どこか思索的で、演技への静かな情熱を秘めた若き役者。ノスタルジックなチェックを身にまとった坂口健太郎は、そんな役柄を一瞬で服から感じ取り、普遍的、かつ現代的な青年像を描いてみせた。最近、仕事に欲が出てきたという彼が、演技者としての現在地を語る

PHOTOGRAPHS BY MASANORI AKAO, STYLED BY TAICHI SUMURA, HAIR & MAKEUP BY RUMI HIROSE, TEXT BY MASAYUKI SAWADA, MODEL BY KENTARO SAKAGUCHI

 やわらかな光が差し込むクラシカルな洋館。チェック柄の服を身に纏い、本を片手にひとりカメラの前に立つその姿からは、まるで文学青年か演劇青年といった風情が漂う。「チェックってどこかノーブルな感じがありますよね。それもあって、学生のときはチェックの服を着ることにちょっとした気恥ずかしさみたいなものがありました。でも、今は意外と好きな柄かもしれないです。今回着た服は、あくまでも僕の感覚になりますけど、いい意味でくすんだようなテイストがあって、それがちょうどなじむというか、どれもすごく着やすかったです」

画像: あたかも父のクローゼットに眠っていたかのような、ノスタルジーを感じさせるチェックのコート。オーセンティックなムードを楽しみつつ、ショートパンツで軽やかな現代性を加えて着こなしたい コート¥425,000、ニット¥167,000、シャツ¥74,000、パンツ¥99,000(すべて予定価格) プラダ クライアントサービス(プラダ) フリーダイヤル: 0120-451-913

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 語り口は穏やかで、物腰はやわらか。本人は「ただ普通にやっているだけ」と言うが、撮影が始まっても特に気負った様子もない。知名度が上がり、自身を取り巻く状況が劇的に変化しても、その佇まいはどこまでもマイペースで自然体だ。実際、世間ではそうした人物像で語られることが多い。しかし、明るく人懐っこい笑顔の一方で、ふとしたときに見せるフラットな表情はどうにも捉えどころがなく、容易に本心をつかませない。人はさまざまな顔を持つものだが、自分の性格については「柔軟に見せているけれど、実はけっこう頑固」だと話す。

画像1: バックステージ映像 FILMED BY HIROKI HONMA vimeo.com

バックステージ映像
FILMED BY HIROKI HONMA

vimeo.com

「僕、意外と自分勝手なんですよ。ニコニコしているのも、人あたりがいいように見せているだけで、それもすべては自分が大事だから。要するに、ずる賢いんです(笑)。でも、ずる賢いというのはそんなにネガティブな表現ではないと思っていて、結局すべてを受け入れることなんてできないし、無理して自分がダメになってしまったら意味がありません。自分を守りながら、周りの人たちにもイヤな思いはさせない。それがいちばんいいことだと思うんですよね」

 坂口健太郎は、男性ファッション誌『メンズノンノ』の専属モデルとしてそのキャリアをスタートさせた。俳優業を始めたのは2014年。「映画に出てみたい」という漠然とした思いからだった。その後は、NHK朝の連続テレビ小説など、次々と話題作に出演し、演技の幅を広げるとともに着実に評価を高め、今年はついに『シグナル長期未解決事件捜査班』で連続ドラマ初主演を果たした。

画像: バーバリーのアイコニックなチェックを大胆にアレンジしたポンチョ。インにデニムジャケットやシャツをレイヤードして、今どきなボリューム感を演出 ポンチョ¥240,000、ジャケット¥220,000、シャツ¥64,000(すべて予定価格) バーバリー・ジャパン(バーバリー) TEL. 0066-33-812819

バーバリーのアイコニックなチェックを大胆にアレンジしたポンチョ。インにデニムジャケットやシャツをレイヤードして、今どきなボリューム感を演出
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バーバリー・ジャパン(バーバリー)
TEL. 0066-33-812819

「このあいだ仕事で後輩と対談する機会があったんですけど、『坂口くんって、役者をやっていてどんなときに達成感を覚えますか?』と聞かれて、ぱっと答えられるかと思ったら全然答えられなかったんです。そこからいろいろ考えて自分なりに思ったのは、少なくとも評価されたくてやっているわけではないってことでした。僕の中では、役になろうというよりは、役をいちばん理解できる人でいたいというのがあって、そういう共感のパーセンテージが高い役に出会えたときにいちばんやりがいを感じるし、楽しい」

 これまでの出演作を振り返って印象に残っている役柄は多いが、とりわけ鮮烈だったのは映画『ナラタージュ』で演じた小野怜二という役だろう。思いがかなってヒロイン(有村架純)とつき合い始めるが、やがて嫉妬心をコントロールできなくなり、愛と憎しみの狭間で苦しむ役どころをリアルかつ繊細に演じてみせた。

「自分の気持ちをコントロールできない小野は、普通に考えるとひどい男なんですけど、見方を変えれば純粋さの表れであり、彼のそういう正直なところはすごく共感できました。あれほど役の気持ちを理解して演じることができたのは、このときが初めてだったと思います」

 最新作は11月16日に公開される映画『人魚の眠る家』。ある日、ひとりの少女がプールで溺れ、意識不明の状態になる。奇跡を信じる両親(篠原涼子、西島秀俊)はある決断を下すが、そのことが運命の歯車を狂わせていく。坂口が演じたのは、自分が開発を進める技術が治療の役に立っていると信じ、次第に理性を失っていく研究員。映画が完成したとき、監督からこんな言葉をかけられたそうだ。

画像: 男性性の象徴としてのチェックを提案するドリスヴァンノッテン。ジャケットという普遍的なアイテムが着る人の知性やセンスを際立たせる ジャケット¥136,000、セーター¥94,000、パンツ¥50,000、ベルト(参考商品) ドリス ヴァン ノッテン TEL. 03(6820)8104 メガネ(スタイリスト私物)

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ドリス ヴァン ノッテン
TEL. 03(6820)8104
メガネ(スタイリスト私物)

「『坂口くんの役は簡単に悪者になれちゃう役だけど、すごくピュアに演じてくれたことで、結果的にいちばん焦点を向けてほしい家族に目がいくようになった』ということを言われました。そういう役どころだと理解して演じていたので、監督のその言葉はすごくうれしかったです」

 聞けば、来年以降も楽しみな仕事が控えているという。だが、坂口自身、未来を狭めたくないとの思いもあって、これまでは具体的な目標や夢を持たずにやってきた。
「一つひとつのことにあまり一喜一憂したくないというか、未来の自分の立ち位置みたいなものはあえて考えないようにしていたんです。あと、僕の場合、目標を決めてしまうと、そこに向かってまっすぐに歩いてしまう気がするんですよね。僕は寄り道をしたいタイプなので、それだったら目標を決めずに曖昧なままにしておいたほうがいいのかなと。もちろん、寄り道が失敗だったりすることもあると思うけれど、それもいい経験です」

 ただ、最近になってその考えも少し変わってきた。「今までは主役をやりたいと思うことはあまりなかったんです。でも、『シグナル』が終わってみたら、また主役をやりたいなと思っている自分がいて、それはすごく意外でした。きっと欲が出てきたんだと思います。自分なりに欲はあったつもりでしたが、もうちょっと出していってもいいのかなって。そう思うようになりました」

 ずる賢くて欲張り。これはきっと面白いことになる。この先の彼の道のりが楽しみで仕方ない。

坂口 健太郎(KENTARO SAKAGUCHI)
1991年東京都生まれ。2010年に『メンズノンノ』の専属モデルとなり、’14年に映画『シャンティ デイズ365日、幸せな呼吸』で俳優デビュー。主な出演作に、映画『ヒロイン失格』(’15年)、『64ーロクヨンー前編/後編』(’16年)、『君と100回目の恋』『ナラタージュ』(’17年)、『今夜、ロマンス劇場で』(’18年)、連続テレビ小説『とと姉ちゃん』(’16年)、ドラマ『重版出来!』(’16年)、『東京タラレバ娘』『ごめん、愛してる』(’17年)、『コウノドリ』シリーズ(’15年、’17年)、『シグナル長期未解決事件捜査班』(’18年)など。11月16日には出演映画『人魚の眠る家』が公開される

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