世界のミステリ・ファンを魅了し、ハリウッドが熱いまなざしを注ぐヒットメーカー。ジョー・ネスボのスペシャル・インタビュー

BY JUNKO ASAKA, PHOTOGRAPHS BY ARISA KASAI

 少年時代にサッカーに熱中し、プロ入りも嘱望されたネスボ氏は、ひざの故障でその夢を断たれ、証券会社の仲買人になった。仕事のかたわら始めたバンドが大ブレイクして一躍、ノルウェーのスターとなった彼は、昼は会社員、夜はライブという二重生活を送っていたが、やがて「何もかもがいやになり」、6ヶ月の休暇をとってオーストラリアへと出奔。オスロからシドニーに向かう30時間のフライトのあいだにプロットを練り、ホテルに着くなり書き始めたのが、ハリーの登場する第1作『ザ・バット/神話の殺人』だ。37歳で書いたこの処女作は、北欧5カ国から選ばれる「ガラスの鍵」賞をはじめ数々の賞を受賞し、瞬く間にベストセラーに。ネスボ氏自身もハリーも、いきなりミステリ界の寵児となった。

画像: 処女小説にして、いきなりのベストセラーとなった 『ザ・バット/神話の殺人』(集英社文庫)

処女小説にして、いきなりのベストセラーとなった
『ザ・バット/神話の殺人』(集英社文庫)

「 シドニーのホテルで最初の1ページを書いたときのことは覚えている。すごく奇妙な感覚だった。『ワオ、俺は小説を書いてる。小説ってこんなに簡単に書けるのか!』と思ったよ」
 以来、児童文学やシリーズ以外の作品も間にはさみつつ、最新作『The Thirst』(2017年4月刊行予定)まで、彼は20年の長きにわたってハリーを描き続けている。

「一冊書き終わると、僕もハリーに飽き飽きして休息が欲しくなる。だから数ヶ月は距離をおくんだ。長年つきあっているカップルにもおすすめするよ(笑)。

 最初は、彼をこんなに書き続けることになるとは思ってもみなかった。ノルウェーの読者向けに、ノルウェー人の視点で物語を描こうとしただけなんだ。ある意味、ハリーはカメラのレンズのような役割だったと思う。僕が監督、ハリーはフォトグラファー役で、ドキュメンタリーを撮影している――という風にね。でもそのうち、彼がどんな人物なのかといったディテールや、その人間的背景がどんどん重要になっていった。実際、15年前よりもはるかに深く、僕はハリーのことを熟知している。歳をとると、人は新しい友人より古くからの友情を重んじると言うけれど、僕もハリーのことをもっともっと知りたいと思う。1作1作、殺人事件は起こるけれど、じつはこれはずっとハリーという男の生き様を描いている物語だったんだと、今になって思うよ」

画像: 映画化が進行中の『スノーマン』 エドガー賞候補となった『ネメシス 復讐の女神』 最新刊『悪魔の星』では、ハリーが免職の危機に陥る (いずれも集英社文庫)

映画化が進行中の『スノーマン』
エドガー賞候補となった『ネメシス 復讐の女神』
最新刊『悪魔の星』では、ハリーが免職の危機に陥る
(いずれも集英社文庫)

 最新刊の『悪魔の星』は、そんなハリーと、署内の同僚にして宿敵であるトム・ヴォーレルとの確執が描かれる“オスロ三部作”の最終作だ。ほかの作品同様、読者は何重にもはりめぐらされた伏線やトラップに翻弄され、息詰まる心理戦とアクションに手に汗握ること間違いなし。北欧ミステリの人気が高まる中、社会問題をえぐり陰影に富んだスウェーデンやアイスランドの作品とは一線を画す、アメリカナイズされたエンタテイメント・ミステリといえるだろう。7作目の『スノーマン』は、現在、マイケル・ファスベンダー主演でハリウッド映画化も進行している。

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