歌舞伎ワールドへようこそ。劇場の扉、時空の扉、そして心の扉を開いて、絢爛たる異世界へと誘う連載。第九回は、2020年新春、二つの大役に初挑戦する尾上松也さんに話を聞いた

BY MARI SHIMIZU

 もうひとつの大役、同じく古典三大名作のひとつ『仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)』七段目の大星由良之助もまた、言動と本音とが一致しない人物だ。赤穂浪士の大石内蔵助(役名は大星由良之助)が、主君の仇討ちのため吉良邸に討入る大望を心に秘めながら、それを悟られないよう廓で遊興に耽っているエピソードを描いた物語だ。

画像: 「新春浅草歌舞伎」より。『仮名手本忠臣蔵 祇園一力茶屋の場』大星由良之助=尾上松也 © SHOCHIKU

「新春浅草歌舞伎」より。『仮名手本忠臣蔵 祇園一力茶屋の場』大星由良之助=尾上松也
© SHOCHIKU

 艱難辛苦に耐える浪士を束ね、やがて偉業を成し遂げる赤穂藩の家老。松王丸や源蔵とは年齢も置かれた立場も異なる。
「大将としての風格を備えながら、脱力感のようなものも必要。ちょっとくだけた部分もありそれらをナチュラルに、貫禄と雰囲気で見せなければならない。若くして容易に勤められるお役ではありません。ですのでお話をいただいた時はたいへんに驚きました。
 一生のうちに誰もが経験できるお役ではありません。貴重なチャンスをいただいたので、ここで何かひとつでもつかめたら自分にとっても強みになる。大きなお役を一か月勤め続けることで、自分に返ってくるものは必ずありますから」

画像: 「新春浅草歌舞伎」の初日、出演者たちによる鏡開きの様子 © SHOCHIKU

「新春浅草歌舞伎」の初日、出演者たちによる鏡開きの様子
© SHOCHIKU

 2019年、松也さんは歌舞伎座で大きな経験をした。「團菊祭五月大歌舞伎」の夜の部で『御所五郎蔵』の主人公である五郎蔵を初役で勤めたのである。
「五郎蔵はいつか浅草で経験できたらと思っていたお役でした。それが歌舞伎座の、しかも自分にとって特別な公演である團菊祭で勤めさせていただけるなんて夢のようなお話です。足が震えて歩けないくらいの緊張感がありました。ですが気持ちはそうであっても実際にそうならなかったのは、浅草を始めいろいろな公演で大役を経験させていただいたおかげです」

「團菊祭」とは九代目團十郎と五代目菊五郎を顕彰する公演のことだ。2005年に他界した松也さんの父・六代目尾上松助が師事したのは、六代目菊五郎の芸を継いだ二代目尾上松緑。松也さんは代々続いた”歌舞伎の家”の生まれではないのだ。
「あの時は久々に父のことを思いました。『五郎蔵』は父が大好きな芝居で松助襲名の演目でもありました。襲名のお祝いというわけでもなく、團菊祭で自分が五郎蔵をさせていただくことを父はどう思うだろうと」

 道標である父を若くして失った松也さんは、志を共にする仲間と歌舞伎自主公演「挑む」を2009年に立ち上げ、ほぼ毎年のペースで公演を行ってきた。公演の運営も含めそこで磨かれたリーダーシップは「新春浅草歌舞伎」でも余すところなく発揮されている。

「由良之助に関しては近年感じたことないほどの不安があります。だからこそ、自分が試される時。このタイミングで経験させていただけることをポジティブにとらえ、先の将来も見据えてこの大役に臨みたいと思います」

新春浅草歌舞伎
演目:第一部『花の蘭平』『菅原伝授手習鑑 寺子屋』『茶壺』
   第二部『絵本太功記 尼ヶ崎閑居の場』『仮名手本忠臣蔵 祇園一力茶屋の場』
会期: 2020年1月2日(木)~1月26日(日)第一部11:00~、第二部15:00~
会場:浅草公会堂
住所:東京都台東区浅草1‐38‐6
料金:1等席(1階席・2階席ぬ列まで)¥9,500、 2等席(2階席ね、の列)¥6,000、3等席(3階席)¥3,000
公式サイト
<チケットの購入は下記から>
電話: 0570-000-489(チケットホン松竹)
チケットWEB松竹

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