BY AMANDA FORTINI, PHOTOGRAPHS BY SEAN DONNOLA, TRANSLATED BY NHK GLOBAL MEDIA SERVICE
セヴィニーは、正確で詳細に記憶している思い出を無尽蔵に持っているようだった。「ドクター・ショールのサンダルは禁止されていたの、階段で危ないから」と、ミドルセックス中学校の前で車を止めるときに彼女は言った。丘の上に立つ校舎はコロニアル・リバイバル様式で、風格のあるレンガ造りの古い建物だ。その後、彼女がダリエンのジュニア・セーリング・プログラムに参加していたときにレッスンを受けたというウィード・ビーチへ行くと、彼女は青い海の遠くのほうを指さして 言った ――「あの頃、ここの水はすごく汚れていて、しょっちゅう、とびひに感染していたの」。私たちが海岸に立ち、ロングアイランド湾を眺めていると、ここはアニー・リーボヴィッツが『ヴァニティ・フェア』誌のために私の写真を撮ったところでもある、と彼女は説明した。そして「あれは『レジェンド』特集号のための写真だった」と顔をしかめて言い、いかにもおかしそうに大笑いした。
彼女は、自分が故郷について「複雑な」思いを抱いていると認めた。この地域が小説の『ステップフォードの妻たち』や『アイス・ストーム』の舞台になったことには理由がある ――コネチカットの“ゴールド・コースト”とも呼ばれるフェアフィールド郡は、ダリエンのほかに、グリニッジ、ノーウォーク、ニューケイナンなどを含み、富と特権の砦のような場所で、保守的で堅苦しい土地柄だからだ。ダリエンは、全米でも最も裕福(平均世帯所得は208,906ドル)で、人種的に最も均一(94パーセントが白人)なコミュニティのひとつだ。「ここは、バブルの中にある場所なの」とセヴィニーは皮肉っぽく言う。
2015年に『コネチカット・ポスト』紙が「コネチカットで最もスノッブな町」と呼んだダリエンには、カントリークラブが四つ、ヨットクラブが二つ、ハンティングクラブが一つある。セヴィニーの家族は、そのいずれにも所属していなかったという ――「うちはメンバーじゃなかった。うちの親は、子どもにBMWを買ったりもしなかった。見るからに高級な住宅地だから、こんなことを言うと嫌みに聞こえるかもしれないけど、私たちは周りの人たちほど恵まれていたわけじゃないの」