BY KANA ENDO
白人社会を皮肉たっぷりに描く『ホワイト・ロータス / 諸事情だらけのリゾートホテル』シーズン2
『ホワイト・ロータス/ 諸事情だらけのリゾートホテル』は、高級リゾートホテル「ホワイト・ロータス」でバカンスを過ごす裕福な宿泊客と、彼らをもてなす従業員たちの一週間を描いたブラックコメディだ。シーズン2では、シーズン1のハワイからイタリア・シチリア島に舞台を移し、陽気な南イタリアの雰囲気に時折差し込まれるシチリア名物の置物テスタ・ディ・モーロが不穏さを醸しながらストーリーが展開していく。
主な登場人物は、セクハラ発言が絶えない祖父、セックス依存症で離婚危機の父、大学を卒業したてでうぶな息子の3世代家族。人前でも新婚カップルのようにいちゃつく鼻持ちならない夫婦と、彼らに誘われて渋々バカンスに同行した毎朝の新聞チェックとジョギングを欠かさないセックスレスの友人夫婦。そしてシーズン1から引き続き登場の謎多き女性ターニャとそのアシスタントだ。ニューリッチからオールドリッチまで様々なタイプの富裕層と、ホテルのマネージャーやホテルに出入りする娼婦が群像劇を織り成していく。シーズン1同様、冒頭でバカンス中に誰かが死ぬことが匂わされるが、それが誰なのか最終話まで全く予想できない。
シーズン1はエミー賞・リミテッド・シリーズ部門の作品賞のほか4部門を受賞、シーズン2はゴールデングローブ賞・リミテッド・シーズン部門で作品賞と助演女優賞を受賞し、文句なしにアメリカで最も話題になったドラマだ。特にシーズン1から続投したターニャ役のジェニファー・クーリッジは、エミー、ゴールデングローブの両賞で助演女優賞を獲得しており、一躍時の人に躍り出た。シーズン1では、白人富裕層がもつ特権を皮肉たっぷりに描き、ホモフォビア、マチズモというテーマも織り交ぜた。まるで自分たちが弱者にでもなったかのように「白人として生きるのが辛い時代だよね」という描写に苦笑いしてしまう。シーズン2でもシーズン1同様、白人富裕層の高慢さを痛烈な皮肉を込めて描き出し、そこにアモーレの国、イタリアが舞台ということで愛とは、幸せとは何かを問いかける内容となっている。
シーズン1では白人が先住民族から奪い取った土地にリゾートを建設し、そこで搾取されながら働く地元住民の苦しみも描かれるが、シーズン2では、シチリアに伝わるテスタ・ディ・モーロの伝説が伏線となっているのも見事だ。テスタ・ディ・モーロとは、シチリアに伝わる伝説から生まれた人の顔を象った置物で、不義理を働いた外国人の男の首をシチリアの女が切り落とし、ベランダに飾ったというものだ。ホテルの客室や街角など、時折映し出されるテスタ・ディ・モーロが、不穏さを演出するとともに、物語の伏線となっていく。また、シスターフッド要素も見逃せない。搾取される側である娼婦や娼婦と敵対していたホテルのマネージャーが連帯していく姿は、終始ヒリヒリするストーリーのなかのオアシスのように、平穏で幸せな気持ちにさせてくれる。
当初1シーズンで終了する予定だったという本作だが、あまりの人気の高さにシーズン2が制作され、シーズン3も予定されているという。米VARIETY誌に掲載されたインタビューで監督マイク・ホワイトは「シーズン1のテーマはお金、シーズン2はセックスでした。シーズン3は、死をテーマに東洋の宗教とスピリチュアルを風刺したコメディになる」と語っている。アジアが舞台になるシーズン3の公開が待ち遠しい。
カオスな厨房は社会の縮図、見事なカメラワークも見逃せない『一流シェフのファミリーレストラン』
カーミーはニューヨークの一流レストランでシェフとして働いていたが、サンドイッチ店「ザ・ビーフ」を経営していた兄の死をきっかけに地元シカゴに戻り、店を受け継ぐことに。しかし「ザ・ビーフ」は、これまでカーミーが働いていたNOMAなどの星付きレストランとは異なり、厨房は古く荒れていて、従業員の足並みはバラバラ。包丁を隠されるなどの嫌がらせを受けつつも、カーミーは店をより良くしようと一生懸命格闘していた。そんな中、アメリカで最も権威のある料理学校を卒業し、有名店で経験をつんだシドニーが「ザ・ビーフ」でスーシェフとして働きたいと応募してきた。優秀な彼女だけがカーミーをリスペクトしており、シドニーに助けられながらレストランの改革に乗り出すが、前職でメンタルを傷つけられており、それがトラウマのようにフラッシュバックしてしまう。さらに店には多大な借金があることが判明し、次第に八方塞がりになっていく。
物語は厨房を舞台に繰り広げられるため、常に人が動き周り怒号が飛び交い、まるでドキュメンタリーを見ているかのように忙しなく、一瞬たりとも目が離せない。ワンカットで撮影されたシーンもあり、カオスと化したキッチンの様子をリアルに描き出す映像は圧巻だ。現実世界でもピークタイムの厨房はまさに戦場で、いかに円滑に作業を進めることができるかが、料理の味を左右してしまう。これまでのやり方を変えたくないティナやリッチー、やる気に満ちて張り切り過ぎてしまうシドニー、一つのことに執着してしまい協調性をなくすマーカスなど、チームはなかなか一つにまとまらない。しかしカーミーはどんな時も彼らに対してリスペクトを忘れないのだ。汚い言葉でダメ出しもするが、前菜担当でも肉担当でも、全員のことを“シェフ”と呼び、常に彼らをリスペクトしている。うまくいった時は褒めて感謝の意を伝えるうちに、徐々に全員がお互いのことを“シェフ”と呼び始め自然と敬意を持って接するようになっていく。
会社や学校、また家族であっても、それは異なる意見を持った人間の集合体だ。意見の対立があった時、解決できるか否かは、相手に対する敬意があるかどうかにかかっている。本作はそんなリーダーシップや組織論を描いていく。劇中、意外と料理描写は多くないが、シカゴにしかないというイタリア風ビーフ・サンドイッチが食べたくなるのは必至だ。
若き天才実業家から詐欺師へと転落していく実話『ドロップアウト 〜シリコンバレーを騙した女』
「ビリオネアになるのが夢」と語り、スタンフォード大学で勉強に励んでいたエリザベス・ホームズ。在学中に一滴の血液から100種類以上もの検査を可能にする小さな血液検査デバイスのアイデアを思いつき、退学してベンチャー企業「セラノス」を起業する。学費を資金に充てるもすぐに底をつき、投資を募ろうと躍起になっていたエリザベス。プレゼンの日、試作機がうまく作動しないことがわかっていたが、別のデータを使い試作機が完成しているように見せかけた。その後もデータを誤魔化し続けるが、若い女性創業者であったエリザベスはネクスト・スティーブ・ジョブズともてはやされ評判だけが独り歩きしていく。しかし内部告発により不正が発覚し、エリザベスは時代の寵児からシリコンバレー随一の詐欺師へと転落する。
実際に起きた事件を扱った本作は、ABCニュースのポッドキャスト『The Dropout』を基に制作された。ほとんどの登場人物が実名で、シリコンバレー最大の詐欺と言われる事件の内実が生々しく描かれる。特にエリザベス・ホームズを演じたアマンダ・サイフリッドの演技は白眉で、エリザベスの低い声や独特な喋り方を見事に再現し、特殊メイクを施したかのように顔が変わって見えてくる。その演技が高く評価され、エミー賞とゴールデングローブ賞のリミテッドシリーズ部門で主演女優賞を受賞した。
新しい技術で多くの人を救いたいという理念から、なんとしてでも成功したいという思いに取り憑かれ、開発途中のままサービスを実用化。結果多くの一般人に虚偽の検査結果を提供し、健康を脅かすことになってしまう。本来の目的を失っていくエリザベスの罪は重いが、取締役や出資した企業にもその責任はある。また本作からは倫理そっちのけで、情報をいち早く掴んで、ライバルを出し抜きたいというスタートアップの危うさやシリコンバレーの闇が垣間見える。2022年11月18日、カリフォルニア州北部地区連邦地裁はエリザベスに11年3ヶ月の禁固刑を下した。一方相棒であったバルワニに対しては、12年11ヶ月とエリザベスより長い禁固刑を下している。エリザベスはバルワニを虐待で告訴し、セラノスの失敗の責任をバルワニに押し付けようとしているようだ。まだこの事件は終わっていない。
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