BY YUKA OKADA
インテリアデザイン界の巨匠による緩急が絶妙な
「シックスセンシズ マックスウェル」
シンガポールのホテルというと、まずカジノホテルのマリーナベイサンズ、この8月にリニューアルオープンを控える名門ラッフルズ、さらにハイアットをはじめとする外資系ブランド、よりリゾートライクに過ごすならセントゥーサ島のリゾート…… と、観光を資源に発展を遂げてきたアジアの国際都市らしく、ひと通りの選択肢が揃っている。
そこに2018年、新たに加わったのが、オーセンティックとサステイナブル、そして土地特有の文化との共存を掲げるホテルズ&リゾーツを世界14カ国で展開するシックスセンスだ。ブランドとして初のシティホテルが2軒、徒歩5分圏内にオープンした。どちらも近代のシンガポールを象徴する奇天烈な高層タワーとは一線を画す、1920年代のコロニアル様式による4階建て建築をリノベーション。チャイナタウンの中枢にもほど近い、低層建築が連なる古きよき情緒を残したタンジョンパガー地区に位置し、中心部のシティ・ホール界隈まで、真夏を除けば散歩がてら歩けない距離でもない。
特筆すべきはそのインテリアデザインで、2018年12月にオープンしたばかりの「シックスセンシズ マックスウェル」は、70歳を超えたフランス人のジャック・ガルシアが担当。ホテルだけでもNYやLAのザ ノマド ホテル、パリではオテル コストをはじめラ レゼルヴやペニンシュラ、ロンドンのロスカーなどを手がけてきた、世界的なインテリアデザイナーである。
幼い頃にアンティークに触れて育ち、若くして各国を旅した経験に裏打ちされた彼のデザインは、タッセル使いやベルベット素材に象徴されるベルエポックのスタイルをベースに、ボヘミアンのリッチとオリエンタルなエレガンスの融合が特徴だ。だがガルシアにしてはあえて控えめなインテリアに、どれをとっても快適この上ないオーダーメイドの家具がしつらえられた「シックスセンシズ マックスウェル」は、まるでヨーロッパの上質なクラシックホテルさながら。
ベテランらしい引き算ともとれるそのさじ加減は、当時のヒューマンスケールの建築とも調和し、喧騒の都市を旅しながら我が家を得たような休息をもたらしてくれた(ちなみに、ガルシア本来の装飾的デザインは、シックスセンシズ シンガポール2軒と同じオーナーのガーチャ ホテルズ グループが手がけたブティックホテル「The Vagabond Club(ザ バカボンド クラブ)」に足を伸ばせば一目瞭然だ)。
全138室の大半を占める「TheTerrace(ザ テラス)」というカテゴリーの部屋には、文字どおり、小さなテラスがついているのがうれしい。窓が開かない類の高層タワーホテルを厭う旅人には、起床して窓を開け放ち、新鮮な空気の循環と合わせて外の湿度を肌で感じることは、何にも代えがたい無償のサステイナブルといえるだろう。
ちなみに、抑制のきいたインテリアデザインの中でガルシア的なハイライトを挙げるとするなら、「Cook & Tras Social Library(クック&トラス ソーシャルライブラリー)」というユニークなネーミングのレストラン&バー。ライブラリーというネーミングにたがわず、書棚になった壁面に3,000冊の本を収容。レセプションエリアにファッションやインテリアの写真集が飾り程度に置いてあるホテルはよくあるけれど、これだけの蔵書を持つホテルはあまり聞かない。鏡張りの天井にそれが写り込んで、まるで万華鏡を見上げるような不思議な空間となっている。本は部屋に持ち買って読むこともできる。
滞在中、ハイバックの一人がけソファで朝食中だった一人のゲストが、数時間後も同じ場所で飲み物をカクテルに変えて本を読みふけっていたり、別のゲストは仕事らしき資料に集中して目を通していたりという光景を目にした。いいインテリアとは決してデザインだけの話でなく、時間に作用するものだ。気分のまま長居したくなる「シックスセンシズ マックスウェル」のそんなアティテュードは、リゾートとしてのノウハウも蓄積してきたシックスセンシズの懐深さでもある。