織り込んだもの。両側の渋柿色の壁を飾る「子持菱」は木を編み込むような組付け技法で、無病息災を祈る意味をもつ

 最上53階に位置するクラブラウンジは、2015年9月、全客室の改装とともにリニューアルオープン。クラブレベルに滞在するゲスト向けの施設として、ホテルが“最上級”と謳う「レジデンスのように過ごせるもてなしの空間」である。

 改装により以前より広くなった340㎡ものクラブラウンジは、4つの異なるエリア(ホワイエ、ガーデンテラス、ダイニングルーム、ライブラリーラウンジ)で構成され、それぞれ趣の違う過ごし方ができる。朝食、アフタヌーンティー、夕刻時のカクテルタイムなどに加え、曜日ごとに異なるサービスが提供される特別企画もあり、1日5回のフードプレゼンテーションはまさに贅を尽くした内容となっている。

画像: クラブラウンジでは、毎週土・日・月曜日にはハープの生演奏が。優雅な調べとともに贅沢なアフタヌーンティー・タイムが過ごせる

クラブラウンジでは、毎週土・日・月曜日にはハープの生演奏が。優雅な調べとともに贅沢なアフタヌーンティー・タイムが過ごせる

 また、ダイニングの充実は言うまでもない。2016年からミシュランの一つ星を4年連続獲得しているモダンフレンチ「アジュール フォーティーファイブ」をはじめ、よりカジュアルなコンテンポラリーグリル「タワーズ」、外国人ゲストにも人気の高い日本料理「ひのきざか」のほか、1階のキャノピー・スクエアに面した「ザ・リッツ・カールトン カフェ&デリ」まで、いずれもザ・リッツ・カールトンらしい個性を演出している。

画像: 日本料理「ひのきざか」 由緒ある岐阜の古民家を移築した「黒松庵」は、祝い事や特別の席に PHOTOGRAPHS: COURTESY OF THE RITZ-CARLTON, TOKYO

日本料理「ひのきざか」
由緒ある岐阜の古民家を移築した「黒松庵」は、祝い事や特別の席に
PHOTOGRAPHS: COURTESY OF THE RITZ-CARLTON, TOKYO

 歴史を語ればきりがないが、このブランドには伝説的なサービスの要(かなめ)が存在する。1983年に設立された「ザ・リッツ・カールトン・ホテルカンパニーL.L.C」が掲げた“究極のサービス”のための真髄、ブランド共通の価値観である「クレド(信条)」の存在だ。世界中のすべての従業員が、ゴールド・スタンダードが記された「クレド・カード」を常に携帯し、その理念を心に刻み、ゲストに実践していると言われている。

 かつて、スイス人の偉大なホテリエ、セザール・リッツと、当時の天才料理人オーギュスト・エスコフィエとの出会いに始まった「リッツ」のホテルストーリー。彼らの目指した、ラグジュアリーとパーソナルなもてなし、美食の追求の原点は今も燦然と輝いている。

 私事だが、セザール・リッツの生涯をライフワークとして調査し続ける中で、リッツ生誕地であるスイスの寒村ニーダーワルトに何度も足を運び、“リッツの語り部”と称した村の古老に幾度となく話を聞いた。「世界で初めてホテルにラグジュアリーの概念を創造し、確立したのは、まさにセザールとオーギュストの二人だ」と繰り返していた言葉が心に残る。

 ザ・リッツ・カールトンの歴史は、ホテルのホスピタリティ業界に贅ある滞在を定着させた歴史でもあろう。「ザ・リッツ・カールトン東京」は、こうした歴史のもとに、“East meets West”をホテル全体のコンセプトとして体現し、新しさ、日本らしさ、独自性を随所に演出している。

ザ・リッツ・カールトン東京(THE RITZ-CARLTON, TOKYO)
住所:東京都港区赤坂9-7-1 東京ミッドタウン
電話: 03(3423)8000
客室数:247室
料金:¥90,000~(1泊1室の室料。税・サービス料別)
公式サイト

せきね きょうこ
ホテルジャーナリスト。フランスで19世紀教会建築美術史を専攻した後、スイスの山岳リゾート地で観光案内所に勤務。在職中に住居として4ツ星ホテル生活を経験。以来、ホテルの表裏一体の面白さに魅了され、フリー仏語通訳を経て、94年からジャーナリズムの世界へ。「ホテルマン、環境問題、スパ」の3テーマを中心に、世界各国でホテル、リゾート、旅館、および関係者へのインタビューや取材にあたり、ホテル、スパなどの世界会議にも数多く招かれている。雑誌や新聞などで多数連載を持つかたわら、近年はビジネスホテルのプロデュースや旅館のアドバイザー、ホテルのコンサルタントなどにも活動の場を広げている
www.kyokosekine.com

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