ラグジュアリーとサステナビリティは両立できるのかーーグッチをはじめ、さまざまなラグジュアリーブランドを擁するケリング グループのサステナビリティ戦略に、そのヒントがある

BY MASANOBU MATSUMOTO

 そもそも“ラグジュアリー”と“サステナビリティ”は共存できるのか? マイケルは、こう説明する。「たとえばシルクなどファイン・マテリアルと呼ばれる高品質素材は、自然由来のものがほとんど。その自然が作ったものに、われわれはデザインを施して、より美しく価値あるものに仕上げていくわけです。ただ、自然資源は有限。その意味で“ラグジュアリー”という価値のあるものを提供し続けるためには、自然に配慮し、責任を持つことが不可欠。むしろ“サステナビリティ”と“ラグジュアリー”を共存させることこそが、われわれの役目でしょう」

 なによりデザイナーたち自身がそのことをよく理解しているとも話す。「特にわれわれのクリエイティブチームは若い世代が多く、ライフスタイル自体、サステナブル志向のメンバーが多い。今もっともホットなクリエイティブ・ディレクターと言える、グッチのアレッサンドロ・ミケーレやバレンシアガのデムナ・ヴァザリアも、サステナブルなものづくりに社会的な意義を感じ、自分の意見をオープンに述べています」

 また、E P&Lに基づいたプログラムの実施と同時に、新しい素材などのイノベーションにも注力する。ケリングは、“きのこの幹細胞を原料にしたレザー”など、サステナブルな素材開発を行う「マテリアルズ・イノベーション・ラボ」を設置。このラボには、グループ内の特に若い層のクリエイターたちから“サステナブルな素材を使いたい”との要望が多く寄せられるそうだ。「そうした新素材から、コレクションのアイデアを得ることもできるでしょう。サステナビリティ戦略は、デザイナーが新しいチャレンジをする、良い機会にもなっていると思います」

 では、日本の場合はどうだろうか。今回のワークショップにパネリストとして登壇した、ユナイテッドアローズの上級顧問、栗野宏文は「サステナブルな取り組みをしている企業でも、もし事業の一部でも、環境にマイナスなアクティビティがあれば、“グリーン・ウォッシング(見せかけのサステナブル)”だと強く叩かれるかもしれない。個人的には、日本はサステナビリティに対する取り組みが遅れているとは思いませんが、そういう理由も含め、声高に言わない企業が多いのではないでしょうか」と話す。 おそらく、“余剰品はどうしているのか?”と質問をしたら、多くのアパレル企業は、答えを出ししぶるだろう。「弊社でも洋服の廃棄について、報道番組の取材を受けたことがあります。そのとき、なぜ余剰品が出てしまうのか、そしてどう対応しているかを包み隠さず話しましたが、視聴者から非難の声はありませんでした。やはり正直であること、透明性があることが、いっそう大切になってくると思います」

画像: (左から) ボイトラー、ユナイテッドアローズ上級顧問の栗野宏文、テキスタイルメーカーNUNOのデザインディレクター須藤玲子、司会の杉山ハリー。栗野はユナイテッドアローズが行っている「リ・ストア&フリー・ユナイテッドアローズ」、「東北コットンプロジェクト」などの取り組みを紹介。須藤は生地の残布を再利用し、新しいテキスタイルを作る自身のプロジェクトを説明した PHOTOGRAPHS: COURTESY OF KERING

(左から)
ボイトラー、ユナイテッドアローズ上級顧問の栗野宏文、テキスタイルメーカーNUNOのデザインディレクター須藤玲子、司会の杉山ハリー。栗野はユナイテッドアローズが行っている「リ・ストア&フリー・ユナイテッドアローズ」、「東北コットンプロジェクト」などの取り組みを紹介。須藤は生地の残布を再利用し、新しいテキスタイルを作る自身のプロジェクトを説明した
PHOTOGRAPHS: COURTESY OF KERING

 それは、E P&Lの意義にも通じるだろう。なぜ、ケリングでは、E P&Lを導入しコストというネガティブな数値を公開するのか? 透明性の担保は、サステナビリティをさらに推進していくために重要なことであり、また、これからの時代、人々はそこに企業や商品の価値を見出すとマイケルは述べる。「同じ規模の企業があって、一方は不透明。一方は情報を開示していて、さまざまなサステナブルな取り組みを行っている。どちらが魅力的だと思いますか? もし僕が投資家だったら、いろいろな情報をチェックできる会社がいい」。こうも問える。同じような価格、デザインのバッグがあったとき、なにをよりどころにどちらを買うか? ——作り手が透明性を担保し、E P&Lのような指標が標準化されたとき、責任のある選択をとっていかなければいけないのは、われわれ消費者も同じだ。そうした買い手も一緒になった健全なエコシステムを作ることが、ファッション産業の悪評を返上し、本当のサステナビリティを実現させる大きなカギになるのを忘れてはいけない。

T JAPAN LINE@友だち募集中!
おすすめ情報をお届け

友だち追加
 

LATEST

This article is a sponsored article by
''.