BY OGOTO WATANABE
デザイナーの名を冠せずに、良い服を作りたいーー。デザイナーの強烈な個性やアクの強さを前面に出さず、シンプルで上質なものをつくる。それが、ディエチ コルソコモという、世界に名だたるセレクトショップを作り上げたカルラ・ソッツァーニの望んだことだ。
「『私はデザイナーじゃないから』というのが、カルラさんの口グセでした」。研壁さんはそう言って微笑む。「ここはこうしたほうがいいという彼女の指摘はいちいち鋭い。それは本当に勉強になりました。彼女は典型的なイタリア人とも違って、東洋的な文化に興味を持ち、美の感覚も東洋に近いものを持っていました。モダンな価値観の持ち主で、独自の女性観も持っている」
96年に独立した後は、フリーのデザイナーとして国内外で活動。アルベルト・ビアーニのもとでもデザインを担当した。ビアーニといえばパンツのスペシャリストでもある。パンツはメンズのテーラリングが基礎になる。「パンツは、いわば二本の筒で足をカバーするもの。その二本の筒でいかにヒップは高く、脚は細く長く見せるか。どういうパンツがかっこいいのか、みっちりと学びました」。その頃から“サポートサーフェス”プロジェクトとして年2回、自身の作品の展示を行っていたが、2003年に基盤を日本に据え、2006年からサポートサーフェスとして東京コレクションに参加する。
服は“作品”ではダメなのだ。着る人がいることが大前提である。それが研壁さんの持論だ。「ショーの次の“新作”(商品)が僕にとっては一番初々しいんです。“作品”であるよりも、“商品”のほうが背筋が伸びる。アートは自分が好きであれば成立します。製品や商品はそれを着る人、見る人のことを考えなければならない。値頃感だって無視できない。今や、ほどほどのものはネットやファストショップでいくらでも買えるんです。そうでないものは、相当なこだわりを持ってやらないと、わかってもらえません」
着てこそわかるよさを極めるということだろうか。
「もちろん着心地も大事だし、細部に至るまで機能性も必要です。でも着てみたいというワクワクする気持ちを誘う魅力的なもの、新鮮さも大切だと思っています」。細部まで、例えばファスナーのテープの素材や色まで徹底的に吟味する。機能だけではなく、そこにストーリーがあると、よいデザインが成立するのだと言う。
「いい服を作りたい。“こう来たか!”と感じてもらえる新鮮な刺激も大事にしたい。いい意味で、お客様を裏切るものを作りたいです。一歩ではなく、半歩先で」。研壁さんは服を作るとき、ある程度までは勢いよく進める。そのあといったん止めて、少し寝かせるのそうだ。
「ものを一所懸命作っていると情が入ってしまう。そうなると判断が難しいんです。時間が加わることで、唯一、客観性の入る余地ができる。それが新鮮なものなのか独りよがりなものなのか、時間を入れることで、情から離れて冷静に判断するゆとりが生まれるんです」