BY REIKO KUBO
昨年のカンヌ国際映画祭のオープニングを飾ったフランス映画『ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人』。18世紀、59年にわたって国王に君臨し、恋多きことでも知られたルイ15世をジョニー・デップがフランス語で演じたことでも話題を呼んだ。ヒロイン、ジャンヌ・デュ・バリーは、ポンパドゥール夫人亡き後、ルイ15世の最後の公妾としてヴェルサイユ宮殿を牛耳った女性。平民出身の私生児として生まれ、修道院で本を読み漁る一方、性に目覚めて“悪魔の子”として追放された。やがて貴族の愛人となり、高等娼婦のような暮らしをしていた中で、ポンパドゥール夫人を亡くし悲しみに暮れていたルイ15世に見初められ、宮廷入りする。国王の寵愛のもとヴェルサイユ宮殿で権力を握る時期もあったが、マリー・アントワネットの輿入れ後は冷遇され、やがて宮廷を追われ、フランス革命の断頭台の露と消えた。
鏡の間をはじめ、ヴェルサイユ宮殿を使っての撮影、華麗な衣装やかつらなど、絢爛豪華な宮廷生活を背景に、波乱の人生を生きた女性の真実に迫る本作。監督を務めただけでなく、自らデュ・バリーを演じたマイウェンは、ベトナムやアルジェリアにルーツを持つ俳優一家に生まれ、同じアルジェリア系のイザベル・アジャーニ演じるヒロインの子供時代を演じた『殺意の夏』(1983年)等で、子役から演技の道へ。17歳でリュック・ベッソンと結婚、そして離婚。精神的な問題を公表するなど難しい時期を乗り越え監督デビューを果たすと、2011年の監督作『パリ警視庁:未成年保護特別部隊』でカンヌ国際映画祭審査員賞を受賞、『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』(2015年)では同映画祭女優賞をエマニュエル・ベルコにもたらすなど、一作ごとにガラリと作風を変えながら話題作を発表し続けている。
──ソフィア・コッポラ監督作『マリー・アントワネット』(2006年)で、アーシア・アルジェント演じるジャンヌ・デュ・バリーを見て魅了されたそうですが、どんな部分があなたを惹きつけたのでしょうか。
マイウェン ジャンヌがスクリーンに現れた瞬間、すごくはっきりと人や物を利用する勇気を持った彼女の虜になりました。彼女と宮廷内の他の人とのズレも興味深かったです。彼女は貧しい生まれから自力で成長し、あの時代にすべて自分自身の手で掴んできた人。そういう意味で、ものすごい勇気と荒々しさを見せつけるところが私は好きで、ジャンヌに私自身とのつながりを強く感じました。
──王族や貴族出身の人々に囲まれ、平民出身の高等娼婦だった過去も含め、宮廷では異質な存在だったジャンヌ。マリー・アントワネットにおもねる人々からは冷遇されても、ルイ16世となる皇太子や、その他の貴族や従臣など、ジャンヌのウイットや言葉のセンスからか、彼女を気に入る人々が描かれていますね。
マイウェン 宮廷内では蔑みや対立がありながら、様々な書物には彼女を好んだ人々も少なからずいたと書かれています。なにより恋多きルイ15世が一目で彼女を気に入ったわけですから、やはり彼女はとても魅惑的で、才能があり、機転が利いて賢かったと思うんです。加えてとてもコンプレックスを抱えた複雑な人だったはず。ただあっけらかんとした性格だったら、彼女の人生はもっと平凡だったに違いない。彼女の複雑さが大きな魅力であり、波瀾万丈の人生を呼び込んだんだと思います。
──そんなジャンヌの人生に共鳴し、誰よりも表現できるという想いから、自ら主演に臨まれたのですか。
マイウェン 私も自ら学び、成長してきましたから、自分で教養を身につけ、自分で学び、そして自分で何かを掴む人に深く共鳴するんです。ジャンヌに心酔するあまり、他の役者をイメージすることができなかったんです。
──ジョニー・デップが演じたルイ15世もまた、これまでになくキャラクターが際立ったルイ15世でしたね。
マイウェン 様々な本を読んでみた結果、とても寡黙で、ところどころに複雑さやダークな面があり、なおかつ大きな苦しみを抱えているといった、私が感じたルイ15世を描きたかったんです。ジョニー・デップ自身にも個人的な裁判があり、複雑さや苦しみを抱えていると思ったので、彼に思い切ってオファーしたんです。
──フランス映画界もこれまで二世、三世や特権階級で占められていた世界だったと思いますが、あなたもジャンヌのようにその中で闘ってきたという思いがありますか。
マイウェン 映画に限らず、どんなことをしていても周囲との闘いはあると思います。つまり自分が表現したいものがあって、それを表現するためのイニシアチブを取るためには、それはもう激しく闘わなくちゃいけない。その闘いが嫌なら、もう仕事を変えた方がいいわけです。映画監督という仕事はもちろん大変な時もありますが、それでもとても豊かなものをもたらしてくれる。そのために闘うことを私は厭いません(笑)。
マイウェン(Maïwenn)
1976年フランス出身。俳優、映画監督、脚本家。子役から活躍し、『フィフス・エレメント』(1997年)、『ハイテンション』(2003年)などに出演。監督としては、『PARDONNEZ-MOI(原題)』』(2006年)で長編映画監督デビュー。カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した『パリ警視庁:未成年保護特別部隊』(2011年)、『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』(2015年)では、出演・監督・脚本を務めた。本作が7本目の監督作。