BY YOKO SHINTANI
キャリア初の大規模な展覧会を開くにあたって、ザ・ローリング・ストーンズは言い得て妙なタイトルを選んでいる。ずばり『EXHIBITIONISM-ザ・ローリング・ストーンズ展』。説明するまでもなく“exhibition”は“展覧会”を意味するわけだが、“exhibitionism”となると“自己顕示癖”を指す。思えば彼らは生粋のexhibitionist集団であり、東京・TOC五反田メッセで始まろうとしている本展は、これまで半世紀以上にわたって、“俺ら、すごいでしょ”と自己を顕示してきたロックンロール・バンドのミュージシャンシップとショウマンシップを、様々なアングルから伝えている。
2016年4月から9月まで、バンドの故郷であるロンドンのサーチ・ギャラリーで開催され、以来ニューヨーク、シカゴ、ラスヴェガス、ナッシュヴィルとアメリカを縦断し、シドニーを経て東京にやってきた『EXHIBITIONISM-ザ・ローリング・ストーンズ展』は、現在の4人のメンバー――ミック・ジャガー、キース・リチャーズ、チャーリー・ワッツ、ロン・ウッド――が自らプロデュース。本人たちが深く関与しているという点において、開催者側に内容が委ねられていたデヴィッド・ボウイの『DAVID BOWIE is』やピンク・フロイドの『Pink Floyd: Their Mortal Remains』といった、同様に大きな話題を呼んだ近年の展覧会とは一線を画している。
キュレーターには、米国のクリーヴランドにあるロックの殿堂で展覧会部門のディレクターを務めていた、アイリーン・ギャラガーを起用。両者の密なコラボレーションによって生まれたこのストーンズ・ワールドは、スタイル、フィルム、アート&デザインなど9つのセクションで構成。いずれもカラフルでポップなトーンでまとめられ、楽器、衣装、ポスター、写真、手書きの歌詞、ステージ模型など、バンドのアーカイヴやコレクターから集めた500点以上のアイテムで埋め尽くされている。
コラボレーションといえば、その時々に最高のクリエイターたちの手を借りて自らのイメージを作り上げてきたストーンズ。アート&デザインなら、アルバム『スティッキー・フィンガーズ』(1971年)のあのジッパー付きジャケットを手がけたアンディ・ウォーホルから、結成50周年に際してロゴをアップデートしたシェパード・フェアリー。スタイルなら、70年代にミックのために多数のジャンプスーツを提供したオジー・クラークから、2013年のツアーでキースのワードローブを担当したエディ・スリマンまで。そしてフィルムなら、上映が禁じられているドキュメンタリー映画『コックサッカー・ブルース』(1972年)の監督ロバート・フランク、ライヴ映画『シャイン・ア・ライト』(2008年)を撮ったマーティン・スコセッシ…… と、そうそうたる名前が並ぶ。
なにしろ活動を始めたのは1962年にさかのぼるだけに、本展を観覧することは、半世紀分のポップ・カルチャーの歴史をたどるのも同然。当時まだ「ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ」の学生だったデザイナーのジョン・パッシュが1971年に考案した、あのアイコニックな唇のロゴにまつわるストーリーについても、本展の中で詳しく触れている。ストーンズは音楽にしてもヴィジュアルにしても、ずば抜けて実験的、あるいはコンセプチュアルなアプローチをとる人たちではないが、それだけに難解な説明を必要としない。とにかくどこを見ても、そのスケールの大きいこと、派手なこと、挑発的なこと、そして面白いことをして、自らが楽しみ、ファンを楽しませてきた彼らの、旺盛な遊び心が感じられるはずだ。
中でも、年代順に衣装を披露しているスタイルのセクションはさすが、ため息が出るような華々しさで目を引く。実際に衣装を提供したことがあるアナ・スイ、トミー・ヒルフィガー、ジョン・バルベイトス、3人の音楽マニアのデザイナーがコンサルタントを務めたという。展示の大半を占めるのは、個人的にかなりの点数を保管していたミックの衣装で、若い頃は時にフェミニンなファッションも自由に取り入れ、ボウイやクイーンのフレディ・マーキュリーに劣らぬジェンダーレスな演劇性を誇った彼の、ファッション・アイコンとしての存在感を今さらながらに思い知らされる。