BY JUNKO HORIE, PHOROGRAPHS BY KAZUYA TOMITA, STYLED BY SATOSHI YOSHIMOTO, HAIR & MAKEUP BY TAKAI
「近代演劇の父」と称されるノルウェーの劇作家ヘンリック・イプセンが1886年に書いた『ロスメルスホルム』は、古く凝り固まった時代から新しく解放されつつある時代の中、保守的な思想と進歩的な思想の人々との対立を、緊張感のある心理描写で描いた人間ドラマだ。イプセンの最高傑作ともいわれる本作で主人公ヨハネス・ロスメルを演じる森田剛に、舞台で演じることに対する想いを聞いた。
──舞台作『ロスメルスホルム』はノルウェーの劇作家、イプセン原作。人間の奥底が見えてくる心理描写の深い人間ドラマです。
森田 イプセンの本を読むと、言葉ではこう言っているけど、裏ではどう思っているかわからない……そういうところが多い気がするんですよね。お客さんも「この人こうは言っているけど本当は?」って思いながら観ることになると思うので、たぶん疲れるだろうなと(笑)。
──作品についての森田さんのコメントの中に、観る方にも「集中力と体力がいる」とあるのは、そういうことなんですね。
森田 やっぱりナマで観るお芝居って、もらうものが直でくるから。今、携帯電話で何でも見られる時代じゃないですか。それとは違うものが劇場にあるとは思うんですよね。だから、一度はナマで触れてみるのは、俺はいいと思いますね。……疲れちゃうんでね、実は俺もそんな多く観に行ったりはしていないので、偉そうなことは言えないんですが(笑)。それくらいのパワーがナマの舞台にはあるし。そのパワーは一方通行じゃない気がして。舞台に立っている人だけのエネルギーじゃないと思っているんですよ。観てくださる方も含めて、空間を作っていると。そこに魅力を感じています。
──そういう観る側の役目も考えると、おいそれと行けない(笑)。
森田 作品にも寄りますけどね、体力いりますよね。
──『ロスメルスホルム』は1886年に書かれた作品で、保守的な思想と進歩的な思想の人々との対立が描かれていますが、時代背景や社会性を考えても、脳も感性もフル回転しそうで。
森田 難しい言葉も多く、わかりやすい作品ではないと思います。けど、その中から、どの言葉を聞きとるか、それは観る方の自由で。解釈も自由。俺はそういうものが好き。難しい言葉で描写されていたとしても、言っていることと本心は違うって、自分たちの日常にもあることなので。そこを面白がっていただけたらなと。演じる側としても、そこを見つけられたら楽しんでやれそうだと思っています。
──森田さんは海外戯曲とのご縁も続いていますね。
森田 前回もそうですけど、海外の戯曲をやらせてもらっていますが、あまり得意じゃないといいますか。これでダメだったらもう辞めようっていうくらいの苦手意識で、毎回、挑んでるんですよ。その反面、そこに飛び込んでいくことは自分にとってチャレンジだし、可能性もすごく感じているんですね。演出の栗山(民也)さんをはじめ、「この役を僕に」って思ってくださったスタッフの方の気持ち、得意ではないところへの挑戦もあって、やりたい! と思いました。内容に関しては、まだ台本をほとんど読めてない状態で。自分から「台本はなるべく早くあげてください」と我儘を言って。台本を傍には置いておきたい。けど、まだ見たくない……という。今はそんな状態です(笑)。しばらくしたら、稽古の始まりに向けて、台本と向き合うことになると思いますが、今はまだ……チャレンジしたいっていう気持ちだけです。
──ただ楽しむものじゃない、舞台に立つ俳優としての真摯さ、厳しさを、お話を伺うたびに感じるのですが、チャレンジし続ける礎といいますか。舞台に立つ喜びを教えてくれたのは?
森田 初主演舞台ですね。『荒神〜AraJinn〜』のことは忘れないですね。……他の作品も全部覚えているんですけど、特に。人として、たくさんの愛情をいただいて、すごく嬉しかったのを覚えています。
──今回、共演する三浦透子さんとは初共演。
森田 ポスター撮影のときに初めてお会いして、まだお話はできてないんですが、自分とは種類が違う方だなって思っています(笑)。
──俳優としては、作品を観たご感想とか。
森田 映像とか拝見しましたし、素敵な方だと言うことは皆さんわかってらっしゃることだと思います。ただ、俺はあまり演じる人としてどうとか、感想は持たないほうで。作品を観ているときも役として見ていますし。お会いする前に、どういう方か調べたりもしないし。こういう人だっていう情報は、自分にとっては邪魔になる情報かもしれない。共演するにしても、お互いにまっさらな状態で向いあうのがいいなと思います。稽古場でお会いするのを楽しみにしていますね。
──プライベートで、森田さんをワクワクさせる、ときめかせる何か……好意を抱いているものはありますか?
森田 植物とメダカとゴルフ。……と犬。
──メダカは初めてお聞きしましたが、それ以外は長年好きと公言されていますね。
森田 植物でも、今はこれにガッと興味が強くなっているとかは、ありますよ(笑)。サボテン熱が上がっていたり。けど、おっしゃる通り、基本好きになったら長いですね。
──昔、ボウリングに通っていらしたこともあったかと。
森田 ボウリングね(笑)。……今はゴルフですね。ゴルフが長くなりました。
──今、熱が上がっているのは?
森田 植物だとアガベ。あとは、オーストラリア系の植物ですね。オーストラリアの植物は葉っぱが特徴的なんですよね。色がちょっとシルバーがかっていたりとか。すごい鮮やかな花が咲いたりとか。最近はそれがすごく好き。
──植物が生活の中に在る、それは何かきっかけが?
森田 そんな意識的なことではなかったと思うけど、ここまでハマったから、結果的にかなり好きだと思うんですよね(笑)。ホントは俺、植物の種類、名前とかどうでもいいんですよ。だから、好きなんだけど全然詳しくは覚えない。でも、家にいる葉っぱを見ているとね、“今、水が欲しいんだな”とか、水をあげたときにグッと元気になった瞬間はわかるから。そういうところが本当に好き。それだけですね。
──観葉ではなく、生き物として向き合っている。
森田 そうなのかな? 何でこんなに好きなのか、自分でもわからないですけど。
──けれども、観劇は趣味にも入らないんですね(笑)。
森田 ……そう(笑)。いや、観ないってわけではないんですけどね。
──演者が必ずしも、観劇も好きである必要はないと思いますが。エンタメは、森田剛ご自身の生活からは、少し離れたところにあるのでしょうか。
森田 あると思いますね。映画は比較的、観に行くほうなんですけどね。このあいだ、始まってわりとすぐに寝ちゃって(笑)。そのまま、気付いたら終わりでした。作品を観るという、心構えができてないんだろうなぁって。そういうところは俺、ダメだなぁって(笑)。観たいと思って映画館にまで出かけていったのにね。
──映画は好きでも、その中に特に好きなものがあって、それ以外は関心が薄いのでしょうか。自分の中での“好き”は年を重ねるごとに明確になっていくのは、わかります。
森田 そうですね。観ることもそうですし、自分にやれること、やれないことも含めて、自分の中の何かが見えてきますよね。
──同じ考えで、森田剛さん主演映画『前科者』はすごく感性が揺さぶられた映画でした。
森田 ありがとうございます。でも、相手役の有村(架純)さんに完全に引き出された感があって、自分が表現したってことではないと思います。自分から出す力なんて、ホントないんですよ。演出家の方、共演者の方に引き出してもらって。でも、自分の心が空っぽではダメで。埋まっていてこそ、まわりの方々の言葉が聞けるんだと。言葉に反応出来るんだと思います。役を演じるときは、そういう準備をして、敏感でいたい。
──引き出させる力がある俳優であるのかと。今、水を欲していることを気付かせる植物のように。
森田 演じるって、難しいですよね。地方公演まであって、何度もやらせてもらって。そのたびに鮮度がいいものをお見せしたいと思う。……演者が慣れちゃうほどつまらないことってないじゃないですか。常に心が新鮮であること、それが本当に大事だなって思いますね。
森田剛(もりた・ごう)
1979年2月20日生まれ、埼玉県出身。V6および、Coming Centuryの元メンバーとして活躍。NHK大河ドラマ『毛利元就』(1997年)、『平清盛』(2012年)などに出演し『ヒメアノ~ル』(2016年)で映画単独初主演。舞台俳優としても高い評価を得ており、『FORTUNE』(2020年) 、『みんな我が子』(2022年) など出演作多数。