BY DAVE ITZKOFF, TRANSLATED BY NAOKI MATSUYAMA
―― 名前が出てくる他の有名人には、本の登場人物であることを伝えていますか?
キャリー みんなにこの本と、何をやろうとしているのかを説明する手紙を送っています。
ヴァション 「Dear Gwyneth(親愛なるグウィネス・パトルロウへ)」みたいにね。
キャリー この本は風刺でありパロディですが、敬意をもって書きました。ほとんどの登場人物は、私が心から尊敬する人たちです。
―― それには、法的な理由から、小説内で「レーザー・ジャック・ライトニング」(註:電光石火のレーザー男の意味で、映画『ミッション:インポッシブル』(1996)の主演トム・クルーズをほのめかしている)とだけ呼ばれている人物も含まれますか?
キャリー あれは、ハリウッドの訴訟文化をからかっているだけです。トム・クルーズは、知り合いです。殴られるかもしれませんが、芸術作品のためだったら、それぐらいは致し方ないでしょう。彼も気に入ってくれると思いますけどね。

「私の表現者人生の今の時点で、自分に起きた実際の出来事を時系列で書き留めることほど退屈なことはありません」とキャリーは話す
PHOTOGRAPH BY LINDA FIELDS HILL, STYLED BY STACEY KALCHMAN
―― ダナ、このプロジェクトを『サンセット大通り』(1950)のリアル版のように感じたことはありますか?
ヴァション もちろん。
キャリー (楽しそうに目を見開いて)だとしたら、僕はどの登場人物かな?
ヴァション どちらかというと、『バートン・フィンク』(1991)の方を頭に浮かべていましたね。でも、心配になった時にはもう手遅れだった。
キャリー 確かに、このプロジェクトの虜になっていましたね。
ヴァション ただ、8年間ずっとこの仕事だけに没頭していたわけではありません。最後の2年間で本当に一生懸命、集中してやりました。お互い常に他のことにも取り組んでいました。
―― この本は、主人公のハリウッドへの強烈な不満と、自分の仕事や業績からの疎外感を非常に生き生きと描いています。ジム、それはあなた自身の本音をどれだけ表していますか?
キャリー 『トゥルーマン・ショー』は、間違いではなかったんです。私は、ある日突然上を見上げて、機械や照明が空から降ってくるのを見始めた男なんです。私がやってきたプロジェクトはすべて、古い自分を壊し、新しい何かを探求すること、自分自身をつくり直すことでした。これまでのキャリアのなかで、私は観客に多くを求めてきましたし、観客は私にいろいろなことを試させてくれました。ある意味、それを私に期待してくれているんだと思います。いつも通りのことは、私には求めない。
―― ダナ、このプロジェクトを通して別の作家になったと思いますか?
キャリー (ヴァションに)言うことに気をつけろよ……。
ヴァション 誰かと8年も一緒に働いて、何も変わらないということはありえないと思います。このプロジェクトは、私を自由にしてくれました。ニューヨークの人はひとつの物語に何年もかけます。このような東海岸的な「神の声に耳を傾ける」という姿勢に対して、ロサンゼルスの人たちは「とりあえずやり遂げよう」という手際の良さと自信をもっている。書くことは孤独ですから、一緒に書くパートナーがいたのは素晴らしいことでした。午後3時に「よ!元気?今日は何してんだ?」 という感じでも、まるで仕事をしているかのように感じました。
―― ジム、クリエイティビティやセレブリティに関して、違った理解にたどり着いたと思いますか?
キャリー アーティストとは、神聖な火花を守る人です。どんなに複雑で奇妙な性格をしていても、何か神聖なものとつながりを持っていて、作品を通してそのつながりを他の人に与えることができます。それが、私が唯一ずっと望んできたことです。笑えることをやっても、シリアスなことをやっても、小さい頃からずっと、ただ人を不安から解放したいと思ってきました。この本はその一例なんだと思います。そして、この本を通して、私たちはそこに到達したと思っています。人が「それ」に触れることができる場所にたどり着いたんです。
筆者のDave Itzkoffは文化記者。最新著書に2018年5月に出版されたロビン・ウィリアムズの伝記『Robin』がある。@ditzkoff
この記事は、別バージョンで2020年6月6日発行のニューヨーク版『New York Times』のCセクション一面に、「Another Jim Carrey, Even More Far-Fetched」というタイトルで掲載された