チリの海岸を舞台に現代の建築家たちが創造した数々の家。周囲に広がる風景さながらに荒涼で壮大なその家は、どれも見る者を惹きつけてやまない

BY MICHAEL SNYDER, PHOTOGRAPHS BY JASON SCHMIDT, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

 ほかのどんな家よりも現実と詩的な世界を融合して表現したのが、「the House for the Poem of the Right Angle(正しい角度について書かれた詩のための家)」(以下「詩の家」)だ。この家をデザインしたのは、クロアチア移民の両親をもつサンティアゴ生まれの58歳、スミルハン・ラディックだ。ラディックは過去20年のあいだに、ビルチェス村の敷地内に2軒の家を建て、さらにもう1軒をリノベーションしている。アンデス地方の端に位置するのどかな村ビルチェスは、彼のパートナーで彫刻家のマルセラ・コレアの両親が数十年にわたって避暑地として過ごした場所だ。

ラディックがまず1996年に手がけたプロジェク トが「カーサ・チカ(「小さな家」の意)」で、丘の上に埋まった2つの岩の壁のあいだに約24m²のガラス製の箱を取りつけた構造物だ。二つ目は「カーサA」。ラディックは1960年代に彼の家族のために建てられたA型の木造小屋の前方と背後をぶち抜いて周囲の森に向けて開け放ち、さらに家全体をゆるやかな傾斜のついた台の上に乗せた。ラディックは、この家が完成した2008年に出版したテキストで「馬に乗ったまま家に入りたいときに便利なように」と書いている。カーサAは2010年の地震で倒壊してしまったが、カーサAを完成させてから4年後にあたる2012年に、彼は「詩の家」を建てた。

 未舗装の車道から敷地に入ると、うっそうとした森の中にうねうねと道が続いている。最初に目に入るのは、ポリカーボネート(透明プラスチック)の壁でできた小屋の屋根裏部屋だ。その壁にはラディックとコレアの幼い娘が色を塗っているところだ。開けたスペースを挟んで小屋と向かい合っているのが、「詩の家」だ。まるで複雑な構造をもつ生きた有機体のようなその建物は、この20年のあいだに四角から三角へ、そして今やなんとも形容しがたい幾何学的な形状へと進化してきた(カーサAが以前建っていた場所は今は更地になっており、カーサ・チカがあった場所はプールになっている)。

画像: ビルチェスにある深い森林の中に建つ、ラディック作の斬新な黒い建造物。

ビルチェスにある深い森林の中に建つ、ラディック作の斬新な黒い建造物。

面積が約185m²しかないこの家は、親密でいて際立った個性にあふれ、理屈ではとうてい理解できない。つまり100%まじりけなしの、ラディックの想像力の産物なのだ。室内に入ると、壁に使われているボリビア産の針葉樹材の樹脂の香りが満ち、木の洞穴に潜り込んだような気分になる。アラベナやプガ、ラディックがつくる建造物は、自然界のエッセンスから生み出されたものではなく、自然に自ら介入していく行為そのものだ。しかし「詩の家」は、ひとつの角度から見ただけでは全容をつかむことは決してできない。ラ・アルコバの家のように、生きていて、活動的で、いまも進化している途中なのだ。

 出版したテキストの中で、ラディックはこう書いている。「アートと建築は無関係である。だからこそ、アーティストと建築家は互いに仲よく共同作業することが可能なのだ」。もしそうだとしても、ラディックはこの家を、ル・コルビュジエが1947年から’53年にかけて描いたリトグラフとそれに合わせて綴った詩からとって名付けている。「私は家や城を建てる者だ」とル・コルビュジエは晩年の詩に記している。「建築を手がけるということは、生き物を作ることである」とも。

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