国内では初めて「オペラハウス」シリーズを一堂に展示する杉本博司の個展、弘前れんが倉庫美術館の前身「煉瓦倉庫」で開かれた3度の奈良美智展のドキュメント展、伊藤若冲の《動植綵絵》など日本美術の名品が堪能できる展覧会。今週見るべき3つのエキシビションをピックアップ

BY MASANOBU MATSUMOTO

杉本博司『OPERA HOUSE』|ギャラリー小柳

画像: Hiroshi Sugimoto 《Villa Mazzacorrati, Bologna》 2015年 “Le Notti Bianche” ゼラチン・シルバー・プリント © HIROSHI SUGIMOTO / COURTESY OF GALLERY KOYANAGI

Hiroshi Sugimoto 《Villa Mazzacorrati, Bologna》 2015年 “Le Notti Bianche”
ゼラチン・シルバー・プリント
© HIROSHI SUGIMOTO / COURTESY OF GALLERY KOYANAGI

 映画館に大型カメラを持ち込み、長時間露光で映画のはじまりからおわりまでを1枚のフィルムに閉じ込めるーー杉本博司のコンセプチュアルな代表的シリーズ「劇場」。本展は、その流れをくむ杉本の「オペラ劇場」シリーズを国内で初めて一堂に集めた展覧会だ。「オペラ劇場」の制作のために、杉本はまずイタリアの古き良きオペラハウスを巡り、舞台上にスクリーンを仮設。そこで自身が会場に合わせて選んだ映画を上映し「劇場」と同じ手法で撮影を行った。写真のなかで映画1作品ぶんの光は白い矩形となって現れ、その光がオペラ劇場内部の装飾を浮かび上がらせている。

 古歌の語句・趣向などを取り入れ、引用し作歌する和歌の技法「本歌取り」に、日本文化のかたちを見出してきた杉本(9月17日からは兵庫県・姫路市立美術館で『杉本博司 本歌取り––––日本文化の伝承と飛翔』が開催)。20世紀のアメリカの映画館も、じつはオペラハウスの装飾を引用・模倣してつくられたという事実も、杉本が本シリーズの制作を進める動機になっているようだ。

 本展では、イタリアで制作した「オペラ劇場」に加え、演劇を愛したマリー・アントワネットが自身のためにつくった小劇場、パリ・ガルニエ宮オペラ座で撮影したフランスでの2作品も披露。前者は、2018年、ヴェルサイユ宮殿の小トリアノンで行われた個展『SUGIMOTO VERSAILLES』で新作として発表されたもので、後者は杉本による戯曲『At the Hawk’s Well/鷹の井戸』が上演された際、舞台上につくられた能舞台も含めて撮影されている。

杉本博司『OPERA HOUSE』
会期:~11月6日(日)
会場:ギャラリー小柳
住所:東京都中央区銀座1-7-5 小柳ビル 9F
時間:12:00〜19:00
休館日:日・月曜、祝日
※「ART WEEK TOKYO」期間中の11月3日(水・祝)~6日(日)は
10:00~18:00(無休)
料金:無料
電話:03-3561-1896
公式サイトはこちら

『「もしもし、奈良さんの展覧会はできませんか?」奈良美智展弘前 2002-2006 ドキュメント展』|弘前れんが倉庫美術館

画像: 「YOSHITOMO NARA + graf A to Z」展示風景(2006年) ARTWORK: ©️YOSHITOMO NARA PHOTOGRAPH BY MASAKO NAGANO

「YOSHITOMO NARA + graf A to Z」展示風景(2006年)
ARTWORK: ©️YOSHITOMO NARA PHOTOGRAPH BY MASAKO NAGANO

 青森県弘前市生まれの奈良美智は、弘前れんが倉庫美術館の前身「煉瓦倉庫」で、過去3回の展覧会を開いている。1度目は2002年、奈良の本格的な国内初個展『I DON'T MIND, IF YOU FORGET ME.』の巡回展を、2005年には『From the Depth of My Drawer』、その翌年には『YOSHITOMO NARA+graf A to Z』を開催した。それらの展覧会が、単に“作品を見せる場づくり”にとどまらず、美術館、また市民にどのような価値をもたらしたのかーー。本展は、その軌跡を写真や映像、市民の協力で集まった印刷物やグッズなどさまざまな資料で振り返るもの。過去の展示作品の一部、奈良が弘前時代にあつめた書籍やレコードのコレクションも会場に並ぶ。

「みんなががんばってオープンした直後は花が咲いてお花見をする感じ。そして、花は必ず散るように、会期があるから展覧会も終わる。でも、終わった後には、種とかいろんなものをみんなが落とすんじゃないかな」とは奈良が書籍に記した言葉だ。本展では、展覧会の運営ボランティアを起点にうまれた持続的なコミュニティにもフォーカスし、また並行して市民参加型の演劇プロジェクトも展開。「奈良美智展」というひとつの事例、ひいては地域のアートプロジェクトや美術館のあり方、そしてそこに関わる人々についてまで、考えをめぐらすことのできる展覧会でもある。

『「もしもし、奈良さんの展覧会はできませんか?」奈良美智展弘前 2002-2006 ドキュメント展』
会期:〜2023年3月21日(火)
会場:弘前れんが倉庫美術館
住所:青森県弘前市吉野町2-1
時間:9:00〜17:00 ※入館は閉館時間の30分前まで
休館日:火曜(ただし祝日の場合は開館、翌日休館)、12月26日~2023年1月1日
料金:一般 ¥1,300、大学・専門学校生 ¥1,000
電話:0172-32-8950
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『日本美術をひも解く―皇室、美の玉手箱』|東京藝術大学大学美術館

画像: 『日本美術をひも解く―皇室、美の玉手箱』|東京藝術大学大学美術館

 宮内庁三の丸尚蔵館が収蔵する皇室の珠玉の名品に、東京藝術大学のコレクションを加えた多種多様な日本美術を紹介する特別展『日本美術をひも解く―皇室、美の玉手箱』。8月6日にはじまり、すでに大きな話題を呼んでいるエキシビションだが、8月30日および9月6日に大規模な展示替えを行ない、現在、前期展示では見られなかった作品が多数公開されている。

 後期展示の見どころのひとつは、国宝・伊藤若冲筆《動植綵絵》。あらゆる生き物の尊い生命、その美を描き表わそうと、若冲が約10年の月日をかけて制作した全30幅の大作で、本展では、色鮮やかに表現された雄鶏が圧巻の〈向日葵雄鶏図〉、70種類近くの虫が画面いっぱいに描かれた〈池辺群虫図〉など10幅を公開。また同じく国宝で、三跡の一人、小野道風筆《屏風土代》、円山応挙筆《牡丹孔雀図》や横山大観筆《飛泉》、俵屋宗達筆《扇面散屏風》といった、日本美術ファンには見逃せない名品も並ぶ。

『日本美術をひも解く―皇室、美の玉手箱』
会期:~9月25日(日)
会場:東京藝術大学大学美術館
住所:東京都台東区上野公園12-8
開館時間:10:00~17:00(9月の金・土曜は19:30まで)
※入館は閉館時間の30分前まで
休館日:月曜 ※ただし、9月19日は開館
料金:一般 ¥2,000、大学・高校生 ¥1,200、中学生以下無料
電話:050-5541-8600(ハローダイヤル)
公式サイトはこちら

※新型コロナウイルス感染予防に関する来館時の注意、最新情報は各施設の公式サイトを確認ください

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