ジャマイカ人初のブッカー賞受賞作家、マーロン・ジェームスがブラッド・ピットと語り合った政治、映画、国際支援

BY MARLON JAMES, PHOTOGRAPHS BY CRAIG McDEAN, STYLED BY JASON RIDER, TRANSLATED BY MIHO NAGANO OCTOBER 29, 2016

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4. ブラッド・ピットと僕は、メル・ギブソンについて意見が合った。

ピットの友人で『イングロリアス・バスターズ』(’09)のクエンティン・タランティーノ監督のように、ピットも映画製作をもっぱら映画を観ることで学んだ。そして、それ以上に、映画は彼にとって世界への窓でもあった。「映画が外への扉だった」と彼は言う。「外界から隔絶されたような僻地に住んでいると、映画によって、いきなり世界が目の前に差し出され、異文化に接することになる。しかもこれはインターネットが存在する以前の話だってことを忘れないでほしい。映画というレンズを通して初めて、僕はブルックリンやアイルランドやアフリカの子どもがどんな生活をしているか知ることができたんだよ」

 エキゾチックな世界について話していると、彼はポンテオ・ピラトを題材にした映画を作りたいと考えていると言いだした。脚本を読むと、このたいして有能でないローマ帝国の一役人が、彼が嫌っていたやっかいな人間たちに囲まれ、にっちもさっちもいかなくなっている状況が笑えるからだという。ちなみに、イエス・キリストはそれほど多くの場面には出てこないそうだ。「映画『パッション』が好きな人向けじゃないのは確かだ」と彼は言う。あのメル・ギブソン主演の“受難ポルノ”大作を見て、僕はキリスト教会に通うのをやめたんだ、と彼に伝えると、ピットは爆笑した。「じぶんはまるで、L・ロン・ハバード(サイエントロジー教会の創設者)のプロパガンダ映画を観ているように感じたよ」とピット。ジヌー(サイエントロジーの教義における秘密の物語)のことはさておき、メル・ギブソンの映画はたいてい、暴力を描くことだけにかけては一級品だ。「それはもう、ものすごいよね」と彼は言った。「『アポカリプト』は傑作だ」

5.ブラッド・ピットが「俺も年をとったよ」と言うと、誰がそう言うよりも、ジョークとしての完成度が高い。

この男が52歳だっていうことをすぐみな忘れてしまう――多分彼の身体が細すぎるからだろう。だが、過去の遺物に興味をもっている子どもたちのおかげで、彼は常に自分の年を意識させられている。たとえば彼の娘のひとりは、カセットテープが大好きだ。まるでピットとどうお世代の人間が蓄音機に惹かれたり、自分で銀盤写真を撮ってみたりするように。彼は、映画の撮影現場でも自分の年齢を思い知らされたことがある。「『フューリー』という第二次世界大戦を描いた映画を作っていたときに、一週間ほどブートキャンプをやったんだ。その中でいちばん若かったローガン・ラーマン――彼は21歳だったと思うけど――が、下級兵士として記録係になった。腕時計をもらった彼は、みんなが食事を何分で食べ終わったか、装備を身につけたり脱いだりするのに何分かかったかを記録する必要があった。ある日、彼が来て、時計が止まってしまったと言った。『ネジをまけばいいんだよ』と言ったら、きっかり15分後に戻ってきて、『ねえ、ネジってどうやって巻くの?』って聞いてきたんだ」

6. ブラッド・ピットはもしかしたら普通の男かもしれない。

 インタビューをスローテンポでのんびりやることの利点は、特に取材相手がオフの日だったりすれば、本当に親しい人間としか話せないような、ある意味で実のある、ある意味ではどうでもいいような話題で盛り上がれるってことだ。それは、ピットがなんでもあけっぴろげに話すということじゃない。所得格差や白人だらけのハリウッドといったきわどい話題になると彼は警戒した。でも、一緒に過ごした数時間はなごやかで親密な感じだったし、とりとめのないことも延々と話せた。これでもうインタビューは終わりだろうと思うと話がもっと続くので、僕は何度もレコーダーのスイッチをオンにし直した。彼は、ニューオリンズに魅了されてしまったことや「弱者が主人公の物語にのめり込んでしまう」こと、そして映画『ハッシュバビー〜バスタブ島の少女〜』(‘12)が素晴らしくて打ちのめされたことなんかを話した。

 ゆっくりだらだらと進むインタビューに悪い点があるとすれば、どうやって終わりにすればいいかわからないってことだ。だから、彼のオフィスに長居して、敷地内を案内してもらい、彼が電話で子どもたちと自分の仕事について話しているのを聞いているうちに僕は帰りの飛行機の時間に遅れそうになっていることに気づいた。彼は車を呼んで、ゲートの外側まで送ってくれた。カリフォルニアの太陽が強く照りつけるなか、僕ははっとわれに返った。自分が道の脇にブラッド・ピットと並んで立ち、ウーバーが来るのを待っているという、とんでもなくシュールな現実に気がついたからだ。

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