BY FUMIKO YAMAKI
「人形浄瑠璃文楽」といえば、300年以上の歴史を持ち、ユネスコ無形文化遺産にも登録された日本固有の人形芝居。大阪で生まれ、江戸時代には歌舞伎を凌ぐ人気を博した庶民の娯楽で、町の人々を笑わせ、泣かせ、ときにはお家騒動や心中事件などの時事ネタを物語に仕立てて、大いなる共感を呼んだ。この平成の終わりに、その文楽が再び静かなブームとなりつつある。東京公演はチケットの入手が難しいほどだ。近年、一時代を築いてきたベテラン技芸員の引退が相次いだが、そんな中で未来を担う中堅、若手たちが奮起して熱い舞台を繰り広げ、それが今の文楽の人気と勢いを牽引している。
そんな新たな世代を代表する存在が、2018年1月に「六代目竹本織太夫(たけもとおりたゆう)」を襲名する豊竹咲甫太夫(とよたけさきほだゆう)だ。豊かに響く美声と明快な口跡で多彩な人物を語り分け、聴く人を一気に物語世界に引き込む吸引力を持つ。文楽界の名門に生まれ、育ちももちろん大阪。DNAに浄瑠璃が刷り込まれているのでは、と疑いたくなるほど根っからの文楽好きだ。ますます脂が乗ってくる40代での大きな名跡の襲名で、今後さらに文楽界の中心的役割をになっていくことは間違いない。
「織太夫という名前は、師匠である豊竹咲太夫の父、八代目竹本綱太夫の前名です。その綱太夫の五十回忌追善公演であるこの月に、六代目織太夫を襲名できることは、私にとっても文楽界にとっても大きな意味を持ちます」
人間国宝でもあり、文楽の発展に大きな足跡を残した綱太夫に繋がる名跡。新・織太夫の肩にかかる、文楽界とファンの期待がいかに大きいかがわかる。
太夫、三味線、人形を「三業」と言い、文楽の舞台はこの三つのパートが一体となって形づくられる。世界中の人形劇の中でも、このスタイルは文楽特有のもの。なかでも浄瑠璃の語り手である太夫は、役者(この場合は人形)全員のセリフと、心理描写、情景描写のナレーションをすべて一人で語る重要なポジションだ。来年1月の襲名披露公演で、新・織太夫が挑戦するのは『摂州合邦辻(せっしゅうがっぽうがつじ)』合邦住家(がっぽうすみか)の段。息詰まる心理劇の末に衝撃のラストが待つ、語る太夫にとっても重量級の難曲だ。
「江戸時代後期に活躍した二代目以降、歴代の綱太夫が受け継いできた非常にゆかりの深い演目です。弟(三味線の鶴澤清馗)と組んで一度務めたので、いかにしんどいかは経験済みですが、襲名公演の今回は一段レベルの高いものを目指さなければ」と意気込みを語る。
襲名公演は1月が大阪、2月は東京で。まだ文楽を見たことがないという方こそ、一人のスターの誕生に立ち会えるこの機会を、新たな世界の入口としてみてはいかがだろうか。
「八代目竹本綱太夫五十回忌追善」
<大阪>初春文楽公演
場所:国立文楽劇場
会期:2018年1月3日(水)~25日(木)※15日(月)休演
第一部 11:00~
第二部 16:00~
チケット代:1等席 ¥6,000(学生 ¥4,200)
2等席 ¥2,400(学生 ¥2,400)
チケット発売:12月3日(日)10:00より前売開始
<東京>2月文楽公演
場所:国立劇場小劇場
会期:2018年2月10日(土)~26日(月)
第一部 11:00~
第二部 14:30~
第三部 18:00~
チケット代:1等席 ¥6,000(学生 ¥4,200)
2等席 ¥5,000(学生 ¥2,500)
3等席 ¥1,700(学生 ¥1,200)
チケット発売:2018 年1月7日(日)10:00より 前売開始
国立劇場チケットセンター
電話:0570-07-9900(10:00~18:00)
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