障害のある俳優たちが、ブロードウェイの演劇やハリウッド映画、そして評判の高いテレビ番組にキャスティングされるケースが増えつつある。彼らは、アーティストであると同時にアクティビストとして活躍する新しい土台を創造してきた。エンターテインメント産業とその観客たちがもつ常識に異議申し立てをし、「インクルージョン」という言葉が、真に何を意味するのかを問い直すために

BY MARK HARRIS, PHOTOGRAPH BY PHILIP CHEUNG, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

 ライアン・オコンネルはうんざりしていて、怒り心頭に発しており、さらに悶々としていると、みんなに知ってほしいのだという。オコンネルは、彼いわく「我々の真実の姿を見てもらえる瞬間」が訪れるのを待ちくたびれている(彼の俳優仲間の中にはそれを「我々が脚光を浴びる瞬間」という言葉で表現する者もいる)。その瞬間とは、これまで無視され、ステレオタイプな型にはめられてきたマイノリティの存在を人々に知らしめるポップカルチャーが彗星のごとく登場すること、または、何らかの賞を受賞して大きな話題になり、広く、普遍的に大衆に知られ、特別扱いされない社会につながるような機会のことだ。

 彼はそんな変革がまだ実現していないことに腹を立てている。「しょっちゅう、このことについて考えてるよ」と彼は言う。「レイシズムに関して感覚が研ぎ澄まされてきた我々の社会では、これまで隅に追いやられてきた人々に、大きな光があてられている。それなのに、障害のある人間は、なぜいまだにほとんど無視されているのか?」。脳性麻痺がある俳優の彼は、こうも言う。「障害のある人々が、実際にきちんと自分たちの存在を代表するチャンスが、喉から手が出るほど欲しい。なぜなら、我々は資本主義の国に住みながら、暗黒に満ちた悲惨な状況を生きているからだ。真の力は、機会があってこそ蓄積できる。自分自身のストーリーを伝えるには、まずその機会にアクセスする鍵を与えられる必要があるんだ」

画像: (左から)俳優のライアン・オコンネルとニック・ノヴィッキー。ロサンゼルスにて2020年7月8日、フィリップ・チェンが撮影

(左から)俳優のライアン・オコンネルとニック・ノヴィッキー。ロサンゼルスにて2020年7月8日、フィリップ・チェンが撮影

 実際のオコンネルは、彼が発するそんな言葉のトーンよりは、何というか、もう少し明るいムードだ。33歳の彼は、Netflixの短編シリーズ『スペシャル 理想の人生』に出演しているスターだ。2月に私が彼と話したときは、そのシーズン2の撮影中だった(新型コロナウイルスの感染拡大により現在は撮影が中断されている)。この作品のシーズン1は、エミー賞の4部門にノミネートされ、そのうちの2部門が、番組のクリエイターであり主演も務めたオコンネル個人のノミネートだった。『スペシャル』は、オコンネル本人のような、ゲイであり障害者である、ロサンゼルスの若い住人の個人的な暮らしをテーマにしている。さらに主人公と社会との関わりや、主人公が性的に自己開示していく過程をも描いた、穏やかで内省的でありながら、セクシーなコメディだ。

 オコンネルが一番最初に、ほかのテレビ番組で脚本家たちと一緒に働き始めた頃、彼の症状は見た目には軽度だったため、障害について公言することはなかった。彼が“障害をカムアウトした”のは、5年前に『I’m Special: And Other Lies We Tell Ourselves(私はスペシャル:そして、私たちが自らに言い聞かせるその他の噓のこと)』という自伝を出版したときが初めてだった。彼の番組もこの本がきっかけで生まれたのだ。『スペシャル』のエピソードは1回15分間と短い。15分といえば、つい、90年代の『サタデー・ナイト・ライブ』に出てきたクリス・ロック演ずるアフロヘアの過激なキャラクター、ナット・エックスを思い出さずにいられない。ナット・エックスは、彼のレイト・ナイト・シリーズが短時間に設定されたのは「もし自分にそれ以上の時間を与えたら、それは生活保護政策だということになってしまうからだ!」と文句を言っていた。

 オコンネルは、誰からもお情けを受ける気はないと、Fワード交じりの陽気で興奮した口調でまくしたてる。彼は目に見える形で動きが起きてほしいのだ。「ハリウッドは、隅に追いやられてきた人々にまともな機会を与えないまま、彼らの物語を使って金儲けをすることに強欲だ」と彼は言う。私がこの記事のためにインタビューした障害を抱えるすべての演者たちと同様に、彼はほとんど無意識のうちに、業界内で彼が見てきた同業者たちの成功例や金字塔を記憶していた。その中には健常者が犯しがちな愚かな過ちも含まれている。

 彼が今年のオスカーの授賞式を見ていたときのことだった。2019年のインディ映画のヒット作品『ザ・ピーナッツバター・ファルコン』に出演した、35歳のダウン症の俳優、ザック・ゴッツァーゲンがプレゼンターを務めたときの観客の反応がひっかかったと、オコンネルは言う。「彼がひとつの文章を口にすると、それがまるで革命的なことであるかのように人々が拍手をしたんだ。まるで『素晴らしい、よかったね。あなたは4つの単語をちゃんと話した!』と言わんばかりに。彼はれっきとした大人なんだよ! 話すことぐらいできるんだ! 彼を幼児扱いするのはやめろ!」。オコンネルは息を吸い込み、話すスピードを落とし、声を1オクターブほど低くした。「僕は、ハリウッドが『彼らを締め出せ! 彼らを締め出せ!』と叫んでいるような邪悪な存在だとは思っていない。だが、もっと進歩してほしいんだよ」

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