BY MASANOBU MATSUMOTO
『きたれ、バウハウス』|東京ステーションギャラリー
約100年前の1919年、ドイツ・ヴァイマールに設立された「バウハウス」。ナチスの弾圧によってわずか14年で幕を閉じるまで、パウル・クレーやカンディンスキーといった当時のアート界の旗手が教鞭を採ったことでも知られる画期的な美術総合学校だ。目指したのは「総合」。絵画なら絵画、彫刻なら彫刻と作品の技法やメディアに準じた従来の学びに異論を唱え、いまでいう領域横断的な教育をいち早く実践した。
では実際にどういった授業が行われ、学生たちはどのように学びを深めていったのかーー。東京ステーションギャラリーで開催中の『きたれ、バウハウス』展は、このバウハウスで行われた実際の課題や成果物を交えながら、教育内容をつまびらかにする。
実際に、バウハウスに入学した学生は、色彩やものの形態など芸術における基礎や教養を学ぶ「予備教育」を経て、家具、金属、印刷・広告といった専門的な「工房教育」へ進んでいく。本展では、そのプロセスを追体験するような展示構成がとられており、面白い。とりわけ後者の「工房教育」のスペースでは、建築家・家具デザイナーのマルセル・ブロイヤーによる肘掛け椅子《ヴァシリー・チェア》やカラフルな《ネストテーブル》、マリアンネ・ブラントの鋳金のティーセットなど、バウハウスの工房で生まれた名作が並び、デザインファン必見の内容だ。
こうした作品が当時の社会的課題と密接に関係し生まれているのも興味深い。工業化が急スピードで進んだ時代。素材に対して無駄を出さずに、効率性を加味しながらものづくりを行うことも目指されており、なかには女性の家事負担をサポートするような制作物も見られる。
一方で、生活に準じたプロダクトのみならず、舞台芸術もバウハウスの教育対象のひとつであった。オスカー・シュレンマーの《三つ組のバレエ》など、古典的なバレエとは一線を画す作品も会場では上映される。
じつのところ、このバウハウスには、4人の日本人がリアルタイムで在籍していた。水谷武彦、山脇巌、山脇道子、そして大野玉枝。本展では、彼らの在学中の様子や帰国後の活動にもフォーカスし、バウハウスが日本のアート、デザインシーンに与えた影響も紹介する。