’70年代ベルリンの架空のダンスカンパニーを舞台にした、ルカ・グァダニーノ監督の最新作『サスペリア』。そのロケ地に選ばれたのは、イタリアにある1912年築の廃墟同然のホテルだった

BY ALICE NEWELL-HANSON, PHOTOGRAPHS BY MIKAEL OLSSON, TRANSLATED BY IZUMI SAITO

 ワインバーグは、グラン・ホテルがどのように魔女の巣窟へと変貌を遂げたかを説明してくれた。いかにも『サスペリア』らしくひねりのきいた話だが、記事内の写真を撮影してくれたフォトグラファーのマイケル・オルソン自身も、映画の中で小さな役を演じている。ドイツ人警察官のエージェント・グロックナーという人物で、劇中にたった3人しか登場しない男性のうちのひとりだ。


キッチン

画像1: 映画『サスペリア』のロケ地に潜入
――荒れ果てたホテルは
こうして魔女の巣窟となった

’70年代ベルリンの不穏な空気が『サスペリア』全編を通して渦巻く中、マルコス・ダンス・カンパニーの建物は意図的にその時代からは乖離した雰囲気を帯びている。「このカンパニーが、不気味なまでに長く、何世代にもわたって存在しているという感覚を与えたかったのです」と、ワインバーグは解説する。このため、魔女たちの生活空間には様々な年代の家具が並ぶ。上の写真にあるキッチンでは、ワインバーグとグァダニーノはモダニズム初期のインテリアを再現した。初めて大量生産された作り付けキッチンの一つで、オーストリア人建築家マルガレーテ・シュッテ=リホツキーが1926年にデザインした「フランクフルト・キッチン」、そしてオランダのロッテルダムにある1933年築のゾンネフェルト邸、この2つが重要な参考資料となった。

カンパニーの建物内の他の部屋が贅沢で印象的なのに対して、「ここは彼女たちの世界における、実用的な部分」なのだと、ワインバーグは言う。「魔女の日常や日課を考えるのは、最高だったわ。彼女たちは確かに魔女ではあるけれど、毎朝ローブのままこのキッチンに降りてきて、コーヒーを淹れてタバコを吸い、プレッツェルにマスタードをつけて食べるはず、という具合にね」

カンパニーの寮の部屋

画像2: 映画『サスペリア』のロケ地に潜入
――荒れ果てたホテルは
こうして魔女の巣窟となった

「寮の部屋を作るのはとても楽しい仕事でした。まず骨格は、’30年代に建てられた施設のようなイメージと決めました」。その上にワインバーグのチームは、寮に住む少女たちの持ち物という形を借りて、現代的なディテールを重ねていった。「私たちはダンサーたちそれぞれのバックグラウンドを思いつきました。例えば、デヴィッド・ボウイが大好きな子――その子は髪まで切って、ボウイみたいに染めている――と言うように。彼女の部屋にはボウイのポスターをたくさん用意しました」

また、ワインバーグらは、当時ベルリンで活動していたバンドについても調べ上げ、ダンサーたちならどんなクラブに出入りしただろうかと想像を巡らせた。「’70年代の超アンダーグラウンドなバンドから、ポスターの使用許可も取りました」とワインバーグ。「現代的なカルチャーを少し混ぜ合わせるために、目覚まし時計や電話などで、いかにも’70年代のプラスチック製品らしいポップな色も足しました」

マダム・ブランの住居

画像3: 映画『サスペリア』のロケ地に潜入
――荒れ果てたホテルは
こうして魔女の巣窟となった

ティルダ・スウィントンが演じる二人のキャラクターのうちの一人、カリスマ振付師のマダム・ブランは、より豪華な部屋をいくつか占拠して住んでいる。ワインバーグは、リビングに隣接した漆黒のダンスルームのために、名高いフランスのカーペットメーカー「ラ・マニュファクチュール・コゴラン」にラグを特注した(他にも同社によるラグが二種、別の部屋で登場する)。

「早い段階から、私たちは魔女を象徴する隠れたグラフィック的要素を取り入れようと決めていました。幾何学模様の一種で、バウハウス様式のかぎ爪モチーフはその一つです。ポスターにも、ダンススタジオのドアにも使用しましたし、ひいてはこのかぎ爪モチーフで写真にある万華鏡のようなカーペットも作りました」。壁は、グァダニーノの作品『君の名前で僕を呼んで』に出てくる17世紀のヴィラでもテキスタイルを手がけた、イタリアのブランド「デダール」社による質感のあるシルバーのファブリックで布張りされている。

1970年代のクロイツベルク

画像4: 映画『サスペリア』のロケ地に潜入
――荒れ果てたホテルは
こうして魔女の巣窟となった

「私たちの設定では、カンパニーはクロイツベルクにあります。ベルリンの壁からすぐの場所です」とワインバーグは言う。「でも当初は、まさかベルリンで撮影するとは思いませんでした。だって正直なところ、’70年代の街並みなど今となってはほぼ残っていませんから」。それでもなお、ワインバーグらはドイツへとロケハンに向かい、まるで手つかずで宙に浮いていたかのような一片の場所をベルリンに見つけた。「それらをどう撮影し、見つけてきた別々の街角をつなぎ合わせていくか。私たちは非常に上手くやる必要がありました」

さらに、当時を思い起こさせるような装飾を加えて、街並みを作り上げていった。「’70年代のクロイツベルクに関するビジュアルリサーチをたくさんしました。例えば、ここでは住民と彼らを追い出そうとする政府や警察との間で争いがあり、窓からは不法占拠者の立ち退きに抗議する垂れ幕がたくさん吊り下げてありました」。映画のセットでは、垂れ幕に“満室“と書かれている。

祝宴の間

画像5: 映画『サスペリア』のロケ地に潜入
――荒れ果てたホテルは
こうして魔女の巣窟となった

グァダニーノ監督と彼のクルーは、カンパニーの隠れた地下世界を“ムッターハウス”、または“母の家”と呼ぶ。その中心には“祝宴の間”として知られる、魔女たちが儀式を執り行う部屋がある。ワインバーグとグァダニーノは、グラン・ホテル・カンポ・デ・フィオーリの開廊を使い、その開口部を塞ぐことで、この空間を生み出した。

「これらの大きな壁面を使うであろうことは、二人とも分かっていました。そしてこの空間にふさわしい壁の風合いを見つけようとしました。ただ塗るだけにはしたくなかったんです」。ワインバーグはそう語り、「髪の毛を使うというのは、ルカ(グァダニーノ監督)のアイデアでした」と教えてくれた。制作チームは何週間もかけて、麻ひもを三つ編みに編み上げ、髪のような彫刻的な塊を作った。「壁は、魔女の犠牲者の髪の毛から出来ているという設定なんですよ」

「サスペリア」
2019年1月25日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
公式サイト

 

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