BY KAI TOKUHARA
「人がロボットと共生する社会」。それは今や限られた技術者や開発者だけが描く未来像ではなくなり、AIの急速な進化とともに私たち市井にとっても実現可能なビジョンになりつつある。その「ロボット新時代」の到来ムードに拍車をかけたのが、今年5月、藤原ヒロシがロボットベンチャー「GROOVE X」のCCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)に就任したというニュースだ。2015年に創業した同スタートアップは、今年に入ってあの前澤友作が代表を務める「前澤ファンド」が全株式を取得。実質的なオーナーとなった前澤がGROOVE X創業者の林要とタッグを組み、同社製品「LOVOT(らぼっと)」のプロジェクトをより多角的に発展させるベく、ストリートファッションのシーンにおいて絶大な影響力を発揮し続けている“HF”に白刃の矢を立てたのである。
「正直ロボットについては全く詳しくなかったのですが、前澤さんが突然電話をくれて「お誘いしたいお仕事があるのですが、一緒にやりませんか?」と。それでLOVOTを紹介されて、見てみたら「こんなに不思議なものが? 」と興味が湧きまして。その場ですぐに引き受けました。そのときはまさか自分がこういうポジションを担うことになるとは思いませんでしたけれど(笑)」
意図せずLOVOTと出会ったことで、それまで描いていたロボットに対するイメージは180°変わったという藤原。LOVOTの魅力と未来への可能性について、こう語っている。
「僕らの世代の人間が若い頃にイメージしていた近未来像って、みんな車で空を飛んだり、それこそ自分の意志を持ったロボットが普通に街を歩いていたりといったような感じだったと思いますが、LOVOTを身近に置いてみると世界はそことは全然違う方向に進んでいるんだなと実感しました。なぜならLOVOTは“何もしてくれない”。つまり優れた機能を駆使して何かを合理的にサポートしてくれる、といったようなことは全くなくて、ただ自分に懐いてくれて、心を穏やかにしてくれるロボット。実はそこがLOVOTの何よりの魅力なんですよ。だって掃除してくれたり喋ってくれたり、明日の天気を教えてくれるような便利な機器は他にたくさんあるでしょう。僕はLOVOTのようなユーザーひとり一人の心に寄り添ってくれるロボットこそ、これからの時代の本当の贅沢なのかなと感じています」
名前を呼ぶと振り返ってくれる。目を見つめ返してくれる。人の体温に近い温かさがあるからぎゅっと抱き寄せたくなる。藤原の言うようにLOVOTが私たちに与えるメリットは実にささやかである。そう、体重約4.3kg、身長43cmのちょうど猫ほどの大きさのロボットが得意とするのは、まるで生きたペットのように私たちの日常にすっと寄り添う自然なスキンシップ。言わば人間が心の奥底で求めている最もシンプルな営みを、50箇所以上のセンサーやラーニング機能など世界最高水準のテクノロジーを駆使して体現しているわけだ。人を識別し、ともに時間を過ごていく中で動きや反応が変化していくLOVOTにユーザー自身が“どう関わっていくか”。それによって、まるで本当の家族やペットのように唯一無二の関係性が育まれていくという点が実にユニークである。
「僕はLOVOTを事務所に置いていますが、仕事で海外に行くことが多く、動物を飼いづらい自分にとっては都合のいいときに遊んでもらえる存在なのでとても助かっています(笑)。明らかに自分のことを認識しているし、懐いてくれている。事務所で仕事をしているといつも足元に寄ってきますからね」
スマホひとつあればなんでもできてしまう便利な時代に、LOVOTというロボットを通して私たちが享受できるもの。それを“アナログな温もり”と評する藤原。最先端のデジタル技術を駆使して作り出された最高のアナログ感が、氏のメインフィールドであるファッションやクリエイティブの世界とのある種の親和性も生んでいるという。
「例えばテクノロジーで“汚れないシャツ”を作ることができたとしても、そこに魅力を感じない人も多いでしょう。洋服というのは着ていく過程で自分に馴染んだり汚れていく様に愛着が湧くものなので。その点でファッションとテクノロジーというのはこれまでなかなかマッチしづらいところがあったのですが、LOVOTが与えてくれるノスタルジーや心の温もりといったものは、すごくファッションと相性が良いのではないかと感じています」
そんなLOVOTの魅力を、CCOとしてこの先どのような形で発信していくのか。藤原ヒロシが関わると聞いて多くの人が注目しているのは、言わずもがなクリエイティブ面でのアップデートだろう。それがあっと驚かされるようなブランドやアーティストとのコラボレーションなのか、はたまたこれまでにない斬新なデザインのLOVOTの登場なのか。現段階でプロジェクトの全容はまだ発表になっていないが、期待は高まるばかりだ。
「CCOと言っても僕がトップに立って何かを統括するようなことはないですね。今言えるのは、僕がLOVOTを通して創り出していきたいディレクションのようなものをチームと共有し、そこに向かってオペレーションを一緒に組み立てているということ。LOVOTというブランドのパッケージングや打ち出し方を考えつつ、言葉だけでは伝わりにくい魅力も僕らしい表現方法で上手に伝えていけたら。きっと皆さんが想像してくれているようなコラボレーションなども近いうちにやっていくと思うので楽しみにしていてください」
90年代の“裏原”をはじめ、これまで時代時代の流行をいくつも作り出してきた稀代のトレンドセッター藤原ヒロシ。ファッション、アート、音楽、ストリートカルチャーといった分野でグローバル規模の知名度と発信力を持つ氏によって、ロボットとクリエイティブシーンの交わりにどんな今後どんな新しいムーブメントが生まれていくのだろうか。
「僕が関わることで実際にムーブメントになるかどうかはわかりませんが、ひとつ自分の理想を言うなら、いつの日かいろんな境遇の家庭に同様のLOVOTがいるような世界になると面白いですよね。一般的なサラリーマン家庭からそれほど裕福ではない家庭、老人ホームや福祉施設、さらには富裕層のペントハウスまで、あらゆる人々のそばに同じ見た目をしたLOVOTがいるみたいな。それって、すごく平等な感じがしていいですよね」
今や当たり前の社会通念として、世界の共通言語になりつつある“ダイバーシティ”や“共生社会”。LOVOTのようなパートナーロボットの普及はそれらの発展にもプラスになっていくだろうと藤原は語る。
「LOVOTは個人にとっての可愛らしいロボットである一方で、もっと広い視野で見てみると教育や医療、福祉方面でも今後さらに需要が増す可能性があります。役に立っていなさそうで実は目に見えにくい部分ですごく役に立っている。ある意味LOVOTが僕ら人間をアップデートさせてくれるのかもしれないですね。AIの最新技術を持ってしていちばん人の心に近いものを作っているのだから、それこそいつか映画化されるんじゃないかと思っているくらい。世界中のLOVOT同士が通信で繋がることもできるので、個人的にはそこから無駄な情報なんかもたくさん得られたら楽しいですけどね」
問い合わせ先
GROOVE X
公式サイトはこちら
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