BY AMANDA FORTINI, PHOTOGRAPHS BY SEAN DONNOLA, TRANSLATED BY NHK GLOBAL MEDIA SERVICE
近くのコネチカット州ニューケイナンの町にあるモービル石油のガソリンスタンドは、 セヴィニーが仲間たちと何時間も過ごした「象徴的なティーンのたまり場のひとつ」だった。しかし兄よりもさらに崇拝していたのは、彼のガールフレンドでサンフランシスコからダリエンに引っ越してきたエリーだった。ブルーの髪とドクターマーチンとキルトというスタイルのエリーは、セヴィニーにとって最初のファッション・アイコンだった。「この町では彼女みたいな人を見たことがなかったの」と彼女は振り返る。「とにかく彼女みたいになりたかった」
私たちは思春期のセヴィニーの反抗の足跡をたどっていった。平屋造りの自宅は、「抜け出すには好都合だった」という。ウィード・ビーチの裏のイバラのやぶは、夜中に家の窓から抜け出してきた若者たちがいちゃいちゃしたり、手作りのマリファナ用水キセルを試したりした場所だ。午後遅くになると、私たちは近くのニューケイナンの町にあるモービル石油のガソリンスタンドまで車で行った。彼女や運転免許を持っていない友人たちは、そこまで車で送ってもらい、たむろしていたらしい。
「そう、ここよ」と彼女は言って、かつては公衆電話が並んでいた、薄いグリーンの配電盤があるところで止まった。次に私たちは、立派なオークやカエデの並木がある曲がりくねった道をのぼり、 ウェイブニー・パークまで行った。そこは250エーカー(約100ヘクタール)の緑地で、テキサコ社の創設者のひとりであるルイス・ラップハムが建てた宮殿のような大邸宅がある。「ここではよく、アコースティックギターの演奏をしていたわ」と、落葉した木の下の冬の芝生に立って彼女は言った。「演奏をしていたのは私じゃなくて、マロリーという男の子だった」
どれも郊外に住む一般的なティーンエイジャーの反抗と変わらないように見えるが、ひとつだけ重要な違いがある ――マンハッタンのベッドタウンであるダリエンに住むセヴィニーには、一般的なティーンエイジャーとは違い、きらびやかな都会にアクセスするチャンスに恵まれていた。彼女は長年にわたって父親と一 緒にマンハッタンに通い、老舗玩具店のFAOシュワルツやメイシーズ百貨店へ行き、「マドンナがショッピングをする店だから」とせがんでフィオルッチに連れていってもらっていた。
ティーンエイジャーになると、週末にひとりで出かけるようになり、スケーターたちと遊んだり、クラブに行ったりした。彼女がいかにして発掘されたかというストーリーは今や有名だが、その話によれば、17歳のセヴィニーが茶褐色のコーデュロイのオーバーオールを着て6番街のニューススタンドの前に立っていると、当時は雑誌『Sassy』のエディターだったアンドレア・リネットが彼女の姿に目を留めてモデルをやらないかと誘い、その後、インターンとして彼女を採用した――アイスクリーム・パーラーで見いだされたと言われている女優ラナ・ターナーの逸話を90年代に置き換えたような話だ。
それから間もなく、『Sassy』のスタッフと親しかったキム・ゴードンが、バズカットにしてツイッギーのような雰囲気になったセヴィニーをソニック・ユースの1992年の「シュガー・ケイン」という曲のビデオに出演させた。そのあと、セヴィニーがワシントン・スクエア公園でぶらぶらしていて知り合ったハーモニー・コリンが、『KIDS/キッズ』のジェニー役に彼女がいいのではないかとラリー・クラーク監督に提案した。セヴィニーの名声は思いがけない幸運によるものとして語られることが多いが、活躍を続ける彼女の持久力は、善良で堅実な郊外生活によるところが大きいのかもしれない。
そう思わされたのは、彼女が毎週日曜日のミサに参加していたセントジョンズ教会を訪ね、ろうそくに火を灯して黙禱している姿を見たときだ。ここで父の葬儀が行われたのだと彼女は小声で教えてくれた。そして、彼女が母に会いにいくときには必ず食事をするというポスト・コーナー・ピザへ行き、藤色のビニール張りのブースに座ってミートラバーズ・ピザを彼女と一緒に食べながら、高校を卒業してからずっと5年に1回の同窓会に出席しているのだと彼女がしぶしぶ認めるのを聞いたときにも、同じように思った。
「本当に小さいとき、幼稚園の頃から、女優になりたいと思っていたの」と彼女が話してくれたのは、女優になったのは、よく言われるように偶然の出来事がきっかけだったのかと私が質問したときだ。彼女は演劇のサマーキャンプに参加し、コマーシャルに出演し、カタログのモデルをしていたが、あるとき母親にそのような仕事を止められた。「でもあの『Sassy』のことがあって」と彼女は語った。「思ったの、『私はきっと何かをする』って」