ルールやスタイルに捉われず、ただ好きなものを愛し、花や緑を愛でる。“自分らしさ”を貫いた素敵な生き方が息づくスタイリスト古牧ゆかりさんの部屋。古牧さんの部屋を数回に分けてレポートし、自分のいる場所を心地よい空気で満たすコツを伺う。第7回は、古牧さん流のおもてなしでコーディネートされた、様々なテーブルの設えにフォーカス

BY EMI ARITA, PHOTOGRAPHS BY MAKOTO NAKAGAWA

 訪れるたびにセンスのいい器で、お茶やコーヒー、お菓子やフルーツをふるまってくれる古牧さん。今回は、そんな古牧さんが、友人と気ままな時間を楽しむおもてなしのテーブルを、ティータイム、アペロ、そして食事のシーンと、それぞれ覗かせてもらった。古牧さんのセンスと暮らしぶりが息づく、心地のよいテーブルの設えには、「おもてなしをがんばりすぎて空回りしてしまう」という人にも、インスピレーションを与えてくれるはずだ。

パリ時代の思い出で彩る、お茶の時間

 これまで世界50カ国以上を旅してきただけでなく、20代後半から30代にかけて、3年間パリで暮らしていたこともある古牧さん。その部屋には、旅先で集めたものに加えて、パリ暮らし時代に蚤の市で買い集めてきた家具や器があり、今も古牧さんの暮らしを彩っている。

画像: 窓からの光を反射して輝く姿も素敵なミラー天板のコーヒーテーブルに、パリで集めた食器を中心にコーディネートしたティータイムのテーブル

窓からの光を反射して輝く姿も素敵なミラー天板のコーヒーテーブルに、パリで集めた食器を中心にコーディネートしたティータイムのテーブル

 友人がふらっと訪ねてきたお茶の時間も、パリ時代に購入したものたちが楽しげにセッティングされている。切子模様の入ったミラー天板のコーヒーテーブルに、同じくパリ時代に購入したという緑のストライプのカップ&ソーサー、そしてボタニカル柄の「ジアン」のプレートと、自然の豊かさを感じるような明るい色合いの器たちが並ぶ。そんな中に遊び心を加えるように、南部鉄器のポットの黒がアクセントを添えているのも印象的だ。

「陶器のポットもありますが、南部鉄器のポットはお湯がまろやかになるので、来客時によく使っています。ポットを置いている竹の鍋敷は、青山の『PLAIN PEOPLE』(プレインピープル)のお店で催されたワークショップで作ったもの。そこに大分の竹細工の職人さんがいらして、丁寧に作り方を教えてくれたのですが、結構難しくて。ちょっと不格好なんですけど、やっぱり自分で手作りしたものなので、愛着もありますし、友人とそんな思い出を語らうのも楽しいですよ」

画像: 南部鉄器のポットで淹れたのは、スパイスティー。「南部鉄器のポットだとスパイスティーも味がマイルドになって飲みやすくなります」(古牧さん)

南部鉄器のポットで淹れたのは、スパイスティー。「南部鉄器のポットだとスパイスティーも味がマイルドになって飲みやすくなります」(古牧さん)

 この日のお茶菓子は、友人が手作りしてくれたというチョコレートテリーヌ。古牧さんがベランダで育てているミントで彩りを添えれば、まるでカフェでいただくケーキのよう。

画像: 週末パティエとして活動している平原京子さん手作りのチョコレートテリーヌ。カカオ60%のチョコレートに、いちじくやブラックチェリーなどのフルーツを加え、濃厚でまろやかな甘さの味わいに @kyoko_hirahira

週末パティエとして活動している平原京子さん手作りのチョコレートテリーヌ。カカオ60%のチョコレートに、いちじくやブラックチェリーなどのフルーツを加え、濃厚でまろやかな甘さの味わいに

@kyoko_hirahira

「ミントは、一度枯れてしまったのですが、なんとか頑張ってほしい!と諦めずにお世話したもの。その甲斐あって、今は元気に、立派な葉をたくさんつけています」と古牧さん。みずみずしいミントからは、部屋を彩るグリーンたちや、飾られている花と同じく、愛情たっぷりに手入れをされてきた様子が伺える。

画像: サッカーブルーのピッチャーに、モーヴピンクのチューリップ、猫じゃらしのようなマメ科のトリフォリウムをアクセントにしたアレンジは、ティータイムのテーブルの穏やかな空気感をさらに演出してくれている

サッカーブルーのピッチャーに、モーヴピンクのチューリップ、猫じゃらしのようなマメ科のトリフォリウムをアクセントにしたアレンジは、ティータイムのテーブルの穏やかな空気感をさらに演出してくれている

夕暮れ時に訪ねてきた友人とは、気軽なアペロで乾杯!

画像: ヒバのスツールの上に、近所の友人から借りたモロッコ柄のアルミ製の天板を乗せて、即席のコーヒーテーブルにしているのもおしゃれ。床に敷いたルーマニアのラグとのコントラストも素敵

ヒバのスツールの上に、近所の友人から借りたモロッコ柄のアルミ製の天板を乗せて、即席のコーヒーテーブルにしているのもおしゃれ。床に敷いたルーマニアのラグとのコントラストも素敵

 夕暮れときに友人が訪ねてくると、シャンパンやワイン、家にあるフルーツなどをさっと盛り合わせ、一緒にアペロを楽しむそう。モロッコ柄のアルミ天板に、大理石や木など素材の温もりを感じるテーブルウェアや、和物の食器を合わせたコーディネートは、ティータイムとはひと味違った表情を魅せる。

画像: ミモレットやクラッカーを乗せたカッティングボードはウズベキスタンで購入したものだそう。ウズベキスタンの伝統的な綿花柄が彫られており、まるで工芸品のよう

ミモレットやクラッカーを乗せたカッティングボードはウズベキスタンで購入したものだそう。ウズベキスタンの伝統的な綿花柄が彫られており、まるで工芸品のよう

「和物の器も、大理石のコンポートも日本で買ったものなのですが、『どこで買ったの?』とか、『誰の作品?』と聞かれても、覚えてないことが多いんです(笑)。参考にならなくてごめんなさい。何かものを買う時は、作家とかブランドで選ぶことはほとんどなくて、出会った時に、素敵だなとか、かわいいなと感じたものだったり、色のトーンが好みだったり。自分の感性と通じ合ったものを迎えるようにしています」

画像: マーブル模様の大理石のコンポート。大理石のためとても重いが、“本物”だからこそ感じられる素材の美しさに魅了される

マーブル模様の大理石のコンポート。大理石のためとても重いが、“本物”だからこそ感じられる素材の美しさに魅了される

 巡り会った時、自分が“いい”と思ったものだけがここにある──そんな古牧さんの感性が息づくアペロのテーブルは、フルーツやナッツが彩りを添え、さらに、パリの蚤の市で購入したというグラスが煌めく姿も美しい。

画像: 素朴な草の模様がカッティングされたヴィンテージのグラス

素朴な草の模様がカッティングされたヴィンテージのグラス

「自分が食べたり、飲んだりするためでもあるけれど、季節のフルーツやおつまみのナッツ、そしてシャンパンやワインといったお酒は、いつ友人が訪ねてきてもいいように常備していています。若い時のように、大勢で集まるパーティ的なことをする機会はもうほとんどありませんが、お茶をしたり、アペロをしたり。大人同士で“いい時間”を過ごせるようなおもてなしを楽しんでいます」

小腹を空かせた友人が来た時は、ささっとタジン鍋

画像: 友人と食卓を囲む時には必ずクロスをかけるという古牧さん。この日は、ニュアンスあるブルーが印象的な藍染のクロスをかけてセッティング

友人と食卓を囲む時には必ずクロスをかけるという古牧さん。この日は、ニュアンスあるブルーが印象的な藍染のクロスをかけてセッティング

 時間も忘れてアペロを楽しんでいたらすっかり日も暮れて、小腹が空いてきた……。そんなときは、タジン鍋を使った簡単な料理をふるまうことが多いと古牧さん。テーブルにクロスをかけて、ルーマニアやスコットランド、パリ……と、旅で集めた器やグラスを織り交ぜながら、古牧さんらしさが息づくおもてなしのテーブルがあっという間に整っていく。

「野菜たっぷりのヘルシーな蒸し料理を簡単に作れるタジン鍋は、普段の食事でも愛用しています。使っているのは、『emile henry (エミールアンリ)』のタジン鍋。材料を入れて蒸すだけ、という手軽さはもちろんのこと、このままテーブルに出せるのがとっても便利。それに、このとんがり帽子みたいな蓋を開ける瞬間って、みんながわくわくしますし、パフォーマンス性も抜群!おもてなしのテーブルにもぴったりなんです」

画像: 使わない時は、オブジェとして飾っているという愛用のタジン鍋。濃厚な赤紫色もおしゃれ。デニムのミトンは最近「ニトリ」で見つけたものだそう

使わない時は、オブジェとして飾っているという愛用のタジン鍋。濃厚な赤紫色もおしゃれ。デニムのミトンは最近「ニトリ」で見つけたものだそう

画像: 蓋を開けると広がる香りにも食欲がそそられる

蓋を開けると広がる香りにも食欲がそそられる

 今回作ってくれたのは、鱈と野菜の蒸し料理。レモンやトマト、イタリアンパセリと、彩りも鮮やかで、目にも美味しいひと皿だ。

「魚のタジン鍋料理は、以前モロッコのエッサウィラに行った際に、民泊した宿の奥さんに教えてもらいました。今回は、その時教えてもらったレシピをベースに、アサリなどを入れてアレンジしています。
作り方は、オリーブオイルをたっぷりと敷いた鍋に、野菜(じゃがいも、にんじん、トマト、アスパラ)と下味をつけた鱈、それと出汁になるあさりを入れる。そこに、大きめのレモン一個分をギュッと絞り、さらに絞ったレモンもそのまま入れて、スパイス(クミン、ターメリック、パプリカ)、みじん切りにしたパセリとガーリックをひとかけら、塩、胡椒を加えて30分蒸すだけ。出来上がったら、仕上げにイタリアンパセリを添えます。お好みで白ワインを足したり、シメに、リゾットやパスタを作ったりしても美味しいですよ」

画像: 「鱈は鍋に入れるのと同じスパイス(クミン、ターメリック、パプリカ)で20分くらい浸けておくとより美味しいです」と古牧さん。よそう器は、日本人陶芸作家のパープルの器でコーディネート

「鱈は鍋に入れるのと同じスパイス(クミン、ターメリック、パプリカ)で20分くらい浸けておくとより美味しいです」と古牧さん。よそう器は、日本人陶芸作家のパープルの器でコーディネート

画像: 撮影時は12月とあり、テーブルの花は、ホリデーシーズンを感じさせるアレンジに。真っ赤な八重のバラとチューリップ、実のついたユーカリを合わせて

撮影時は12月とあり、テーブルの花は、ホリデーシーズンを感じさせるアレンジに。真っ赤な八重のバラとチューリップ、実のついたユーカリを合わせて

 ティータイム、アペロ、食事と、どのシーンの設えも素敵だが、「タジン鍋はその時、冷蔵庫にあるもので用意しますし、花も常に飾っているものだから、おもてなしのために何か特別な用意をするというはほとんどないんです。器も同じで、普段から愛用している日常使いのものを、訪ねてきた人やシチュエーション、飲み物や食べ物にあわせて、使い分けているだけなんですよ」と古牧さん。

 とっておきのグラスや器で非日常感を演出したテーブルももちろん素敵だが、古牧さん流のおもてなしのテーブルは、愛着を持って使い込まれたものたちが彩る日常の延長線で設らえられている。気張らず愉しめるおもてなしだからこそ、いつまでもそこに居たくなってしまう心地よさに溢れているのだろう。

古牧ゆかり
スタイリスト/ビジュアルディレクター。ファッション誌で活躍後、渡仏。パリに暮らす。帰国後『エル・ジャポン』のファッションエディターに。現在はフリーでファッション、インテリアのスタイリングや動画制作のビジュアルディレクションを手がける。本誌ファッション特集でも活躍中。
公式サイトはこちら

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